第三十八話 お・も・て・な・し
「出て来い、第7777王女! 剣のサビにしてやるぞ!」
『チキン剣士』さんが玄関でお叫びになります。
第7777王女のツバメお姉様は、彼の声を聞いてビクリとお体を震わせました。
ツバメお姉様がわたくしの家にやって来たとき、彼女は『チキン剣士』さんに追われていらっしゃました。
ツバメお姉様は彼に追われて、何度も命の危険を感じたに違いありません。
きっとそのことがトラウマになっているのでしょう。
わたくしは、震えているツバメお姉様の手を取って励まします。
「『チキン剣士』さんなどには、ツバメお姉様を触れさせはしません。ご安心くださいな。それにわたくし達にかかれば、あの剣士さんは『スヴィーニツお兄様をやっつけるための情報を話してくれる九官鳥』のようなものですわ。今からその情報を頂きに行きますので、お姉様はここで待っていてください」
わたくしがそう言うと、ツバメお姉様がおっしゃいます。
「サツキ、私も行きます。妹が私のために戦ってくれるのです。私に何かできるワケではありませんが、せめてその場にいさせてください」
ツバメお姉様の言葉からは、強い決意が感じられました。
彼女は、彼に対する恐怖心を飼い慣らそうとなさっているのです。
ツバメお姉様は『チキン剣士』さんによって、恐ろしい目に遭わされたはずなのに……
スヴィーニツお兄様によって呪われてしまったツバメお姉様。
彼女は不幸に負けることなく、力強く前進しようとしているのです。
待っているだけでは幸せはやってこない。ツバメお姉様の目はそう語っているようにも思えました。
わたくしはツバメお姉様に頷きます。
そして二人で外に出ようとすると、トウカお兄様とヨイチお兄様も、わたくし達の後に続きます。
「僕らも付いて行っていいかな?」
「外にいるのは、ツバメ姉の命を狙って追い回してやがった『チキン野郎』だろ? 俺らにも挨拶させろよ」
お二人も、ツバメお姉様の命を狙うチキン剣士さんにはお怒りのようですわ。
ヨイチお兄様はいきり立っていて、怒りを隠そうともなさいません。
常に天使の笑顔を浮かべているはずのトウカお兄様も、目が笑っていません。
「もちろんですわ。あの剣士さんを懲らしめてあげましょう」
ということで、この四人で『チキン剣士』さんをおもてなしすることになりました。
***
家の外には、重そうな鎧や盾で全身を固めた剣士さんが待ち構えていました。
彼はわたくしたちを見るなり、さっそく装備の自慢を始めるのですわ。
「フン、今日の俺は一味違うぞ。何故ならば! 火属性魔術のダメージを軽減する『霊水の盾』と『霊水の兜』! 爆発のダメージを軽減する『防爆の鎧』! そしてっ! 魔術武器『幻影の剣』を装備してきたのだ!」
剣士さんは鎧を見せつけるように胸を張り、盾を掲げます。
そして『幻影の剣』の詳細な説明を始めるのです。
「この『幻影の剣』は、オレの分身を生み出す能力を持っている! 貴様らの攻撃はオレに当たらんぞ! オレの魔力量はかなり少ないので、この剣の能力を使えるのは一度きりだがな!」
聞いてもいないことを舌滑らかにべらべらとお話しになる剣士さん。
一通り装備を自慢して満足したのでしょう、彼は自信たっぷりの笑顔で「さあ、かかってこい!」と叫びました。
そんな剣士さんに、トウカお兄様が指をパキパキ鳴らしながら近づいていきます。
「僕から行くよ」
「丸腰で俺の相手が務まると思うな! 喰らえ!」
剣士さんは、叫びながらトウカお兄様に向かって斬りつけます!
ですが、トウカお兄様は剣を避けることすらなさいません!
トウカお兄様は拳を突き出して剣士さんの攻撃を受け止めました。
なんと彼は、拳で剣の刃を止めてしまいましたわ!
「魔術が得意じゃない戦士でも、体内の魔力を利用して身体の強化が出来るんだ。リオン殿に稽古をつけてもらって僕らも強くなった!」
トウカお兄様の拳は、魔力によって輝いています!
拳に集まった魔力が剣撃を受け止めたのです!
剣士さんは驚きながらトウカお兄様を睨みつけます。
「貴様のような小僧が『戦神の加護』を使えるだと!?」
『戦神の加護』?
それは一体何なのでしょう?
わたくしが首を傾げていると、ヨイチお兄様が解説してくださいます。
「『戦神の加護』っていうのは、体内の魔力を上手く操作して、攻撃力防御力の両方を底上げする高等技術だ。リオン殿に教わって、最近ようやく実戦で使えるようになったんだ。俺達が使える『戦神の加護』はまだまだレベルが低いけど、サツキに補助魔術をかけてもらわなくてもこれだけ戦えるようになったんだぜ」
そうおっしゃるヨイチお兄様は、以前にも増して頼もしく見えますわ!
もちろんトウカお兄様もですよ!
お二人とも格好いいですわ!
ですが、彼らをレベルアップさせたリオン様は一体何者なのでしょう?
