第三十話 マジカルファイト団体戦トーナメントの結果!
魔術死合をやっていたコートへ、わたくしは空間転移で戻ってきました。
突然現れたわたくしに、死合を見守っていた皆さんは驚いていらっしゃいます。
「サツキは無事だ!」
「消えていたように見えたが?」
「コート上では一体何が起こっていたの!?」
リリアンヌお姉様とグルだった審判さんも驚いて、わたくしにお尋ねになられます。
「リリアンヌ様はどこだ! 一体何をしたんだ!」
わたくし達が消えていたことについては、ちゃんと言い訳を考えてあります。
わたくしが『時空魔術』なんてものを使えることを知られたら、また王位継承権上位のお兄様やお姉様に目をつけられてしまいます。
『時空魔術』のことは、みなさんには内緒ですわ。
幸いにもリリアンヌお姉様がこの魔術具を持っていたので、皆さんに納得していただけると思います。
「ホホホ、この魔術具を御覧ください」
わたくしは、リリアンヌお姉様から没収した魔術具の一つをお見せします。
するとヤマト先輩がお叫びになられました。
「あれは、魔術具『幻影の杖』!?」
『幻影の杖』は幻属性魔術を応用した魔術具です。
この杖は見る者の認知機能を狂わせる効果があるのですわ。
「わたくしはこれを使ってリリアンヌお姉様にお仕置きしました。ヤマト先輩が『幻想三千界』をお使いになった時もそうでしたが、死合をご覧になっている皆さんにも幻術の影響が出たのでしょう。わたくし達が消えていたように見えたのは、そのためでしょうね。あ、ちなみにリリアンヌお姉様は幻術に耐えきれず降参なさったわ」
わたくしがべらべらと二枚舌を駆使して話していると、審判さんがお尋ねになられます。
「リリアンヌ様はどこへ行ったんだ!?」
「ホホホ、彼女はお逃げになられましたわ」
わたくしがそう言うと観客席からがヒソヒソ話がきこえてきます。
「自分から仕掛けた魔術死合から逃げただって!?」
「リリアンヌは身勝手で小物な上に、卑怯な小心者だったのね!」
「それに比べてサツキの堂々とした佇まいを見ろ。リリアンヌはサツキを見習えってんだ!」
ですが審判さんはお認めになられません。
彼は口から大粒のツバを飛ばしながら、お叫びになられるのです。
「そんなバカな! このコートから外に出れるわけがないんだ! コートには、私が張った出入りを禁じる結界があったんだぞ!」
『私が張った出入りを禁じる結界』という言葉からは、自慢げな響きを聞き取ることができましたわ。
実際、あの結界は高度な魔術ではあります。
ただし、それがキチンと機能しているかは別ですが。
「あら、その結界はもう消え去っていますわよ? ほら」
わたくしはコート上から外へと歩いていきます。
わたくしの体は、結界に阻まれることなく外に出ることができましたわ。
驚く審判さん。
「大して時間も経っていないのに、結界が消えてしまっていますね。これはおかしいわ。正式な審判さんならば、こんな短期間で消えるような結界はお張りにならないはず。あなたは魔術試合の正式な審判さんなのかしら? 偽物なのではなくって?」
わたくしが彼に尋ねた瞬間、
「その通りだ! ソイツは偽物だ!」
出入り口から叫び声がして、審判さんの団体が現れました!
そして、会場にいる人達に向かって宣言なさいます!
「コイツはリリアンヌと共謀し、神聖な魔術試合を冒涜したのだ! よって、我々はこの偽物を制裁する!」
彼らは、リリアンヌお姉様に味方していた審判さんを取り囲み、ボコボコになさいます。
白目をむいてお倒れになった偽物さん。
審判さん達は彼を担ぎ、何処かに運んでしまわれました。
わたくし達があっけにとられていると、また新しい審判さんがやってきます。
彼はわたくしに旗を振り、
「勝者! サツキ! そしてっ、チーム『ヤマト』の勝利!」
とお叫びになりました。
最初はシーンとしていた試合会場ですが、段々とささやき声が聞こえます。
それがざわめきとなり始め、
「サツキが勝った?」
「チーム『ヤマト』が勝ったわ!」
「ということは……!?」
「チーム『ヤマト』が優勝したんだ!!」
誰かがそう叫んだ瞬間、コロシアムは熱狂的な声援によって包まれました!
