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第三十三話 不幸な王女、幸福な王子

 第7777王女ツバメお姉様の胸には魔石『鉛の心臓』が埋め込まれていました。


 この『鉛の心臓』を手に入れるために、スヴィーニツお兄様はツバメお姉様に巨額の懸賞金を掛けたのです!


 ツバメお姉様は、脱いだ服を着ながらおっしゃいます。


「私は生まれた時から『魔力欠乏症』だったのです。『魔力欠乏症』の私は数年と生きられないはずでしたが、治療法が一つだけありました。それは、純度が高い魔石を体に埋め込むことです。ただし『魔力欠乏症』を治すには、巨大な魔石が必要です。それほどの魔石は価格もとても高くなります。でも、家族は私を治すために財産を投げ打って、たまたまオークションに出ていたこの魔石『鉛の心臓』を買い取ってくれました。そのおかげで私は今も生きていられるのです」


 そして、ツバメお姉様は自分の境遇を語り始めました。

 それは涙なしには聞けない悲しいストーリーなのでした。


 ツバメお姉様は『魔力欠乏症』を治療した後、家族とともにこの街を離れる予定でした。

 ですが街道にて盗賊たちの襲撃にあい、それが原因で家族と離れ離れになってしまいました。

 治安維持省の職員に助けられてこの街に戻った彼女は、お針子のお仕事を始め、それと並行して家族を探していました。


 ただ、その頃の彼女は、家族と離れ離れになったこと以外には、特別不幸なことはなかったようです。

 彼女は、お針子としての腕を認められいき『フリーお針子エージェント』として名も売れ始めました。

 そして傭兵稼業をなさっている恋人ができ、その恋人に求婚されたのです。


「あの頃が私の人生の絶頂期でした。私は夢だった自分の店を持つことができ、結婚を間近に控えていました。そんな時に第7777王子スヴィーニツが私の前に現れたのです」


 スヴィーニツお兄様は『鉛の心臓』のことを聞きつけ、部下を引き連れてツバメお姉様のお店を強襲したしました。

 傭兵稼業をなさっていた婚約者の活躍もあって、最初はスヴィーニツお兄様達を撃退できたようです。

 ですがそのときに、スヴィーニツお兄様の『天運の短剣』によって、ツバメお姉様は呪われてしまったのです。


 そのせいでツバメお姉様には、たびたび不運が訪れるようになってしまいました。


 小さな不運では、何もないところでつまずいてコケたり、鳥のフンの集中砲火を浴びたり、サイフに穴が空いていたり、強風によってスカートがめくれ上がったり、人前でお腹が鳴ったり、バナナの皮を踏んで転んだり――。


 大きな不運では、自分の店の悪評が流れ、店の経営が危うくなったり、他人に騙されて大きな借金をしたり、馬車にはねられたり――。


 しばらくして、ツバメお姉様は、スヴィーニツお兄様の二度目の襲撃をうけました。

 今度の襲撃は本格的なもので、彼らを撃退できなかったツバメお姉様は、婚約者ともに街を逃げ出しました。

 婚約者はツバメお姉様を追手から守るために囮になり、その後行方不明になられました。

 そして一人になってしまったツバメお姉様は考え抜いた末に、これ以上他の誰かがスヴィーニツお兄様の犠牲者にならないよう『天運の短剣』を破壊することを決心なさったのです。


「過去には私の他にもスヴィーニツの餌食となった人達がいたはずです。私が彼らのことを想うたびに、この『鉛の心臓』が脈打つのです。『鉛の心臓』は私に、『天運の短剣』を破壊しろと言っているのです。狙った相手を不幸にする『天運の短剣』。あれはこの世にあってはいけないものなのです!」


 ツバメお姉様は、そう強く断言なさいました。


「よく分かった。それで、キミがサツキを頼って、ここに逃げ込んできたのはどういう理由なんだ?」


 リオン様がツバメお姉様にお尋ねになられました。


「追手を振り切って街に戻ってきた私は、私の店のお得意様だった第56王子のサバトお兄様に相談をしたのです。そうしたら、彼は『僕は力になれないけど、キミの力になってくれそうな人物を紹介できるよ。第10000王女のサツキだ。彼女なら強力な呪剣である『天運の短剣』も破壊しきれるだろう』とおっしゃいました」


 ツバメお姉様の口から出た意外な人物にわたくしは驚きます!


