救国の魔女の終わりと始まり
「おはよう、ライラ」
「……おはよう、アレス。迎えに来てくれてありがとう」
翌日。時間通りにアレスは私の寮の前に迎えにきてくれた。背後には立派な馬車。私達は今日王都を発つ。
「寝不足だろ? 大丈夫か?」
「う、うん。平気」
昨夜帰りが遅くなってしまったのであまり眠れてはいなかったけれど、それは心地よいダルさだった。それよりもなんだか気恥ずかしくてアレスのことをまともに見ることができない。
「まあ眠たかったら馬車で寝ればいい。よし、行くか」
スッとアレスに手を差し伸べられる。私はおずおずとその手を取った。エスコートされる形で私は馬車に乗り込む。
馬車はゆっくりと走り出す。窓から流れる王都の景色を眺める。
「寂しいか?」
隣に座ったアレスが私の手に自分の手をそっと重ねながら尋ねた。私はアレスを振り返って首を横に振る。
「ううん。ちょっと感動してただけ」
「感動?」
「王都に来た時はこんな未来、想像もできなかったから」
私が初めて王都へやってきた時は一人きりだった。混み合った乗合馬車の隅で身体を縮めてじっと到着するのを待っていた。
それが今は座席の座り心地も良く、手足も伸ばせる個人用の馬車に乗っている。それに──
ふっと向けた視線が合うと、アレスは屈託のない表情でニカッと笑う。笑い返すつもりはなかったのに、思わずこちらも笑顔になってしまうくらいの人懐っこい笑顔だ。
「これからずっと一緒にいようね」
「これからもずっと一緒だな」
二人で同時に同じことを言って、驚いた後で声をあげて笑う。王都ではいくつかの求婚があったけれど、アレスの手を取れたことが本当に嬉しい。
馬車はどんどん王都から離れていく。私とアレスは手を繋いだまま、外の景色を眺め続ける。
アレスと一緒に暮らす、ウォルカの地へ想いを馳せながら。