『第二魔術クラブ』のメンバーたちが、わたくしに駆け寄ってきます!
クコロお姉様は嬉しそうなお顔でわたくしに抱きつきます。
ヤヨイお姉様はわたくしの背中を叩いて、髪の毛をわしゃしゃするのです。
そしてヤマト先輩は目を潤ませながらわたくしの手を取って、よくやってくれた、と言ってくださるのでした。
***
表彰式は滞りなく行われました。
表彰台に学園長がやってきて、優勝トロフィーをヤマト先輩に渡します。
その瞬間、大きな歓声と盛大な拍手が送られましたわ!
ヤマト先輩がこちらを向くと、彼の潤んでいた目から涙がこぼれました。
「よくやったぞ! ヤマト!」
「ヤマト先輩! 優勝なんて凄いですわ! ステキです!」
「お前は俺達平民の希望だ!」
観客席から、ヤマト先輩を称える声が聞こえます。
彼が以前言っていた『魔術師としての優秀さに身分なんて関係ないことを証明する』事。
観客席の反応から考えると、これは十分すぎるほど証明できたのではないでしょうか?
そして、優勝のトロフィーを持ったヤマト先輩が、準優勝の表彰楯を持ったライデン先輩と固く握手を交わすと、その瞬間を逃すまいと、魔導投射機のフラッシュが一斉に焚かれるのでした。
チームの表彰が終わり、次は個人表彰が行われます。
『MVP』賞には、当然ヤマト先輩。
『撃破魔術師』賞には、殆どの試合に出場し、勝利の数が一番多かったヤヨイお姉様。
そして、栄誉ある『魔術闘士』賞には、なんと、わたくしが選ばれてしまいましたわ!
魔術試合の体現者に送られる、『魔術闘士』賞に、わたくしが選ばれるなんて……!
わたくしは感極まって涙が出そうになるのを何とかこらえながら、学園長からメダルを頂きます!
学園長はわたくしにメダルを掛けながら、
「魔術試合を冒涜したポームやリリアンヌを、よく打倒してくれた。この賞はキミにこそふさわしい。審査員や審判達、全員一致による決定だった!」
と、言ってくださるのでした。
嬉しいわ!
このメダルはうちの家宝にいたします!
***
さて、トーナメントが終わり、わたくし達『第二魔術クラブ』のメンバーは選手控室に戻りました。
そこには『魔術クラブ』の方々が待っていて、わたくし達を迎えてくださいます。
「ヤマト。『魔術クラブ』を追い出されたお前がここまでやるとは、俺たちは考えていなかった。不屈の精神でリリアンヌ様に反抗したお前のことを、俺たちは尊敬している」
ライデン先輩がヤマト先輩を讃え、『魔術クラブ』の皆さんから拍手が起こりました。
ヤマト先輩は頭をかきながら言います。
「いや、チームメイトの力があっての結果だ。僕の力ではないよ」
「何をおっしゃるのですか! ヤマト先輩の熱意がなければ、わたくしはここまで本気でトーナメントに取り組めなかったと思いますわ!」
「そうです! ヤマト先輩がこのチームを作ったんじゃないですか!」
「そういうこった。テメーの想いの強さがリリアンヌを破ったんだ」
謙遜するヤマト先輩に、『第二魔術クラブ』の面々が言いました。
びっくりしてそれを聞いていたヤマト先輩に、フレア先輩が言います。
「ヤマト、アンタにお願いがあるの。また『魔術クラブ』に戻ってきてくれないかしら? 私はリリアンヌ様を恐れて、アンタが追い出されるのを黙って見ていた。私はずっとそれを後悔していたの。だからっ、戻ってきて! お願い!」
ですがヤマト先輩は、またあの悲しそうな笑顔でおっしゃるのですわ。
「キミの気持ちは嬉しいが、平民を敵視するリリアンヌ様がいる限り、また同じ事が起こるだろう。僕は彼女を見返せただけで満足なんだ。だから……」
ヤマト先輩は言葉をお濁しになられますが、彼が心配なさることは、もう何もございません。
「ヤマト先輩、大丈夫ですわ。魔術死合の最中、わたくしはリリアンヌお姉様から言質をお取りいたしましたわ。ヤマト先輩を『魔術クラブ』に戻してもいいと彼女はおっしゃっていました。それから『第二魔術クラブ』のメンバーも『魔術クラブ』に入ってもいいとおっしゃっていましたわ」
わたくしがそう言うと、フレア先輩が詰め寄っておっしゃいます。
「それは本当なの!? サツキ!」
「ええ、本当のことですわ。しかもリリアンヌお姉様は『魔術クラブ』をお去りになるとおっしゃいました。こうなったらヤマト先輩が『魔術クラブ』の部長をするしかありませんわね?」
「そうよ! それで、万事解決だわ! ね、ライデンもそう思うでしょう!?」
「そうだな、俺もそれで文句はない……いや、そうするべきだ」
ライデン先輩が頷くと、他の皆さんも深く頷いて同意なさいます。
それなのに、ヤマト先輩は首を横に振るのですわ。
「いや、ダメだ。リリアンヌ様が部を去ったとしても、部へ出資している第72王女のサラサ様がいる。平民の僕を部長なんかにしたらキミたちまで目をつけられるぞ。だから、僕は……」
なんと、あれほどの情熱を持っていたヤマト先輩が、こんなに気弱になってしまったのですわ!