「なんですって! サバトお兄様が!?」


「はい。サバトお兄様はこうもおっしゃいました。『サツキはキミに劣らず不幸だよ。キミはスヴィーニツ一人に狙われているけれど、サツキは数え切れないくらいたくさんの兄と姉に狙われているからね。だけど彼女は全て返り討ちにしている』と。サツキ、あなたも辛い思いをしてきたのですね! あなたもスヴィーニツに『天運の短剣』を使われていたのだと思います!」


「え? わたくしもですか?」


 ツバメお姉様のおっしゃることに、わたくしは困惑してしまいました。

 わたくしには全くそんな覚えはないのですが……。


 わたくしが過去にスヴィーニツお兄様に会ったことがあるか思い出そうとしていると、ツバメお姉様がおっしゃいます。


「そうに決まっています! あなたがいじめられたり、嫌がらせをされたり、アクェ様(クソブタ)に婚約を迫られたりなんていう不運は、『天運の短剣』の呪いをかけられているとしか考えられません! きっと、あなたが気付かないうちに、スヴィーニツに『天運の短剣』を使われていたのでしょう」


 わたくしは頭を殴られたかのような衝撃を受けました!


 確かにそうですわ!

 気付かないうちに『天運の短剣』を使われていたら、『天運の短剣』を使われていたことに気付けませんわ!

 こんな簡単なことに気付けないなんて!


「そ、そうだったのですね! ということは、わたくしがサラサお姉様に目を付けられたのも……?」


「はい、スヴィーニツのせいだと思います」


「わたくしが『魔術クラブ』の入部試験に何度も落ちたりしたのも?」


「もちろん、スヴィーニツのせいでしょう」


「もしかして、わたくしの補助魔術が爆発してしまうのは!?」


「当然スヴィーニツのせいです!」


「ではでは、わたくしの王位継承権が上がってしまうのは!?」


「そう、スヴィーニツのせい! 全てはスヴィーニツのせいなのです!」


 なんてことなのでしょう!

 諸悪の根源はスヴィーニツお兄様だったのですね!

 しかも、わたくしが気付かないうちに『天運の短剣』を使うなんて、なんて卑怯な方なの!

 絶対に許せませんわ!


「ツバメお姉様! わたくしも『天運の短剣』を破壊し、スヴィーニツお兄様にお仕置きするのをお手伝いいたします!」


「本当ですか、サツキ!? 手伝ってくれるのですか!?」


「はい! 『天運の短剣』を破壊して、わたくし達の呪いを解き、不運から脱却して幸せになりましょうね!」


 わたくしがツバメお姉様の手を取って言うと、彼女は嬉しそうに頷きました。


 ここに来てからずっと沈んだ表情だったツバメお姉様が、ようやく笑顔を見せてくださいましたわ。

 わたくしの力で必ず! ツバメお姉様を幸せにしてやりますわ!

 そして、わたくしの不運も消し去ってやります!


 わたくしは拳を握り『打倒スヴィーニツお兄様』の情熱を燃やします!


 するとその様子を見ていたリオン様が、

「キミの不幸は生来のものだろう。『天運の短剣』は関係ないと思うぞ」

 と、わたくしにとって残酷なことをおっしゃいました。


 ……当然、わたくしは聞かなかったことにいたします。


 わたくしの不幸が生来のものだなんて、そんな救いのない話があってたまるものですか!


 わたくしはリオン様を無視して、ツバメお姉様に、今日からうちに住むように勧めました。

 そしてわたくし達は夕食を食べながら、今後の作戦を練り始めたのですわ。


 ちなみに残酷なことをおっしゃったリオン様の夕食は、『ゆで卵』がメインディッシュでした。



***



 次の日、わたくし達は治安維持省へとやってきました。

 スヴィーニツお兄様の持つ『天運の短剣』のことを話せば、治安維持省が動いてくれるかもしれないと思ったからです。


 ツバメお姉様が職員の方に事情を話している間、わたくしとリオン様は待合スペースで待機していました。

 するとそこに第110王女のマーチお姉様がやってきました。


「サツキ、ちょっと話があるのだけれどいいかしら?」


「もちろんですわ。何でしょうか?」


「実はあなたにお願いしたいことがあるのよ」


 詳しい話を聞くため、わたくしはマーチお姉様の後について、彼女のオフィスに入りました。

 そこは小奇麗に整頓されていて気持ちのよい部屋でした。

 わたくしがキョロキョロしていると、マーチお姉様はわたくしに座るよう促します。


 わたくしがソファーに座るとマーチお姉様が話し始めます。


「国家機密だから詳しくは言えないのだけれど、サラサお姉様とも繋がりのある組織が、この街で暗躍してるらしいのよね。私はそれをなんとかしたいの。ただ今は、私の仕事が多すぎてそれに手を付けられないのよ。だから、私の仕事の一つをあなたにお願いできないかと思って」


