第二十六話 第10000王女サツキ、死す……?
魔術死合!
それは何でもありの――魔術具すら使用可能な――本気の戦いです!
「 魔術死合など止めるんだ。危険だ」
客席からリオン様がおっしゃいました。
当然、わたくしは彼に頷き返しました。
「リリアンヌお姉様には申し訳ありませんが、わたくし、魔術死合などという野蛮な競技をする気はありません」
わたくしがリリアンヌお姉様に言うと、彼女は、
「あらあら、サツキったら、私との勝負から逃げるつもり?」
と言ってわたくしをあざ笑うのです。
「逃げるというか……リオン様がおっしゃった通り、 魔術死合は危険なのですよ? お姉様の命が」
「私の命が危険ですって!? そんなわけ無いでしょうが! 自分の命の心配をなさい!」
「わたくしの魔力量に嫉妬して入部試験を不合格とするような方に、わたくしを傷つけることは不可能だと思いますが……」
「嫉妬ですって!? 誰があなたなんかにっ――」
「事実ではないですか。リリアンヌお姉様は自分より実力のある平民や、下級貴族を側においておきたくないのでしょう? だから、ヤマト先輩を『魔術クラブ』から追い出したり、わたくしの入部を拒否したりしたのですよね?」
わたくしが指摘すると、客席からヒソヒソ話が聞こえます。
「何だって?」
「リリアンヌ様が、ヤマト先輩を『魔術クラブ』から追い出したのは、そんな理由が……?」
「リリアンヌ様は身勝手なだけじゃくて小物だったのね」
リリアンヌお姉様はお顔を真っ赤にして否定なさいます。
「ちっ、違うわ! 平民や下級貴族に魔術師が務まるわけがないからよ!」
「ですが、このトーナメントでヤマト先輩は負けなしですわ。すでにB級魔術を扱える彼が、優秀な魔術師になるのは誰の目にも明らかですが」
わたくしがそう言うと、会場の皆さんもウンウンと頷いています。
ですがリリアンヌお姉様は首を横に振ってお叫びになるのですわ。
「魔術師は上級貴族と王族のみにするべきなの! 平民や下級貴族が魔術を覚えたら反乱の恐れがあるわ!」
彼女の言い分に、わたくしは呆れてしまいましたわ。
「反乱? いつの時代の話をされているのですか? リリアンヌお姉様は、もう一度この国の歴史をお勉強なさったほうがよろしいと思いますわ。もう数十年もそのような対立は起こっていません。リリアンヌお姉様が勝手に、下級貴族や平民の方々を敵視しているだけではなくって?」
わたくしが、この国の歴史についての知識を披露すると、リリアンヌお姉様は、
「うるさいうるさいうるさい! 生まれの賤しい貧乏人どもが、私より強力な魔術を使うなんて許せないのよ!」
「やはりそれがリリアンヌお姉様の本音ですのね」
「そうよ! それの何が悪いの!?」
リリアンヌお姉様は、ついに開き直りましたわ。
彼女の身勝手さに、会場の皆さんは口をあんぐりと開けて驚いていらっしゃいます。
開き直ったせいで、精神的に余裕ができたのでしょうか? リリアンヌお姉様は落ち着きを取り戻したようです。
彼女は腕を組み、わたくしを見下すようにおっしゃいました。
「フン、この魔術試合団体戦トーナメントには、『魔術省』幹部の方もご覧になっているの。私とサラサお姉様は、その方にお願いしたのよ。『下級貴族や平民が魔術師になることを禁じてほしい』ってね。その方は私達の案に賛成してくださったわ。もし私のチームが優勝すれば、私達の案を具体的な計画にして実行することを約束してくださったの!」
「なんですって!」
「フフフ、そう言えば、あなたのご両親は底辺貴族のくせにA級魔術師を名乗っているのね。でも『魔術省』幹部の方が、そのことも是正してくださるわ!」
「そんなことさせませんわ!」
わたくしはコートに足を踏み入れました。
その瞬間、審判さんの魔術によって、コートからの出入りを禁じられてしまいました!
リリアンヌお姉様は、してやったり、というお顔でお笑いになります。
「アハハッ! まんまとかかったわね! コートに足を踏み入れた時点で魔術死合を受けたことになるのよ! もう逃げられないわよ!」
そして、彼女は懐から小さな杖をお取り出しになられました。
あれは、不死鳥の炎を宿すという『再生の杖』です!
わたくしの指輪を取り上げておきながら、ご自分は魔術具をお使いになるつもりなのだわ!
