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ソルの恋 -悪役令嬢は乙女ゲー的な世界で愛を知る?-  作者: 漆沢刀也
【第三章:流浪剣士編】
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第33話:男が目指すもの

 ソルとリュンヌが、リオンに野盗から助けられた翌日。

 ソルの両親は、フランシアの屋敷へと彼を招いた。


「よく来てくれた。君がリオン=マグニスだね? 昨日は私達の娘と使用人、そして領民達の危ないところを助けてくれたと聞いている。深く、感謝するよ」

 エトゥルが応接室の入り口で大きく両手を広げ、リオンを出迎える。

 それに対し、リオンははにかみながら、頭を下げた。


「いえ、こちらこそ、お招き頂き光栄です。自分はただ、騎士見習いとしての本分を果たしただけですので」

「まあ、そう固くならずに。顔を上げ給え。さあ、こっちへ」

「はい」


 エトゥルの導きに従って、リオンはソル達とは対面のソファへと移動する。そして、エトゥルとティリア、ソルが着席するのを見届けてから、彼も席に着いた。

 フランシア家の側は、エトゥルの両脇にティリアとソルが座り、さらにその隣にリオンが立つ形だ。


 ソルは改めて、リオンの顔を見る。赤みが強く、少し癖がある茶の髪。きりりと引き締まりながらも、優しげな目元。やはり、直に、真っ正面から見るのと、参考用の脳内イメージとはまったく違う。格好良さが10倍。いや、100倍は増して見える気がする。

 落ち着け。落ち着くのよ。ソル=フランシア。緊張のあまり、変な子だって思われたら元も子もありませんわ。冷静になるのよ。


 そう、何度も自分に言い聞かせるが。心臓は早鐘のように鳴り響いて止まってくれない。

 表情筋にまでは、まだ興奮が出ていないと自覚し、安堵するが。

 取りあえず、鼻から静かに、深く息を吸って、気持ちを落ち着ける努力を続行する。


「早速だけれど。用件に入ろう。さっきも言ったけれど、私達は君に感謝しているんだ。だから、何かお礼をしたい。出来る限りの望みは叶えたいのだが、何か希望はあるかい?」

「有り難うございます。そのお気持ちだけで、自分は嬉しく思います」

「何、遠慮は要らないよ。何でも、好きに言い給え」


 ここで「お嬢様を自分に下さい」とか、言って来たらどうしよう?

 勿論、大歓迎である。そんな訳無いと思いつつも、ソルは期待に胸を膨らませた。

 しかし、リオンは苦笑を浮かべた。


「いえ、申し訳ございません。お気持ちは大変に有り難いのですが。生憎と、本当に自分には思い浮かばないのです」

「そうか。欲が無いねえ」

 ふぅむと、エトゥルは首を捻った。

 一方で、ソルは僅かな期待が外れてがっかりした。


「しかし、私達も何も礼をしないというのは、気が済まないのだよ――」

 ここで、いっそのこと「なら、このソルを君の嫁として受け取ってくれないか?」とか言い出してくれないだろうか? そんなことをソルは考えた。


「――なので、何が君に相応しい礼となるか考えたい。そのために、よければ君の話を聞かせてくれないか? 勿論、途中で何か思い付いたら、それを言ってくれて構わない」

「分かりました。自分の話でよろしければ」

 この親父使えねえ。と、ソルは内心舌打ちした。表情にはおくびにも出さないが。

 でもまあ、リオンのことが聞き出せるというのなら、悪くない展開ではあるか。とも思う。


「さっき君は、騎士見習いだと言っていたね。出身はどこなんだい?」

「自分は、クランゼの出身です。海に面した、ここから遙か南の」

「へえ。クランゼかあ。随分と遠いところから旅をしてきたものだね」

「はい。かれこれ、気付けばもう3年も旅を続けております」


「それは、仕官先を探し求めてのことかい? 思ったのだが、君は弓を装備した三人の賊を相手に、無傷で討ち取ったと聞いている。それほどの腕があるのなら、仕官先も引く手あまたのように思うんだけど?」

 しかし、リオンは曖昧に首を横に振った。


「いえ、確かにその様な考えもありますし、実際にお声がけを頂いたことも何度かございました。ですが、どちらかというと、武者修行の旅に近いかも知れません。あちこちで開かれる剣術大会に出場し、実績を積み上げたいと。実を言えば、こちらにもその為に訪れた次第です。それと、お言葉ですが、賊の一人はそちらの少年が討ち取りました。賊が僅かに視線を逸らした隙を見逃さずに、腕に剣を振り下ろしたのです。見事でした」

「ああ、そうだったね。リュンヌ。君もよくやってくれた」

「お褒め頂き、恐縮です」

 エトゥルの言葉に、リュンヌは頭を下げる。


 「ふむ」と、エトゥルは目を細めた。

「しかし、そうまでして実績を積もうとは。どうやら君は、その胸に高い志を抱いているようだね?」

「はい。身に過ぎた大望かも知れませんが。挑戦してみたいのです」

 納得したように頷くエトゥル。そして、リオンは若干恥じ入らんばかりに笑みを浮かべている。

 それだけで、話が通じたと言わんばかりの態度を見せる二人に、ソルは眉根を寄せた。


「お父様? どういうことですの? 私、話が全然見えないんですけれど?」

「うん? ソルは知らないのかい? まあ、女の子だし、ここは田舎だから、それも仕方ないか」

 軽く指先で頬を掻いて、エトゥルはソルに向き直った。


「いいかいソル? この国では、君達が通っている、この街にあるような学校とは違って、別に騎士士官学校という学校があるんだ。残念だけれど、設立条件を満たせるのは、伯爵が住まう都市以上からだから、この近辺には無いけれどね。それに、学費も倍率も高い」

「その騎士士官学校を卒業した者が、騎士として仕官出来るという訳ですの?」


「そうだ。多くはその出身校のある土地か、その周辺の土地の騎士として仕官する。しかし、そうじゃない者もいる」

 とすると、リオンはその例外的な存在。ということか。

 ソルはそこまでを理解し、リオンに視線を向けた。


「王都にある近衛騎士団を初め、名高い騎士団への入団を希望する者はね。このリオンのように、各地を巡って武功を立てたり、剣術大会で優秀な成績を修めたり。そうやって実績を作った上で、入団試験に挑戦するんだよ。所属した騎士団で功績を挙げるという道もあるにはあるが。その場合は、安定した生活が出来る代わりに、有事が起きない限りは武功を立てる機会もまた少ないので、各地を巡るよりも、もっと道が細く厳しいものになる」

「そうです。そして自分も、王都の近衛騎士団に挑戦してみたいと、考えております」


 エトゥルは唸った。

「でも、だとしたら残念だなあ。実を言うと、うちにも丁度、騎士を招きたい土地があって、君に来て貰えたら大歓迎なんだが」

「申し訳ありません。その返答は、今しばらく待って頂いてよろしいでしょうか?」


「うん。もしその気になったら、いつでも言ってくれ。勿論、他のものが望みなら、それでも構わない。あと、それとは別に、君が立てた武勲として、賊を討ち取った証明書を用意させて貰うよ。少しは、君の夢の足しになるかも知れない」

「有り難うございます」

 深く、リュンヌは頭を下げてきた。

 いいよ、いいよと。エトゥルはひらひらと手を振るが。


「じゃあ。他にも君の話を訊かせて貰っていいかな? 例えば、これまでの旅の様子とか、聞かせて貰えるかい?」

「はい。喜んで」

 そこから語られるリオンの話を聞き逃すまいと、ソルは身を乗り出した。

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