魔術師を育てるだけではなく、優秀な戦士を育てることにも熟達なさっているのです。
そして当然、リオン様ご自身も、とてもお強い戦士です。
彼ほどの達人が名を知られていないなんて、世の中は広いですわ!
トウカお兄様に攻撃を難なく防がれて、剣士さんは目をむいてお叫びになります。
「この! 生意気な小僧め!」
剣士さんが剣を振り上げた瞬間、トウカお兄様は素早くふところに入り、彼の頭をお殴りになりました。
すると剣士さん自慢の『霊水の兜』はパカリと割れてしまいましたわ。
『戦神の加護』というのは凄いパワーですのね!
頭に衝撃をお喰らいになった剣士さんは、フラフラしながらも剣を構えます。
ですがそのときにはトウカお兄様は彼の背後に移動していて、再び拳をお振るいになられます。
剣士さんの背中へと発射された拳は『防爆の鎧』に大きなヒビを入れました。
『防爆の鎧』も真っ二つに割れ、剣士さんの上半身があらわになります。
彼のお腹はポッコリと出ていて、鍛錬不足がうかがわれますわ。
「クソッ! いい気になるな!」
そう叫んで振り向いた剣士さんのあごに、トウカお兄様のアッパーカットがヒットします!
さらに、宙に浮いた彼のボディに、渾身の右ストレートが放たれました!
彼は庭の端に吹き飛び、お倒れになりました。
そして――
1,2,3,4,5,6,7,8,9……10!
カンカンカン! テン・カウントです!
凶拳士トウカお兄様の勝利ですわ!
トウカお兄様はお倒れになっている彼に背を向け、こちらに歩いてきます。
ヨイチお兄様が手を高く掲げると、トウカお兄様がその手を叩きました。
そして今度はヨイチお兄様が、お倒れになっている剣士さんに近付いていきます。
どうやらバトンタッチのようですね。
第二ラウンド。
ヨイチお兄様は、剣士さんのそばまで歩いていくと、彼のお顔を剣でペシペシお叩きになられます。
「おい『チキン野郎』。起きやがれ」
チキン野郎――コホン、失礼しました。
チキン剣士さんは、ヨイチお兄様に起こされてゆっくりと起き上がります。
「俺は気絶していたのか……? 小僧だと思い油断した……! だがもう俺は油断しないぞ! わざわざ俺を起こして俺を倒すチャンスを逃すとはバカなヤツだ!」
「バカはお前だろ」
ヨイチお兄様が構えると、彼の剣は魔力によって包まれました。
これがヨイチお兄様の『戦神の加護』なのですね。
当然のように『戦神の加護』をお使いになったヨイチお兄様を見て、剣士さんは荒れ狂います。
「貴様らのようなガキが何故『戦神の加護』を使えるんだ! 俺が十年以上頑張ってもダメだというのに! くそう! 許せん、許せんぞ!」
嫉妬に燃える剣士さんは『霊水の盾』を突き出し、ヨイチお兄様に突進していきます!
「おら! 喰らえ!」
ヨイチお兄様が剣を叩きつけると、『霊水の盾』は剣士さんの手元から吹き飛んでしまいました!
ヒュルヒュルと飛んでいった『霊水の盾』を、剣士さんは口を開けて眺めていました。
もう、剣士さんの装備は『幻影の剣』だけですわ!
自分の体を見て、自慢の装備が『幻影の剣』しか残っていないことに気づき、彼はヤケクソ気味に叫びました。
「ぬうっ、仕方ない! 惑わせろ『幻影の剣』! 絶望の逃げ水!」
剣士さんが魔術武器『幻影の剣』を使い、絶望の逃げ水を詠唱すると、彼の周りに数人の分身さんが現れました!
彼らは素早く反復横跳びをして、シャッフルされてしまいましたわ!
皆さんそっくりで見分けがつきません!
真ん中の剣士さんが笑います!
「フハハハ! 勝負あったな! どれが本物か分からないだろう? 絶望の逃げ水は相手の視覚を惑わす幻属性魔術! 貴様には見破れまい! フハハハ!」
ヨイチお兄様は、笑っている剣士さんに真っ直ぐ歩いていくと、彼に向かって剣をフルスイングなさいました!
その笑っている剣士さんは『幻影の剣』で受け止めますが、勢いを殺しきれず吹き飛びます!
またもや庭の端まで吹き飛び、お倒れになった剣士さん。
衝撃で『幻影の剣』は折れてしまい、その刃がヒュルヒュルと回転しながら彼のそばに突き刺さります。
『幻影の剣』が折れてしまったせいだと思いますが、剣の効果で出現した分身さんも消えてしまいましたわ。
ヨイチお兄様は呆れたように呟きます。
「コイツ、バカか? 分身は喋らねーだろ。本体が喋ったらバレバレだろうが」
勝負ありました!
第二ラウンドもこちらの勝利、狂剣士ヨイチお兄様の勝利ですわ!
やはりいい装備でやって来ても、最後には腕がモノをいうのですね。
『チキン剣士』さんが伸びてしまったのを見て、ツバメお姉様はホッと胸を撫で下ろしました。
わたくし達が守っている限り、剣士さんなど恐れなくてもいいということを、ツバメお姉様に分かっていただけたかしら?