わたくしが驚いていると、彼女は杖の頭についている魔石を撫でながら
「あなたの両親が、どこに出張に行ったのか知っているかしら?」
と、お尋ねになりました。
「突然何ですか? 場所は分かりません。王国から依頼された極秘任務だと聞いております」
すると彼女は嬉しそうに笑うのです。
そして、意地の悪そうなお顔でおっしゃるのですわ。
「あなたの両親はね! 過去にA級魔術師を殺したことのある竜を討伐に行ったのよ! とっても強い竜だから、あなたの両親はどうなるのかしら? ちゃんと生きて帰ってこれたらいいけどねぇ!」
「なんですって! 極秘任務の内容を、何故リリアンヌお姉様がご存知なのですか!?」
「ホホホ、何故って、そう仕向けたのは私とサラサお姉様だもの! 『目障りな貧乏貴族の魔術師』を葬り去るには丁度いい任務でしょう?」
「なっ……でも! おとうさまとおかあさまは、これまでにも竜を退治したことがあります! 今回だって無事に帰って来てくれる! あなた達の思い通りにはならないから!」
「それはどうかしら? 言ったでしょう、過去にA級魔術師を殺した竜だって。あなただって知っているんじゃないかしら? 五十年前、A級魔術師五人で構成されたチームが、『紅き翼』という名の火竜に殺された事件を!」
「『紅き翼』ですって!?」
かつてこの王国を襲撃し、大勢の犠牲者を出した『紅き翼』のことを言っているの!?
「あはは! あなたのその驚いた顔を、サラサお姉さまにも見せて差し上げたかったわ!」
リリアンヌお姉様は何を言ってらっしゃるの!?
彼女とサラサお姉様が、わたくしの両親を罠にはめたというの!?
「バカみたいよね。あの二人は何も知らないで死んでいくのだから。でも、竜も討伐しておいてほしいし、そうね、相打ちにでもなってくれたら嬉しいわね! 魔術師といってもあの二人は下級貴族。下級貴族や平民なんて、いくらでもかわりがいるもの!」
わたくしは彼女の言うことを受け入れられません。
気分が悪いです。気持ちがざわめきます。
「サツキ! ぼんやりするんじゃない! しっかりしろ!」
リオン様の声が聞こえますが、そんなの無理ですわ。
だって、リリアンヌお姉様がわたくしの両親を死地に追いやったとおっしゃるのですよ。
「なんて勝手なヤツだ!」
「ひどすぎるわ!」
「平民をバカにするな!」
観客からヤジが飛びますが、リリアンヌお姉様は興奮していて意にも介しません。
「ホホホ、あなたがショックを受けてくれたみたいで、私は満足だわ。そろそろ始めましょうか」
震えるわたくしをあざ笑い、リリアンヌお姉様は魔術陣を描いていきます。
「さようなら、サツキ。ご両親とは天国で再会なさい……。再生の炎!」
リリアンヌお姉様の魔力を吸い込んで、『再生の杖』は巨大な炎の鳥を生み出しました。
試合会場を覆ってしまうほどの、大きな火の鳥。
それは大きく口を開き、わたくしを飲み込もうとしています。
わたくしは、ただ、それをぼんやりと眺めていました。
「サツキ!」
その声は、誰のものだったのでしょう?
わたくしがゆっくり振り向くと、コートの外に『第二魔術クラブ』のメンバーたち、そして、客席にリオン様とヨイチお兄様、トウカお兄様が見えました。
ですが、わたくしを包む炎によって、彼らは見えなくなってしまいました。
「あははははっ! あなたは生まれ変わるのよ! 来世は上級貴族の子供になれるように祈りなさい!」
炎の外から、気に障る声が聞こえます。
今更ながら、彼女への怒りがフツフツと湧き上がってきたようです。
そして、その怒りを意識した瞬間、わたくしの中の何かが弾け、目の前が真っ白に染まりました。
***
……あら? ここはどこ?
天国かしら?
わたくしが立っているのは、とても広い、円形の部屋ですわ。
部屋の壁や床は、見たこともない不思議な材質でできています。
床や壁は半透明で、部屋の外の様子が分かるようになっています。
床の下には雲が見え、その隙間から大地が覗いています。
どうやらこの部屋は、空の上に浮かんでいるようなのです。
空に浮かぶ部屋……やはりここは天国なのかしら?
「サツキ」
わたくしが不思議に思いながら床を調べていると、背中から声がかかります。
振り返ると、わたくしと同じくらいの歳の女性がニッコリと笑っていらっしゃいます。
わたくしは思わず息を呑みました!
なんて美しい方なのでしょう!
わたくしと同じ人間とは思えません!
彼女は神々しいオーラをお持ちです。
その上、後光をさしていらっしゃるので、眩しくて眩しくて仕方がないのですが、その美しさに目が離せません。
まったく、罪な方ですわ!
わたくしが目を細めながら彼女の美しいお姿に見惚れていると、その方は口をお開きになられます。
「はじめまして、私は女神です」




