第32話:乙女の夢
正直、少し期待はしていた。
だが、その期待通りの結果を確認して、思わずソルは拳を握った。
「リュンヌ。来なさい」
にこにこの笑顔を浮かべて、ソルはリュンヌ自室に召喚する。
「はい、何でしょうか?」
「ねえリュンヌ? 今日、私達を助けてくれたあの男だけれど。攻略出来る可能性はありまして?」
その問いに対して、リュンヌは半眼を返してきた。
「ソル様? そのご機嫌から察するに、既に確認済みのように思えるんですけど?」
「念のためよ。念のため。本当に間違いが無いか、あなたからも確かめたいんですの」
ああ、はいはいと。リュンヌは肩を竦めた。
「ええ、間違いありませんよ。攻略可能な男性です。名前はリオン=マグニス。その方で、ソル様とも認識合っていますよね?」
「そう。やっぱり間違いないのね」
ソルは歓喜に打ち震えた。
「ソル様。一言よろしいでしょうか?」
「何ですの?」
「緩みきった顔と、ぐねぐね揺れる体が、見ていて凄く気持ち悪いです。誰だお前って感じです」
「五月蝿いですわっ!」
とは言いつつも、その声色に怒気はあまり乗らない。
「でもまあ、つまり? ソル様はリオンに惚れてしまわれたんですね?」
はっきりと言われて、顔が熱くなる。
思わず頬を両手で覆い、ソルはリュンヌから顔を背けた。
「うわぁ」
何故か、リュンヌがドン引きした声を漏らしてくるが。
「仕方ないじゃありませんの。私だって、女ですのよ。あんな、窮地で颯爽と助けに来るような殿方が目の前に現れたら、意識しない方が無理ってものじゃありませんこと?」
しかも、確認した設定によると、年の頃は二十代前半。年上で頼りがいがある雰囲気が漂っている。まだ、直接的にはちらりと横顔を見たくらいだが、凜々しい顔立ちをしていた。
「意外と、乙女してますね。ソル様。いえ、正ヒロインとしては正しい反応だと思いますけど」
ソルは唇を尖らせた。
「さっきから何ですのその態度? 何か不服がありまして? 私が早く誰かと結ばれれば、それはあなたにとっても本望なんでしょう?」
「ええ、その通りなんですけどね。なので、これはこれで、僕としても喜ばしい話なんですけど」
軽く息を吐いて、リュンヌは訊いてきた。
「アストル王子については、どのようにお考えなのですか?」
その問いに、ソルはリュンヌへと向き直る。
「別に、アストル王子を諦めたわけでも、想いが消えたわけでもありませんわ」
「と、いいますと?」
「私、アプリルとのことがあって、少し考えましたの。今、出会った相手を想うのなら、精一杯に想うべきだって。それでもダメかも知れないのなら、そうした方が悔いが残らない。それに、それで結ばれたのなら、きっとアストル王子でなくても、その結末で後悔することは、決して無いはずだって」
「だから、今はリオンを全力で想うことにした。そういう訳ですか?」
ソルは頷いた。
「尻の軽い女だって、あなたは軽蔑するかしら?」
リュンヌは首を横に振った。
「そんなこと、思いませんよ。むしろ、まだ直に会ったことも無い相手を想い続けるよりも健全でしょう。それに、誰だってそのときは多かれ少なかれ『この出会いこそが』って思いながらお付き合いするものです。それと同じ話だと思いますよ」
リュンヌの答えに、ソルは安堵を覚えた。
しかしどこか、まだリュンヌの声色からは不機嫌さが混じっているような気がする。
呼んだときから、妙に自分に対する当たりが強かった事もそうだが。
「ねえリュンヌ? さっきから気になっていたんですけれど。あなた、ひょっとして嫉妬していますの?」
「はあっ!? 誰が、何にですか?」
「リオンに、格好いいところを取られて」
途端、リュンヌは明らかに憮然とした表情を浮かべてきた。ふて腐れる子供のように。
「違います」
くすくすと、ソルは笑みを漏らす。
そんなリュンヌの反応が、どこか可愛らしいものに思えた。
ソル「あらあら、リュンヌったら私を守ろうとしたのに、リオンに格好いいところを取られて嫉妬しているんですのね?」
ソル「お可愛いこと」
リュンヌ「色々と間違ってる!」




