第四十話 デス・マウンテン
ユニコーンが引く馬車に乗ってしばらく外を見ていると、わたくし達の目的地『死の山』が見えてきました。
それまで綺麗な景色を見て浮かれていたわたくしも、段々と緊張してまいりました。
ここからは気を引き締めていかないといけませんね!
メンバーのリオン様、マーチお姉様、シン先輩も心の準備は万全のようです。
馬車の中から『死の山』を睨んでいらっしゃいますわ。
やがて馬車は停車場に止まります。
わたくし達は馬車を降り、山の麓へ歩きはじめました。
わたくし達の足元には、霧のような瘴気が薄く漂っていますわ。
瘴気を大量に吸い込むと、気が狂ってしまうといわれています。
わたくしが、何かの拍子に吸い込んでしまったらどうしようかと心配していると、
「この程度の瘴気ならば人体に影響はない」
と、シン先輩が説明してくださいました。
山を見上げると、頂上に近いほど瘴気が濃くなってるように見えます。
魔物が発生する要因の一つである『瘴気』。
それがこれほど濃い場所は、王国内でもこの『死の山』だけでしょうね。
このような恐ろしい場所への交通手段があるのには、ちゃんと理由があります。
それは、『死の山』の麓が観光名所になっているからなのです。
もちろん『死の山』を少し登ったところには危険な魔物がいるので登ることは禁じられています。
ですが麓にはその魔物達は下りてこないのです。
魔物達が下りてこない理由は、まだ解明されていません。
一説には、『死の山』で生まれた魔物は瘴気を好むので、瘴気が濃い頂上を目指して移動するのだとか……。
『死の山』に生息する魔物を恐れて、周りの平原にいる魔物たちも近付いて来ないので、山の麓には魔物が一匹もいません。
そういうワケですので夏休みには、スリルを求める大勢の観光客がやって来るのです。
今は閑散期ですので、お客さんはわたくし達の他にはいらっしゃらないようですが。
***
停車場から少し歩いたところにはレストランが有りました。
『死の山』の麓にある、一つ星レストラン『デス・マウンテン』です。
わたくし達は、そこでご飯を食べながら作戦会議をすることにします。
「いらっしゃいませ〜」
お店に入ると、愛嬌のあるウエイトレスさんがテーブルへ案内してくださいます。
彼女にオススメ料理を聞くと『ピザ・オブ・デス』を勧めてくださいました。
このレストランでは、『死の山』の麓で採れる『デストマト』や『デスポテト』を使った『ピザ・オブ・デス』が目玉料理のようです。
わたくし達はそれを注文します。
ウエイトレスさんがコックさんに注文を伝えてから、しばらくして――
「お待たせしました~。こちら、『ピザ・オブ・デス』になりま〜す!」
出てきたピザは、普通の胃袋を持つ人でも食べられるものでしたので、わたくしは安心いたしましたわ。
もし、例の『お茶漬け』のようなモノを食べさせられていたら、わたくしは魔力暴走を起こしていたかもしれません。
『ピザ・オブ・デス』は、ウエイトレスさんがオススメしてくださるだけあって、絶品でした。
わたくしとリオン様、マーチお姉様はすぐに『ピザ・オブ・デス』を食べてしまいましたわ。
シン先輩だけは、「五臓六腑に染み渡るほどではない」と、ご不満の様子でしたが……。
料理を食べた後、ウエイトレスさんと世間話をしていると、彼女の口からはこんな情報が飛び出しました。
「皆さんの他にも、今日の朝早くに観光客の団体さんがいらっしゃいましたよ。ウチの店はご利用なさらなかったんですけど、『死の山』の方へ歩いて行くのが見えました。おそろいの青い上着を着た団体さんでした」
それを聞いたマーチお姉様が眉をひそめます。
「傭兵団『碧眼の狼』の連中よ。やはり私達より早く入山していたのね」