もしかして、チーム『ヤマト』が優勝したので、満足して燃え尽きてしまったのでしょうか?
わたくしがヤマト先輩の気弱さに一言申そうとした、その時です!
ヤヨイお姉様がヤマト先輩の胸ぐらをつかみ、彼のお顔を殴って壁へとお吹き飛ばしになりました!
フレア先輩は慌ててヤマト先輩に駆け寄ります。
皆さん、ヤヨイお姉様の突然の暴挙に驚いて声も出ませんわ。
フレア先輩に抱き上げられるようにして立ち上がったヤマト先輩。
ヤヨイお姉様は金の縦ロールを跳ねさせながら、彼に向かって叫びます。
「グダグダ言ってんじゃねーぞ! ここにいる全員がテメーに部長をやってもらいたがってんだ!」
「だが――」
「うるせえ! 『だが』もクソもあるか! テメーだって本当はそうしたいんだろうが!」
ヤヨイお姉様にそう言われて、ヤマト先輩は悔しそうなお顔で呟きます。
「僕だってそうしたい……! だが、サラサ様には逆らえないだろう……!」
「まだ言うかコノヤロー! こいつらの顔つきを見てみろよ! あのサラサの言いなりになるような顔に見えるのかよ!? こいつらがどういう気概でテメーを部長にするって言ってんのか、よく考えやがれ天才さんよ! あんまりグチグチ言いやがるようなら、しまいにゃ灰にすんぞ!」
すると、『魔術クラブ』の皆さんはヤマト先輩の周りに集まって、彼を励まします。
「ああ、サラサ様なんかに俺達の『魔術クラブ』をいいようにはさせない! 『魔術クラブ』は俺達のものなんだ!」
「そうですよ! ヤマト先輩!」
「私達と一緒に頑張りましょうよ!」
ヤマト先輩は、また目をうるませながら呟きます。
「みんな……。本当に僕が部長でいいのか……?」
「いいに決まってるわ!」
「他に誰がやれるんだ?」
「部長はヤマト先輩で決まりよ!」
「ありがとう、みんな……。分かった。僕が部長をやる! みんなには苦労をかけるかもしれないが、僕に力を貸してほしい!」
「ヤマト先輩!」
「ヤマト!」
「ヤマトさん!」
ヤマト先輩が『魔術クラブ』の皆さんに囲まれます。
その外で、ヤヨイお姉様が「フン」と鼻をお鳴らしになりました。
もしかしたらお姉様はヤマト先輩以上に熱いお方なのかもしれませんね。
ちょっとしたアクシデントはありましたが、結局ヤマト先輩は『魔術クラブ』の部長の座におさまり、『第二魔術クラブ』のメンバーも『魔術クラブ』へ移籍することになったのでした。
***
さて、その後のことです。
トーナメント開始と同時にどこかへ行ってしまわれていたウヅキお姉様が控室に現れて、チーム『ヤマト』優勝記念パーティを行うとおっしゃいました。
ですので、その場にいた『魔術クラブ』の面々はウヅキお姉様のお屋敷に移動することになりました。
ヤマト先輩が簡単なスピーチをしてパーティが始まります。
彼はスピーチを終えると、すぐに『魔術クラブ』の皆さんに囲まれてしまいました。
彼は大人気ですわ。
ウヅキお姉様は、サバスチャンさんのご用意したごちそうに舌鼓を打ってらっしゃいます。
それだけなら普段通りの微笑ましいウヅキお姉様なのですが、彼女はお子様のくせにお酒を飲もうとなさるのですわ。
それを見つけたわたくしは、すかさず彼女を叱りつけます!
