11 僕がやらなくても
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「まずはこの条件で作れたという記録が必要なんじゃよ。魔術合金として登録をするなら誰でも完璧に作れるようにせねばいかん。しかし魔法合金はそうではなかろう」
「はー、なるほど。……魔術合金化ってつまりは量産化ですよね?するのはかなり難しいと思いますけどねぇ」
「そうじゃろうな。いずれにせよ、いかなる事故も責任は負わんと注意書きをする必要があるのう」
「どいつもこいつも、無謀なことやるものねぇ」
ヨランド様がため息をついた。
「あたしんとこにも毒の質問くるかもしれないわねぇ。精製方法くらい自分で調べろって突っ返すけど」
「ハハ、それが良い。錬成以前に毒でトラブっても責任負えねえしな」
チルギ様が苦笑した。
「称号持ちは問い合わせては来ないじゃろうが、おそらく錬金術師が食いつく」
「錬金術師ですか」
「文字通り未知の金属。錬成できたら地位も名誉も手に入るわね」
「ええ!?」
「魔女魔法使いでもそういう考えの奴はいるだろうが、そういう顕示欲が出るのはどっちかというと人間だ。イオルムもよく知ってるだろう」
「ああ、そうですね。よくわかります」
本当に、人間は厄介だ。
「錬成の成否の判断はどうする」
「魔道具師塔の公開審査はどうじゃ。ヨルも立ち会え」
「えっ」
何それ公開審査!?
「現物を見たことがある者が判断するしかあるまい」
「見たことあるのは、僕とメルグリス様とチルギ様とアグナ様とユーク、です」
「アグナは無理じゃな。するとクリ坊か」
「全員揃わんでも良い。ヨルともう一名、できれば二名」
じっと俯いて何かを考え込んでいたヨランド様が顔を上げた。
「……気になったんだけど、そもそも失敗した場合どうなるのかしら。致死量の毒を使うから、まず錬成者が死ぬと思うんだけど」
メルグリス様がこちらに視線を向ける。
「イオルム、毒を服むのは確定事項か?」
「そんなことはないと思いますよ?
僕があの毒を服んだのは、毒っ気がないから弟子入りできない、それなら毒気のなさが僕の毒だ!えーい服んじゃえ!って勢いだったので」
「…………」
僕を見る大人たちの目が冷たい。
「はあ、これだからぴゅあっぴゅあは」
「普通その発想にはならないだろう」
「イオちゃんらしいけどね」
「だってしょうがないじゃないですか!それしか思いつかなかったんですから」
自棄になってワインをゴブレットに注ぐ。
「……ああでも、錬成にあたって僕自身を媒体のひとつにしたので、多少なりとも服む必要はあるかもしれないです」
「なるほど、媒体か」
メルグリス様がそう呟いた後、黙り込んだ。
「それにしてもイオちゃん、よく服もうと思ったわよね」
「無我夢中だったんですよね、とにかくリリスのために成功させなきゃって思って」
「はあ、美談にするなとは言ったけど本当に愛の力ね」
「森に入る前にメルグリス様に言われました。
お前なら研究すれば猛毒を作れるようになるのに、取りに行くのか?って」
「あたしもそう思う」
「それでも、手に入れたかったんですよね。冒険したかったのかもしれないし、目覚めたリリスにすぐ贈って驚かせたかったのかもしれない。どっちもあるかな、とは思います。
……まあ、違う意味で驚かせることにはなっちゃったんですけど」
まさか、こんな身体になるなんて、思いもしなかった。こればかりは本当に、予想外。
しかも神様に片足突っ込んでるだなんて。
「後悔してるの?」
「まだわからないです。あの合金の仕事ぶりを見ないことには」
たぶん大丈夫だろうと思う。けど、実際に毒見として機能させてみないとわからない。
「……仕事、させてみようかな」
ぽつりと呟くと、ヨランド様とチルギ様がギョッとした顔でこちらを見た。
「は!?」
「仕事させるってどういうこと?」
「ああ!ごめんなさい冗談です、大丈夫、冗談。ふふふ」
一瞬よからぬことが頭をよぎっちゃったな。ダメダメ、そういうのは。
それに、僕が何かしなくても、誰かがやってくれるはず。
僕が手を下したら、ダメ。
「……イオちゃん」
呼ばれて顔を上げると、ヨランド様とチルギ様が気遣わしげな目で僕を見ていた。
「ん?何ですか」
「喰われるなよ、イオルム」
「はぁい、頑張りま、あ……れ……?」
急に身体がいうことをきかなくなって。
僕はその場に倒れ込んでしまった。




