最終話 あなたが欲しいんだ
「ヒャハハハハハーーッ!! 起きろ起きろォ!!」
「うるっさ……何ですかガブリエルさん」
トランプで大負けして半ベソかいて寝てたはずなのに、目を覚ませばまた随分元気だ。
「ふわぁ~、ガブちゃんどうしたんでしゅかぁ……?」
あまりの大声に京香さんも目を覚ましたようだ。 まだ寝ぼけているようだが。
「年貢の納め時ってやつだ。 お前達まとめて異世界送りにしてやる」
「お、もう24時間経ったんですか? もう時間間隔分からなくなってきたなぁ」
なにせ外の様子はまったくわからない。 何となく眠くなったら寝ている感じだ。
「いいや、違う。 もうアレじゃお前を異世界送りにはできないとわかったからな」
「ほう? ではどうやって?」
ガブリエルさんは「くくっ」と喉を鳴らすと、大袈裟に両手を広げた。
「あんな生っちょろいやり方じゃない! 今回はさる御方をお呼びしたのだ!」
「割と自分の世界入るタイプだよなぁガブリエルさん」
「よくわからないけど仲良くしましょうよぅ……」
「で、その『さる御方』とは?」
「待ってろ、じきに――」
何かを感じ取ったように、ガブリエルさんは虚空を見上げる。
「――っ! これは……!?」
僕にもはっきりとわかった。 『何か』が来た。
今まで感じたことの無い感覚――『気』だとか『オーラ』だとか、そんな言葉じゃ言い表せない『何か』
「な、なんなんですか、これ……すごく怖いのに、すごく落ち着くような……」
京香さんも僕と同じような感覚を覚えたようだ。 ……ということはチートとか関係無く、人間の本能がこれを感じ取っているということか。
「さあ、来たぞ――」
ピンポーン!
インターホンが、鳴った。
「はーい! ただいまー!」
ガブリエルさんが玄関へ軽やかに駆けていく。
「……あ、普通に玄関から来るんですね」
「てっきりワープみたいな感じかと思いましたね……」
奥から数回言葉のやり取りが聞こえる。 声からすると、来たのは男性だろうか。
「さ、どうぞどうぞ!すぐにお茶をご用意しますね!」
「いやいや、お構いなく」
ガブリエルさんが部屋に招いたのは予想どおり男性だった。
スラっと背が高く、男の僕でも見惚れるレベルの美形である。
「おや、君達が……」
男性はこちらを見て柔らかく微笑む。 イケメンスマイル。 下品にならない程度に整えられた、やや長めの金髪が揺れる。
銀色の瞳に見つめられるとそれだけで魅了されてしまいそうだ。
「そんなに見つめないでください。 男色趣味はないんです」
「あ、はあ……そうなんだ?」
「お前怖いものないの?」
フッ……僕の先制攻撃に相手もタジタジのようだ。
「なるほど……ガブリエル、君が苦戦するのも理解できるね」
「でしょう!? あんなのが一人だけじゃなく二人! もはや私の手には負えません!」
「いやあ、そんなに褒められると……」
「照れちゃいますよねぇ」
「ほら! こんな奴らなんです! 神よ! 私をお救いください!!」
……ああ、やっぱりこの人は――
「……一先ずそれは置いておこう。 自己紹介がまだだったね。 僕はまあ、今彼女が言ったとおり神ってやつだ」
「やっぱりそうでしたか」
そこの小さな天使と違って神々しさというか神聖さというか、そういうものを感じる。
「あたし、今度こそ初めて神様に会えたってことなんですね……なんだか感動です……」
「そう大したものではないよ。 僕は第11神……要するに、かなり下っ端の部類だからね」
「ああ、そうなんですね。 じゃあ11神様じゃ呼びにくいんで『イレブン』って呼んでいいですか?」
「お前死にたいの?」
そんなわけないだろう、ガブリエルさんは物騒だなぁ。
「はははっ! いいよ。 確かに神様とか第11神とか、呼びにくいよね」
「ほら、やっぱり。 いやーイレブンさんは器が大きいなぁ、天使と違って」
「尊敬しちゃいますね~」
「そんなことないよ。 だってほら、君達が虫から失礼なこと言われたとしても多少なら笑って見過ごすだろう?」
「おっと、そういうキャラだったか」
神やら天使やらは腹黒くなければいけないものなのかもしれない。 相変わらずイレブンさんは微笑んだままだが、その目の奥は僕らを見下しているのだろう。
「まあそれならそれでいいですけど、あなたがここに来たのはやっぱり僕達を異世界に?」
「うん、そうなるね。 僕は別にこのやり口の肯定派じゃないんだけど、『上』が言うんじゃしょうがない」
「神の中にも上下関係あるんですねぇ……」
京香さんが少々能天気な口調で言う。 この人は事態を理解しているのかしていないのか、地味に分かりにくい。
「ちなみにそれに抵抗した場合は」
「大丈夫だよ。 痛くはしないから」
あ、殺すんですね、はい。
「ですがね、イレブンさん。 僕にも自分の信念というものがあります……
異世界になんて行きたくないんだ! 大した理由はないけどな!」
「何で大した理由も無く神に逆らえるのお前?」
「うーん、残念だけど、行くか、死ぬか。 なんだよね」
「クハハハハハハハッ!! だとよクソ人間共!! お前らまとめて我が主の手によって辺境送りだ!! 野垂れ死ね!!!」
上司いるとすげぇイキってくるなこのクソ天使。 そんなところもある意味魅力だけどもさ。
「あ、あの……異世界行くとして、あたしとカミュ様は別々の世界に送られるんでしょうか?」
「ん? ……カミュ? あれ、僕の手元の資料によれば彼は烏丸宗次郎という名だったはずだけど」
「えっ? 烏丸……?」
「あ、どうも京香さん。 烏丸宗次郎です」
「いけしゃあしゃあとコイツは……」
まだ困惑が消えない京香さんだが、今はそのフォローをしている場合ではない。
「……ほら、あれです。 カッコいいあだ名付けたい年頃なんですよ」
「ああ~! そういうことならあたしにも分かりますっ!」
分かるんだ。 分かんないなこの人。
「そうだ、君達は同じ世界に送ってあげようか」
「えっ?」
「気が合うみたいだし一人で行くより二人で行くほうが心強いだろう?」
「それは分かりますね。 気は合わないと思いますけど」
「一人は心細いですからねぇ。 気は合わないですけど」
「運命レベルで合ってんだよなぁ悪い意味で」
京香さんのことは嫌いではないし、どちらかと言えば好感を持ってはいるが考え方は多分全然違うぞ?