しっかり躾をしておきませんとね!
「おやめなさい! お酒は大人になってからですわ! 我慢しなさい!」
「何言ってるのよ! 私はもう大人よ!」
「ホホホ! 何をおっしゃるのやら! お子様は『千年リンゴ』の果汁100%ジュースで我慢なさい!」
「グラスを返しなさい! この! 子ども扱いしないで!」
クコロお姉様はライデン先輩のそばに行って、笑顔で話しかけていらっしゃいます。
ライデン先輩も厳しいお顔ながら、唇の端をわずかに吊り上げて、クコロお姉様の言ったことに答えています。
クコロお姉様は嬉しそうにはしゃいでいらっしゃいます。
そうそう、ヤヨイお姉様には、結局スカウトは来ませんでしたわ。
『ある事件』が起きたため、会場に来ていらした魔術関係のお仕事に就かれている方々は、スカウトどころではなくなったしまったからです。
なんでも、街の北で大規模かつ強力な魔術反応があったとかで、彼らは調査のために駆り出されてしまったのでした。
ヤヨイお姉様にとってはなんとも不運なことですが、彼女はお怒りになるようなこともなく、こうおっしゃいました。
「スカウトは逃しちまったが、別に気にしちゃいねーよ。久々に全力で魔術を撃てたから、今はいい気分なんだよ。試合にも全勝できたしな」
彼女は強いお酒をグイッとあおって、お続けになられます。
「魔術を競い合うのは思ったより楽しかったぜ。それに、こうやってチームで何か成し遂げるっていうのも悪くねー。グダグダ言ってたヤマトも元サヤに収まったことだしな……。フン、サツキ。ブラック商会のことは水に流してやんよ」
ヤヨイお姉様はニッとお笑いになります。
そして、
「さあ、これからどうすっかな……? 『魔術試合プロトーナメント』でも目指してみるか?」
とお呟きになるのでした。
***
わたくしはパーティの喧騒から離れて、ベランダで涼んでいました。
するとリオン様がやってきて、こうおっしゃるのですわ。
「サツキ、こんなところにいたのか」
「なんですか? リオン様も酔いざましですか?」
「いや違う。さっきキミに手紙が届いたんだ」
そして、彼は白い封筒をわたくしに差し出します。
「わたくし宛てですか? ここはウヅキお姉様のお屋敷なのに?」
不思議に思いながらもわたくしは封筒を受け取りました。
黒い封筒ではないので、わたくしは油断していたのかもしれませんね。
わたくしは封筒の中身をあらためようとして――
「ひいっ!?」
変な悲鳴を上げてしまいましたわ!
その白い封筒の中には、一枚の便箋とともに黒い封筒が入っていたのですわ!
サバトお兄様はヒドイわ!
このような罠を仕掛けるなんて!
せっかくほろ酔いでいい気分だったのに!
一気に酔いがさめてしまったではないですか!
ああっ、ダメよダメダメ!
このようなお手紙は、この世に存在していてはいけませんのよ!
わたくしはリオン様に手紙を突き返し、
「リオン様! このお手紙は誰にも読めないよう細切れにしてくださいな! リオン様が中身に興味がお有りなら読んでも構いませんが、決して! 決して内容をわたくしに知らせないでくださいませ!」
と言い捨てて、強いお酒が置いてあるヤヨイお姉様のテーブルへと向かったのでした。
『第10000王女サツキの王位継承権を17113位より改め15998位とする 王位継承権管理省』
『サツキへ
キミは会場の人たちに、幻術だと言ってごまかしたけど、僕の『女神の目』はごまかせないよ。あれは幻術なんかじゃない。
キミとリリアンヌは会場から消えていたよね?
そして、ちょうどその時刻、街の北で大規模な魔術反応が観測された。
あれはキミの仕業かな?
是非今度、詳しい話を聞かせてほしいな。
キミの躍進を願ってやまないサバトより』




