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【本編完結】君のために僕は人を捨てた【番外編不定期更新中】  作者: アカツキユイ
幕間 何者でもない

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10 美しい佇まい

ブックマーク・評価・ご感想ありがとうございます!


気がついたら半年以上空いてしまっていました……書いているものにイオルムずっと出てくるので感覚バグってますね、すみません。

この物語のイオルムは、身体が変わって間もなくて色々落ち着いてない少年イオちゃんです。

 パリンと音がして結界が割れた。


「お待たせ」

 ヨランド様が結界から席に着く。

 ゴブレットに残っていたワインを一気に飲み干し、そしてそのまま黙り込んだ。


「……あの、ヨランド様」


 沈黙に耐えかねて声をかける。


「わからなかったわ」

「え?」

「これっていう基準は出せなかったわ。でも試験管に半分あったって言ってたわね?」

「はい」


 僕の返事を聞いて、ヨランド様が目を閉じる。

 目を開き、しばらく床の上を左右に行き来していた後、僕と目が合った。


「……色々見ての憶測だけど、それだけの量があれば世界が滅びるでしょうね。あたしも耐えられる自信がない」


「……そんなにか」

 チルギ様が息を呑む。


「ええ。普通の毒じゃないから。百五十年分の怨嗟を溜め込み、熟成させてできた毒よ?そんじょそこらの生き物でもせいぜい数十年が良いところ。……苦しかったでしょうね、森の主も」


「そっか、それなら良かっ」

「良くないわよ!!」

「……ごめんなさい」

 ヨランド様、反応が速すぎる。


「まったく、本当によく死ななかったわよイオルム。確率にしたら万に一つくらいだったと思って間違いないわ」

「愛の力じゃのう」

「へへへ」

「美談にしないでメルグリス」

「……すまん」


 ヨランド様、メルグリス様にも厳しい。



「合金を毒見の目的で作ったって言ったわね。イオちゃんが望んでいる以上のお仕事をするはずよ」

「そうですか。良かった」

「ちゃんと様子は見るのよ?」

「様子?」

「意思があるんでしょその合金。

 リリスちゃんを傷つけるかもしれないわよ?」


 そうか。

 その可能性は考えてなかった。


「……わかりました」

 そしたら、合金が危害を加えていないか監視するための魔道具が必要だな。傷つけるなんて、ないとは思いたいけど。



「あ、あとさっき分析用に出してもらったイオちゃんの血液、このままもらって良い?培養してみたいの」


 ヨランド様の声が弾んでいる。

 うん、対象は違えど、その気持ちは僕にもわかる。


「構いませんけど……良い毒、出ますか?」

「うまくいけばね!熟成用の器が手に入れば良いけど、ダメなら試験管ね……」


 え?


「器、って、人体ですよね……?」

「ん?ええそうね。ユジヌはそろそろ死刑執行シーズンだから、ちょっと何体か交渉しようかしら」


 交渉……。


「称号持ち怖い……」


「何言ってんのイオちゃん」

「お前も大差ないぞ」

「まったくじゃ」




 ヨランド様がチルギ様にゴブレットを突き出す。

「飲みすぎるなよ、ヨル」

「わかってるわよ」


 ヨルは僕も呼ばれる愛称だ。

 ヨル、ヨル……あ。


「ヨランドだから、ヨル」

「そう。だからあたしはずっとイオって呼ぶでしょ?自分のこと呼んでるみたいで変な気分になるからね」

「なるほど」


 チルギ様が注いだワインを一気に飲み干すと、ヨランド様が豪快に口元を拭った。

 あんなにこすって口紅落ちないのって、やっぱり特製なのかな。


「はー!それにしても久しぶりにこんな良い毒を見たわ。本当に美しかった。やっぱり大事なのは熟成よね!」

「熟成ですか?」


「ええ、薬も毒も、良いものは佇まいが美しい。拡大して構造だけを見るといびつに見えるものも多いけれど、存在感が違うわ、輝いて見える。良い環境で熟成された毒は、寝かせたワインみたいに極上よ」


「へえ」

「だから、粗悪な環境で時間だけ経ってしまったあの毒はダメだったの」


 あの毒、とは、リリスが盛られた百年ものの毒のことだ。

「なるほど」


「……すると、ヨルム合金の毒の量は『致死量以上』で良いのかのう」

「そうですねえ……わかりませんもんねえ……」

「現物があれば良かったんだがな」


「チルギもメルグリスも現物見てるんじゃないの?」

 ヨランド様が首をかしげる。


「見てはおるが、あれは毒の量以上に願いの強さに左右されるな」

「同感だ」

「そうですね。使う毒を自分で採集して精製したのも、願いの強さを示すため、みたいなところあったもんなあ」


「じゃあ、毒の強さと、錬成する理由の強さ、総合的にみて判断されるため明確な基準はない、みたいなことにしたら?」

「そうだな、ぼかすしかなさそうだ」


「……そんな曖昧な基準で通りますか?というかそこまでして申請しないとダメですか?」

 あんなファジーなものに、そこまでする必要があるのかな?


「ダメだ」

「やっておけ」

「しておきなさい」


 チルギ様、メルグリス様、ヨランド様。

 三人の声が重なった。


「ヨルに続く者がおるかはわからん。しかし、正式な記録として残しておいた方が良い。お前を助けることはあっても足枷になることはないはずじゃ。あれはそれだけの価値がある」


「……再現性低いって言ってたじゃないですか」

「製法が画期的すぎるからな。だが、毒見用魔道具の普及が一気に進む可能性がある」


「ああ!そうか」


 毒見用魔道具。

 そうだよ、そもそもそれがスプーンの形しかないから、作ろうって思ったんじゃないか。

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