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136 面倒くさい厄介者たち

 旅をしながら害獣退治をする修行僧たちの、不自然なほどのレベルの高さには驚いたが、平和的に話を聞ける機会は少ないだろう。

 僕はさらに教皇国や教会の内情に踏み込んだ質問をしようと口を開きかけたが、不意のピリついた空気を感じた次の瞬間、椅子を蹴飛ばしながら誰かと一緒に地面を転がっていた。


「ぐえっ」

「旦那様!」


 僕を抱きかかえてかばってくれたのは、ソルだった。


(なにか、テーブルに落ちてきた……!?)


 その影は見えたが、破壊の音も壊れたテーブルの破片もソルの体に遮られて、僕からは見えない。


 バン、バンッ、と銃声が響き、慌てて起き上がろうともがいたけれど、ソルにガッチリと抱え込まれて動けない。そのまま抱きかかえ上げられて避難しているようだが、ソルの肩越しに見えたのは、ハニシェとスハイルがなにかに応戦している姿だった。


「ハニシェ!」

「お下がりください、坊ちゃま!」


 ハニシェの弾丸は正確に相手に向かっていったが、武装に弾かれているようだ。炎や氷の煌きは見えるが、相手の動きは止まらない。

 リロードの間にはスハイルが近づいて時間を稼ぎ、あわよくばナイフの鋭い一撃を加えようとするが、相手は鉄塊のような得物を振り回しているらしい。金属音が響き、しなやかな長身が翻って、瓦礫が散らばる地面に膝をつく。


「スハイル!」

「応!」

「はい!」


 ソルの呼びかけに、ハニシェが特殊音響弾を撃った。

 パキーンと耳を聾する鋭い音に、相手もたまらず足を止めたが、その隙にするすると下がってきたスハイルに、僕はポンと預けられ、代わりにソルが剣を抜き放ちながら突っ込んでいく。


 いつの間に、ここまでのコンビネーションの練習をしたのか。僕は平和ボケした頭で感心するばかりだったけれど、そんな三人を相手取っている闖入者をよく見ようと、スハイルにしがみついたまま首をひねった。


「ハッ!!」

「フンッ!」


 正確に頭を狙ったソルの剣が躱され、軽々と持ち上げられた鉄塊が振り回される。ソルは素早いステップで下がり、それを避ける。


(すごい。リアルで100tハンマーってあるんだな)


 まさに漫画かゲームの世界と言いたくなる、巨大なハンマーだ。どこに重心があるのか、どういう運動になっているのか、まったくもってファンタジー。そして、それを振り回しているのは……。


「女の人?」


 僕の口がポカーンと開いたのは、なにもハンマーを振り回しているのが、長い髪の女の人だったからだけではない。


(びっ、ビキニアーマーだ!!!!!)


 それはもう見事な肉体美をお持ちの彼女を包んで……いや、包んでねーな。ちょっと目のやり場に困るような、極小面積しか隠せていないビキニアーマー姿だ。


「お控えられよ、レイチェル殿下!!」


 ソルとビキニアーマーの激しい戦いに見入っていたら、巻き込まれたらしい通行人を避難させていたバニタスが戻ってきて、声を張り上げた。


(殿下? え、あのビキニアーマー、どこかの王族なの?)


 それはちょっと、面倒な。こちらは攻撃を受けた方だけれど、僕もソルたちを下がらせることにした。


「ソル! ハニシェ!」

「はい!」

「はい、坊ちゃま!」


 二人とも僕の意向を酌んでくれたけれど、レイチェル殿下とやらからの攻撃がおさまらず、なかなか距離が取れない。


「殿下!!」

「チッ」


 ついにバニタスが身を割り込ませてくれたおかげで、ソルとハニシェは息を切らせながら僕の前まで下がることができた。


『余所者の分際で、邪魔をしないでいただけます?』

『邪魔をしてきたのは貴女ではありませんか! 彼らは重要な情報を持っています』

『ならば、我が国で聴取いたしますわ。余所者の出る幕ではありません!』

『では、なぜいきなり攻撃された!?』

『卑賎の身でありながら王族に対して意見するか、無礼者め!』


 バニタスとビキニアーマーが、斬り結びながら怒鳴り合っている。フロダ国の言葉なのか、何言っているのかはわからないけれど、なんか知り合い同士で揉めているのはわかった。


「……逃げるか」

「「「はい」」」


 互角に戦っているあたり、双方とも高レベルなのは見てわかったし、片方は王族であるらしい。面倒ごとに巻き込まれる前に、さっさとトンズラした方が良さそうだ。


 【隠密】持ちのスハイルを殿に、僕らはすさささっと周囲の人混みに紛れて逃げ出した。冒険者ギルドに預けてあった大山羊車に乗り込み、急いで町の外の人気のないところまで行って、箱庭に入った。