リオン様が腕を組んでおっしゃいます。
「サツキ、『碧眼の狼』は有名な傭兵団なだけあって、かなり戦闘慣れしている。特に対人戦闘に長けた連中だ。もし遭遇したらキミは戦闘に参加せず、我々の後ろにいるんだ」
そして、
「万が一のときは『空間転移』で逃げるということも頭に入れておきなさい。いいな?」
と、わたくしだけに聞こえるようにボソリと付け足しました。
「分かりましたわ」
わたくしが頷くのを見てから、リオン様はお続けになられます。
「『碧眼の狼』の連中を取りまとめている団長の実力は凄まじい。噂では、古代竜を単独で討伐したとか。もはや人類が立ち向かえる相手ではない。まあ、団長は本隊から出てこないはずだから、ここには来ていないだろうが」
するとマーチお姉様は首を横に振りました。
「団長が来なくても安心はできないわ。部隊長たちの実力もかなりのものよ。王国の騎士団長級の力を持っているという話だから……。もし部隊長格の団員が来ていたら厄介だわ。慎重にいきましょう」
わたくし達は頷き合い、気を引き締めて『死の山』攻略にのぞみます。
もちろん敵さんは『碧眼の狼』だけではありません。
この山には『幻想孔雀』や『冥界大猿』などのB級の魔物が数多く生息していますから。
B級の魔物はかなり強いです。
一流の魔術師であるB級魔術師なら、ようやく倒すことが出来るというほどの強さ。
まあ、こちらには『死の山』でお暮らしになっていたシン先輩に、治安維持省のマーチお姉様、さらに最強剣士のリオン様がいらっしゃるので、何とかなると思いますけどね!
***
そして、ついにわたくし達は禁足地『死の山』へと足を踏み入れました。
この山はなだらかなので登ること自体は楽です。
ですが、登るにつれて瘴気が濃くなっていきます。
シン先輩は、瘴気から身を防ぐ聖属性魔術の『安らぎの月光』を全員に掛けてくださいました。
『安らぎの月光』は精神を安定させる効果があるので、幻属性魔術による精神攻撃にも効果を発揮します。
山にいる『幻想孔雀』の精神攻撃も防ぐことができるそうですわ。
わたくし達は順調に山を登っていきます。
ここまで魔物にも遭遇していませんわ。
もしかして、この精鋭メンバーに恐れをなして、魔物たちは近付いてこないのではないでしょうか?
わたくしがそんな風に考えた時です!
「魔物だ! 気を付けろ!」
リオン様が叫んで臨戦態勢を取るとほぼ同時に、岩から小さな人影が、大量に飛び出してきました!
その人影はあっという間にわたくし達を取り囲んでしまいました。
C級の魔物『冥界小猿』の群れですわ!
『冥界小猿』は次々に飛びかかってきます!
それをリオン様が流れるような身のこなしで剣を振るい、切り捨てていきます!
ほんの一瞬出遅れたシン先輩も、やるべきことを即座に判断し、素早く魔術陣を描きました。
「第七天獄!」
シン先輩は聖属性魔術『第七天獄』を詠唱し、わたくし達を取り囲んで様子を窺っていた『冥界小猿』達を、光の縄で縛り上げてしまいました!
お二人とも流石です!
わたくしも戦闘に参加いたしましょう!
「トドメはわたくしにおまかせあれ!」
わたくしは、魔物に向けて魔術を撃つことには抵抗感はありません。
何故なら、魔物は生き物ではないからです。
瘴気と魔力が集まり実体を持った存在、それが魔物です。
魔物は生き物を襲います。
魔物の目的は、この世界の生き物を根絶させることなのです。
彼らは人類の敵であり、この世界の敵。
つまり、女神様の敵ですわ!
女神様の敵に向けて魔術を撃つことに、抵抗はありませんわ!
わたくしは足元に魔術陣を描き集中します。
そして――
「核撃爆破!」
わたくしが詠唱した瞬間、わたくし達を中心にしてドーナツ状に爆発が起こります!
