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7話 堪忍袋の緒が切れた


「……堪忍袋の緒が切れた」

「「えっ?」」

 

 突然の言葉に、僕と京香さんのトランプをめくる手が止まる。


「今ちょっと神経衰弱やってるんで邪魔しないでもらっていいですか?」

「カミュ様、きっと混ざりたいんですよっ」

「なんかジワジワお前の方が嫌いになってきたわ」


 京香さんになんてことを……と思ったが、ナチュラルに煽るし是非も無い。


「まあ、いい。 もうお前らの言動に腹を立てることも無くなると思えば、全部些細なことだ」


 なんだか出会ったばかりの事を思い起こさせる邪悪な笑みを浮かべ、ガブリエルさんは腕を組む。


「おっ、そろそろ僕達と一緒に暮らす覚悟ができましたか」

「何でそうなるんだ。 チンパンジーにコミュニケーション教わってこい」


 うーむ、辛辣さというか、切れ味はむしろ上がっている気さえする。 なかなか認めてもらえないものだ。


「あたし、ガブちゃんとならやっていけると思うんですけどねぇ……」

「やっていく気なんてさらさらねぇよ。 ま、せいぜい楽しみにするんだな」


 意味深な発言と共に自信満々の笑みを湛え、ガブリエルさんは服を脱ぎ――


「だから! 突然脱ぐのは! やめていただきたい!!」

「風呂入るんだからそりゃ脱ぐだろ」


 天使の羞恥の基準が本当に分からない。


「ガブちゃん! 鼠径部、鼠径部隠して! 早く!!」

「京香さん……僕は子供の鼠径部には興奮しないんだ」

「異世界行かなくてもいいから死んでくれないかなこいつら」


 そう吐き捨てて足音が遠ざかっていく。 どうやらお風呂場に行ったようだ。


「やれやれ……あ、そういえば昨日お風呂入ってないな僕」

「えっ……?」

「ドン引きしないでください」


 不可抗力だったんだ。 この状況に立たされて風呂を優先できる人間がいるだろうか?


「……まあ、確かに不衛生だと言われても仕方なくはあります。 綺麗にしましょうか」

「どうやってですか?」


 最初に取るべきは最もシンプルな手だろう。 僕は風呂場の方へ向き直る。


「ガブリエルさーん! お風呂貸してくださーい!」

「やっぱきしょいわお前」


 風呂場からくぐもった声が返ってくる。 フッ……流石に何度も言われたら慣れてきた気がするな。 傷つくけど。


 ――その後、京香さんは風呂を借り、僕はチートで自力洗浄した。

やっぱり僕の方が嫌いだろガブリエルさん。







「くっ……これも違ったか……」

「うふふふっ、2回戦はあたしが優勢のようですねっ」


 現在風呂上がりの京香さんと神経衰弱2回戦に突入している。 勝負は劣勢。

 っていうかね、お風呂上がりの京香さんの匂いとか少し紅潮した頬とかが気になって集中できません。


「……お前らそんなのが楽しいのか? 特にコイツにチート使われたら勝ち目ねーだろ。 透視くらいならできるはずだぞ?」

「ガブリエルさん、僕は遊びにチートを使うような浅い人間じゃありませんよ」

「クソ下らないことにチート使ってきた奴の言うことじゃねぇな」


 少なくともカードゲームで負けそうだからってズルするようなことは……ヤバイ本当に負けそうだ。 使おうかなチート。


「……よし、アタリだ」

「おっいいですねぇ、負けませんよ~」

「…………」


「あ、あれぇ? ここじゃなかったっけ……?」

「はっはっはっ、残念。 ハートの2はこっちですよ」

「…………」


「キャッキャッ」

「キャッキャッ」

「…………」






「私を無視して盛り上がるなっ!!!!」

「えぇ……?」


 割とめんどくさいなこの人。 混ざりたいならそう言えばいいのに。


「ハァ? 混ざりたいわけじゃねーし? 私のテリトリーで私を無視するのが気に食わないだけだし?」

「ガブちゃんはカワイイですねぇ」

「頭を撫でるなっ!!!」


 こうして見ると姉妹のようだなと、なんとも微笑ましい気持ちになった。

 ……しかしだ。 年数で言えば僕や京香さんの倍どころではないほど生きているはずなのに、この精神年齢は危険なのではないだろうか?


「ガブリエルさん、怪しい男の人とかに付いて行ったらダメですよ」

「急になんだお前」


 僕は純粋にガブリエルさんが心配だった。


「意味がわからん……」

「ともかく、あたし達と一緒にトランプやりましょうよ」

「いや、私はトランプがやりたいわけじゃなくてだな……」

「今度こそババ抜きやりましょうか」

「いや、だからな……」

「大富豪もアリですね」

「うー……」



「…………1回だけだからな」


 押し切った。 そんなわけでババ抜きをやることに決定した。



「……さて、最初は僕がガブリエルさんのを引きますね」

「……おう」


 妙に俯き加減というか、目を合わせようとしない。 これはまさか――


「……じゃあ、これかな」

「――っ!」


「いや、こっちかなぁ」

「…………」


「やっぱりこっち?」

「――っ!」


「スッ」

「――っ!」

「スッ」

「…………」



 わっかりやすっ!!!!!

 人生でここまでババ抜きが弱い存在に出会えるとは、生きてみるもんだ。 いや、僕実質死んでるんだっけ? UN○も弱かったがそれとは別格の弱さだ。


「(…………京香さん!)」

「…………コクン」


 僕の無言の訴えに頷く京香さん。 その顔には複雑な感情が滲んでいる。

 ……わかった、わかったよ。 いきなり惨敗ではやる気を無くしてしまうかもしれないしな。


「よし、こっちにしよう」

「……っ!!」


 わざとババと思われる札を引いてやる。


「ハンッ」

「うわすげえむかつく」


 口角をつり上げ、見下したように息を吐く。 勝ったと思ったのか? あれで?

 というかなんでこの人こんなに笑顔邪悪なんだろう。


「あははは……次あたしですね~……」


 これは、遊びって空気ではなくなってきたな……







「ハハハハハッ! どうだ見たか!! 私の勝ちだ!! 」

「あ、ハイ。 そっすね……」


 なんかすごい疲れた。 ババ抜きってこんなゲームだったっけ?


「オイオイどうした? そんなもんかよ情けない」


 僕達が遠慮に遠慮を重ねての2位だったのに何でこんなイキれるんだろうこの人。


「完全に掴んだぜ。 京香! 次はお前もボコにしてやるよ!」

「はぁ……そうですね」


 ウキウキでトランプを配り始めるガブリエルさん。 これは、あれだ、やっちまおう。


「……京香さん」

「……はい」

「お? なんだなんだ凡人共が――」




 ――その後、5戦にわたってボコボコにしてやった結果、ガブリエルさんはふて寝。 人類の勝利である。


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