「みんな、怪我はない?」

「私は大丈夫です。スハイルさんとソルさんが……」

「あのハンマーにかすっただけで手が痺れましたけど、問題ありません」

「同じく。少し、服を汚してしまいました」


 大山羊車から降りながらたずねると、僕を含めて服越しの擦り傷や軽い打撲程度で、大きな怪我はしていないようだ。ひとまず、胸をなでおろす。


「それにしても、びっくりしたな。あのビキニアーマーもアレだったけど、キミら、いつの間にそんなに強くなったの?」


 思わず素で零れた呟きに、唇に指を立てたスハイルがそっと囁き返してくれた。


「ハセガワ殿に、死ぬほどしごかれましたので」

「お、おう……」


 今度から、心の中でハセガワを鬼軍曹と呼ぼう。


(ハセガワに、そんな知識を詰め込んだ覚えはないんだけどな……)


 僕は僕の執事を強く創りはしたけど、素人を軍人みたいに鍛えられるほど対人戦のスペシャリストとしたつもりはない。

 ハニシェがハセガワに師事したのだって、体力作りが目的だったはずだ。それが、ソルとスハイルの援護ができるまでになっていたなんて。


「それに、坊ちゃまからお貸しいただいたブローチのおかげです。あんなに冷静に動けるなんて、自分でも驚きました」

「ハニシェは初手で、あの女の顔を吹き飛ばそうとしましたね。私以上に度胸がありましたよ」

「え、えっと……その、ちょうどいい所に、狙いがきましたので、つい……。でも、防がれてしまいましたし……」


 スハイルに見られていたことで、恥ずかしそうに赤くなるハニシェ。

 結果として防がれたとしても、あのハニシェが人間を躊躇なく殺そうとできたのは、本当に驚きだ。いくら相手から襲ってきたのだとしても、いくら魔導銃を持っていたとはいっても、瞬時に排除すべきと判断して行動したなら、それはもう立派な護衛なのだ。


「ハニシェ……」

「坊ちゃまがご無事であれば、ハニシェはそれが一番嬉しゅうございます」


 ハニシェに優しく抱きしめられて、むにゅっと柔らかさに包まれれば、突然のアクシデントに強張っていた僕の心と体からも、少し力が抜けたようだ。


「みんな、がんばってくれたんだね」

「旦那様を護るのが、俺たちの仕事ですから」


 大山羊車からエースを外して連れていくソルの言葉に、ハニシェもスハイルも頷いている。そうか、僕のためか。


「護ってくれて、ありがとう!」

「はい」

「坊ちゃまがご無事で、ようございました」

「お疲れになったでしょう。さあ、中に入って、少し休みましょう」


 もう安全な箱庭の中だというのに、僕は家に入るまで、従者たちに厳重に囲まれて歩くことになった。




 いきなり襲撃されて驚いたけれど、僕がフロダ国の首都にある冒険者ギルドに行くことに変更はない。しかも、また横やりが入る前に、急がなくてはならないだろう。


 でもその前に、情報収集が必要だ。

 僕はアトリエのミニ会議室で、カガミから報告を聞いた。


「やっぱり、王女様なんだ」

「はい。レイチェル・ファー・ガンダロイアは、フロダ国第三王女。通称、暴力姫です」

「そのまんまだな」


 ビキニアーマーが隠せていない、太い荒縄が巻き付いたようなバキバキの筋肉を思い出し、僕はちょっとげんなりした。艶やかな濃紺色の髪や、瑞々しい褐色の肌は、たぶんとても魅力的だと思う。だけど、いきなり巨大ハンマーで殴りかかってくるのはいただけない。


「それから、バニタスという男ですが、こちらもライシーカ教皇国の高位階級出身です」

「やっぱりな。話し方といい、所作といい、庶民とは思えなかったもん」


 しかし、僕の認識はまだ甘かったようだ。

 教皇国では、各地方を治めるための領主が教皇によって任命されており、彼らは教皇の下で枢機卿院を構成している。はじめは世襲ではなかったものの、周辺国への侵略を繰り返して国が巨大化していく長い年月の中で、それは貴族と変わりなくなり、世俗的で巨大な権力を持つようになった。


「バニタスの生まれはベルマーゼ枢機卿の庶子で、辺境の貴族家で育てられました。ベルマーゼは教皇国で最も力のある枢機卿の一人であり、あのミシュルト大司教の上長にあたるロッダニーモ枢機卿とは競争相手になります」


 また面倒くさい背後関係がきたよ! んもう!


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