そうです、シン先輩が第七天獄で捕らえた『冥界小猿』達を狙ったのですわ。
わたくしの核撃爆破によって、『冥界小猿』達は消え去りました。
「相変わらずの威力だな」
リオン様がわたくしを見て、呆れたようにおっしゃいました。
「魔力量が高いだろうとは思っていたが、核撃爆破でC級の魔物達を一撃、か……」
「道理でサバトお兄様に目を付けられるワケね……」
シン先輩とマーチお姉様も、わたくしの核撃爆破に驚いてくださいます。
ホホホ、最近わたくしは核撃爆破については自信がついてきた所ですのよ!
シン先輩やマーチお姉様にも認めていただけて、わたくしは鼻高々ですわ!
その後も、C級の魔物達との戦闘を繰り返しながら、わたくし達は『死の山』を登っていきます。
その戦闘の全てが、シン先輩の第七天獄と、わたくしの核撃爆破による連携攻撃で勝利しています。
「オホホホホ、最強剣士リオン様の出番は最初だけでしたわね」
大活躍のわたくしは、調子に乗りながら高笑いしました。
するとリオン様は苦いお顔で、
「キミの自信がついたようで良かったが、油断だけはしないように」
と、わたくしにおっしゃるのでした。
***
さて、わたくしたちは『死の山』の中腹までやって来ました。
『死の山』中腹には、洞窟がいくつも存在しています。
そして、そのうちの一つに、わたくし達の目的である『鉛の心臓』の原石があるらしいのです。
ちなみに、シン先輩が以前寝床にしていた洞窟には『鉛の心臓』の原石はなかったようです。
彼はこうおっしゃいました。
「俺はいくつかの洞窟を転々としていたが、それのどこにも『鉛の心臓』の原石はなかった。なので、まだ俺が入ったことのない洞窟を探していこう」
シン先輩がいるおかげで、いくつかの洞窟を除外でき、無駄足を踏む可能性が低くなりましたわ。
これは『碧眼の狼』さんに対して、かなりのアドバンテージではないでしょうか?
わたくし達はシン先輩に案内されて、最初の洞窟へ入りました。
「ここはまだ入ったことがないな。気をつけるんだ。『幻想孔雀』がいる可能性が高い」
と、言いながらシン先輩が奥に進んでいきます。
「ここ、かなり狭いわね」
マーチお姉様がおっしゃいました。
彼女の言うように洞窟内はかなり狭いです。
奥へ行く道は、両手を広げた程度の狭さしかありません。
「人数が少ないほうがいいと言ったのは、これが理由だ。洞窟内は狭いので大勢で戦うことはできない。大勢で来て、洞窟内には少数で行くという手もあるが、外にもレベルの高い魔物がいるので、待っている連中も危険だ。ここの魔物は素早いので攻撃を喰らうこともあるはずだし、防御力の高いメンバーがいい」
シン先輩はそう言うと、わたくしの方を見ます。
「なのでサツキはメンバーから外れてほしかったが、高い実力を持つリオン殿が付いているので問題ないと判断した……まあ、結局連れてきて正解だったが。お前の核撃爆破のおかげで、大した被害もなくここまで登ってこれた」
「褒めていただきありがとうございます。『幻想孔雀』戦でも頑張りますわ。後ろから核撃爆破でサポートします」
「いや、それは止めてくれ。『幻想孔雀』にダメージを与えられるほどの爆発だと、洞窟が崩壊するおそれがある。爆発の影響で洞窟が崩壊したら俺達は生き埋めだからな」
「あら、では、わたくしの出番はなさそうですわね……。残念ですが、この先はお三方におまかせいたしますわ」
本当に残念ですが、仕方ありませんわ。
それに、わたくしの活躍の機会はまだまだあるはずです。
洞窟の外にはB級の魔物『冥界大猿』がいるらしいので、彼らに遭遇することもあるはずです。
その時には、再び核撃爆破が火を噴きますわ!