「マーチお姉様のやっている仕事をわたくしが? わたくしには絶対に無理だと思いますが……」


「そんなに難しくもないし、誰にでもできる仕事よ? 王位継承権下位の王子や王女の争いを収めてほしいの。あ、王位継承権下位っていうのは18000位までの子たちね」


「え? それはボームお兄様のお仕事だったのでは?」


「ボームからは仕事を取り上げたのよ。争いがあった時、あの子は王位継承権が高い方にしか味方しないのよ。それで苦情が頻発してね……」


「ああ、なるほど」


 ボームお兄様がわたくしの家にやって来た時もそうでしたわ。

 彼にはまだ反省が足りていないようですわね。

 時間があるときに、もう一度お仕置きしておきましょうか。


 わたくしがお仕置きの内容を考えていると、マーチお姉様が続けます。


「本当に簡単な仕事よ? ボームの優秀な100人の部下とポームの優秀な200人の部下が、あなたの部下になるから。あなたはただ彼らに命令するだけでいいの。分からないことがあったら治安維持省に聞いてくれたらいいし」


「ですが、わたくし、荒事は苦手ですの。争いの調停ということは、お怒りになっているお兄様やお姉様を魔術で吹き飛ばしたりしないといけないのでしょう? そのような野蛮なことはわたくしには無理そうです」


 わたくしが真面目な顔で言うと、マーチお姉様は吹き出しながらおっしゃいます。


「何言ってるのよ。それはあなたの得意分野じゃないの。それに心配しなくても大丈夫よ。あなたの王位継承権は今、第――位まで上がっているのだから、彼らも逆らったりしないはず。簡単に言うことを聞くはずよ……どうしたの? 急に耳を塞いだりして」


 王位継承権と聞いて反射的に耳を塞いだわたくし。

 不思議そうに首を傾げるマーチお姉様に、わたくしは言います。


「いえ、何でもありませんわ。それより、やはりわたくしには無理そうです。今は、わたくしにもやらなければならない事があるので。ですが、それが片付いたらお手伝いできるかもしれません」


 わたくしがお断りするとマーチお姉様は残念そうなお顔でおっしゃいます。


「そうなのね、なら仕方ないか。だけど手伝ってくれる気になったら言ってちょうだいね」



***



 わたくしが待合スペースに戻ると、ツバメお姉様もちょうど戻ってきたところでした。


「ツバメお姉様、相談を聞いてくださった職員の方はどのような反応でしたか?」


 わたくしが尋ねると、ツバメお姉様は首を横に振っておっしゃいます。


「良いとはいえませんね。『天運の短剣』が本物という証拠もないし、運という不確定な要素が絡むので、スヴィーニツの逮捕は難しいだろうと職員の方はおっしゃっていました。ただ、一応調査はしてくださるようです。それから、わたくしの家族と婚約者のことも相談したら、彼らのことも探してくださるとのことでした」


「そうですか……。やはりわたくし達で『天運の短剣』を破壊しなければなりませんね。ですが、お姉様のご家族や婚約者さんを探してくださるというのは、良かったではないですか」


「はい、職員の方があれほど親身に相談に乗ってくださるとは思っていませんでした」



***



 わたくし達はスヴィーニツお兄様をやっつける作戦を考えながら家へと戻ってきました。


 家の庭には昨日の『チキン剣士』さんがいて、帰ってきたわたくし達に言います。


「待っていたぞ! 第7777王女! 昨日は失敗したが、今日はそうはいかんぞ! 俺は昨日よりもいい武器を装備してきたのだ! 見ろ、この『霊水の大剣』を! この剣ならば、昨日のような凶悪な火球弾(ファイヤーボール)も防いでくれるはずだ! ゆくぞ!」


「来ないでください。核撃爆破(エクスプロージョン)


 わたくしが詠唱すると、剣士のお手元で小規模な爆発が起こります。


 その爆発が、剣士さん自慢の『霊水の大剣』に付いていた魔石を破壊しました。

 すると刃を覆っていた、ご利益のありそうな霊水が、地面にバシャリと落ちてしまいました。

 『霊水の大剣』は『普通の大剣』にランクダウンなさいます。


 剣士さんは膝をつき、地面に落ちた霊水を眺めて呟きます。


「お、俺の『霊水の大剣』が……。1000000ゴールドもしたのに……!」


 剣士さんはうなだれていましたが、やがて立ち上がるとわたくし達を睨んでお叫びになられます。


「クソッ、俺を撃退したからといっていい気になるなよ! 幸福評議会(シャングリ・ラ)のメンバーで、この家を奇襲することに決まったのだ! 貴様らは突然の襲撃に何もできずにやられていくのだ! フハハ! 明日の夕方頃にやってくる777人の精鋭達によって、惨めに蹂躙されるがいい!」


 剣士さんはそう言い捨てて、家の庭を出て行かれました。

 ツバメお姉様は慌てたご様子で「どうしましょう!?」とおっしゃいます。


「ご安心ください、ツバメお姉様。ご丁寧に奇襲の時刻や人数まで教えてくださったのですから、こちらも最大戦力でお相手いたしますわ! わたくしの家を襲っても無駄だということを、スヴィーニツお兄様に知らしめてやりましょう!」

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