「しかし、同じ世界に送るってのはルール的にありなんですか?」
「特に問題はないよ。 どうでもいい世界を低コストでワンチャン変えられればいいよねってコンセプトだし」
「うーんでも、二人で、ですか……」
考え込む京香さん。 これは分かる。 確かに、何かが足りない。 決定的な何かが。
「……なんだよ? もう諦めろ。 お前らに逃げ場は無い二人仲良くここから失せろ、そして死ね」
「「あ、そうだ」」
僕と京香さんのヒラメキは、まったく同時だった――
「ガブリエルさんと三人なら行きます」
「ガブちゃんと三人なら行きたいです」
「……は?」
そして、出て来たものも、完璧なシンクロを見せた。
「異世界で生き抜く自信なんて無い僕ですけど、ガブリエルさんがいてくれるなら、異世界でも希望を失わずにいられると思うんです」
「お前希望の意味知ってる!?」
「あたしも、同じです。 ガブちゃんとなら……」
「なになになに!? いつお前らの好感度稼いだの私!!?」
ああ、僕達はみんな同じ気持ちだったんだな……
「同じじゃないよっ!!??」
ガブリエルさんもテーブルをバンバン叩いて喜びをあらわにする。
「神よッ!!!」
「いいよ。 三人で頑張ってくれたまえ」
「んあああああああああああああああああああっ!!??」
イレブンさんはさっきまでと同じ笑みで快諾してくれた。 人と神という遠く隔てられた存在だとしても、言葉があれば分かり合えるものなんだ。
「私と分かり合ってくれ!! 頼むから!!!」
そう言って縋りついてくるガブリエルさん。 まったく、可愛い人だ。
「へへっ……わかってますよ、ガブリエルさん」
「なんだテメェそのキャラ!!? いい加減にしろ!!!」
「あ、でも一ついいかな?」
おや、なんだろう? ははは、ガブリエルさん。 そんなに泣くなよ。
「あんまりギフトを持たせるのも他の人達に不公平だろう? 何かそっちから差し出せるものは無いかな? その対価にガブリエルを出そう」
「あの……対価ってそんな……あ! でも、コイツらには出せるようなものは無いはず……!」
対価、対価か……それは確かにそうだ。 ここままでは不公平極まりない。
「じゃあチートはお返しします」
「そうまでして欲しいかなぁっ!!!?」
「OK! じゃあ行こうか異世界!」
「OKじゃねぇよクソ上司がよおォォォォォォォーーッ!!!」
ついにイレブンさんの胸倉を掴み始めたガブリエルさん。 いくら興奮しているからといって上司にその態度はマズイ。
「ぶっちゃけ僕に頼ってきた時点で仕事放棄だし、何かしら罰を与えようと思ってたんだよね」
「罪に対しての! 罰が! 大きすぎだろうがよおォォォォッ!!」
「そうそう、もちろん天使の力は返してもらうからね」
「ハアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!??」
ガブリエルさん、流石にうるさい。 耳が痛くなってきた。
「異世界かぁちょっと緊張してきたなぁ」
「大丈夫ですよ京香さん。 僕とガブリエルさんが付いてますからね」
「私に対する信頼は何だ!? 今の私はそこら辺の女子だぞ!? 家事全般しか取り柄ない役立たずだぞ!!?」
それができるなら充分すぎるほどだろう。
「安心してください。 僕達はあなたの能力が欲しいんじゃない。 あなたが欲しいんだ」
「そうですよ! 水臭い事言わないでください!」
「違うんだよ!! そうじゃないんだよ!!!」
「さあさあ、もう準備はできたね? この穴に飛び込んでくれ。 目が覚めたら異世界だ」
イレブンさんはいつのまにやら生成された、直径2m程の大きさの真っ黒な穴を指差した。
「了解です。 さあ行きましょう! 京香さん、ガブリエルさん!」
「はいっ!!」
「いやだっ! 離せ! 離してくれ!!」
暴れるガブリエルさんを二人がかりで引っ張り、穴に飛び込む。
僕の、僕達の異世界生活が今、始まる――
「い、いやだあああああああああああああああーーーーっ!!!」
――完
5話くらいで終わると思ってたのに意外と長くなってしまった。
お読みいただきありがとうございました。




