第20話 ヒロインが歩けば、フラグに当たる。
出口に向けて猛ダッシュ中。
足は早くないので、スピードはそれほどなんだけども。
所々で出会う人たちに、必死に出口までの道のりを聞いた。
途中『デアエ!デアエー!』とシトロンが騎士とか送り込んで来ないかを振り向きながら、知らない廊下を走っている。
ていうか広すぎなんだけど!
こんな事なら持久走とか真面目にやっとけばもう少しマシに走れたのかも……。
ゼイゼイと上がった息を整えつつ、ひたすら出口を目指し走っていった。
今頃ノーマンがうちに連絡してくれているかも、なんて期待を持って。
そしたらきっとお母様がパパに連絡してくれて、私を迎えに来てくれているかもじゃん。
もしくはウー様がテレポートとかで私を探しに……なんて事はないだろうけど。
さっきの人の話だと、この廊下を越えた先を左に曲がると、出口だと言ってたよな。
あと少しなんだけど、もつれる足でこけそうになり、とりあえず柱と柱の真ん中で身を潜めるように座り込んでしまった。
呼吸は落ち着かないけどここで時間を取られているわけには行かないので、息を大きく吸い込み立ち上がる。
そして再び足ろうと、柱の影から飛び出した。
『ドスンッ』
柱を出てすぐ、何かにぶつかる。
一瞬なにが起こったか思考が止まり、恐る恐るぶつかったモノに視線を送ると……。
「……ブラウン嬢?」
見開いたまま固まる私の目の前には、トーマが立っていたのだった。
「……えッ」
よくよく考えたら、いてもおかしくないよね。
ここ、お城。
この人、王子様。
ここに住んでいるんだから、会ってもおかしくない。
だけど今の思考だとそれがどうにも繋がらない。
「何故ここに?」
という質問に、何だかよくわからない受け答えになっていた。
「ここ、なんで、あなたが!?
私、帰る、おウチに……!」
慌ててトーマから離れて、身振り手振りのカタコト星人。
そんな私を首を傾げながら見つめているトーマサマ。
ああ、もうだめだ。
セイラも歩けば、フラグに当たる。
強制力など滅んでしまえ!!
私はパニックになり、意識を失ってしまった。
+++
気がつくと、どこかのソファーに寝かされていた。
何かが私の手を握っているような気がして、ふとそちらに視線を送る。
私の手を握っていたのは……パパだった。
「パパあああ!!!」
思わずぎゅっと抱きつくと、パパはグッと眉を寄せ私を抱き寄せた。
「セイラ……本当に心配したよ。
君は酸欠で倒れたらしい……何でまた酸欠に……。」
ええ、それはですね。
自分の限界を振り切って走ったからです。
この鈍臭いワタクシメが、必死に。
必死に走ったからですよ、パパ。
思わず悟りを開くような顔をしていると、パパが私をそっとソファーに寝かせた。
「セイラが学校から城に連れ去られたと連絡がママから来てね。
私は丁度仕事で城にいたのが幸いして、君を探してたんだよ。
……そしたら君を抱えた第一王子殿下に会って、ここで休ませてもらってたんだ。」
ゆっくりと視線を動かすと、パパの後ろに医者らしき人がいて、その奥にトーマの姿が見える。
そしてビビりつつもシトロンがいるかを目で探し回ったが、いないようなのでホッとした。
「セイラ、事情を説明できるかい?」
パパの言葉にゆっくりと起き上がり、私は頷いた。
「突然シトロン殿下にホールド抱っこで連れ去られました。」
「……ホールド、ダッコ……?」
「失敬、抱き抱えられて。」
私の言葉に一瞬みんな理解できなかったのか、首を傾げた。
ちょっと面白かった。
「……セイラは第二王子殿下と以前から知り合いなのかい?」
「知り合いじゃないよ。
というかこないだ屋上でご飯食べてた時にちょっと知ったぐらいだもん。」
「……じゃあ何故突然セイラを……。」
「分からないよ。
あ、でもお茶会に招待、とか言ってた気がする……」
私の言葉を後ろで聞いてたトーマが怪訝そうな表情で近寄ってきた。
「ブラウン男爵……すまない、私のせいかも知れない。」
突然のトーマの言葉にパパも驚いて立ち上がる。
「いえいえ、王太子殿下のせいではないかと……」
事情が飲み込めてないパパは謙遜してたが、まさしくトーマの所為で間違い無いんだなぁこれが。
ゲームをやってたからわかるけど、『トーマが興味を持った私』に興味を持ったのである。
シトロンは同い年なのに自分の方が少し後に生まれたことをすごく気にしていた。
だけど、どれだけシトロンが年上でも、正妻の息子であるトーマが王位継承権を放棄しない限り、側室の息子のシトロンが王位継承する事は難しいのだ。
だが野心家の母はシトロンに、何としても王位につけとそればかりをシトロンに望んでいたのだった。
だからシトロンはいつも、トーマが失脚する事ばかりを思案しているはず……。
それをトーマも感じ取っているのだろう。
なので彼の言い分は『正しい』のだ。
だけど別に私はトーマのせいでここにいるとは思っていない。
全てはフラグのせいなのだ……。
とりあえず見つかったのがトーマで本当によかった。
シトロンに捕まっていたら、今頃『YES』というまで監禁されてたかも知れない。
私はゆっくりと立ち上がると、トーマにお辞儀をした。
ちょっとフラつくけどヘーキヘーキ。
「第一王子殿下、助けていただいてありがとうございました。」
頭を下げる私をそっと支えるように肩を抱く。
「ダメだ、まだ横になっていないと……!」
支えられたまま、抱き抱えられる。
……これだよ。
この兄弟そっくりだなって思うのが、これ。
これが『ホールド抱っこ』ですよ……。
意を言わさぬ抱っこに、パパもびっくりしていた。
『殿下に娘を抱き抱えさせるにはー』とか、『私が変わって抱き抱えますのでー』とか言っていたのに聞こえないふり。
「構わない、私が彼女を馬車まで運ぼう。」
なんて言いやがる。
誰に見られるかなんて分からないのに、やめてくれえええ!!
拒否しようと首を振ったら余計にクラクラしてしまい、トーマの思うがままとなった。
神様!こいつとくっ付けようとしてませんか!?
なにこれ、プレイヤーでもいるんじゃねーのか!?
トーマの指示によりパパは馬車を門の中まで呼びに行った。
その間私はホールド状態のまま、覇者へと運ばれている状態。
その時トーマがボソリと呟いた。
私にしか聞こえないぐらいの声で。
「セイラ嬢、すまなかった。
シトロンには君に関わらないように、キツく注意をしておくから……。」
本当に申し訳なさそうな顔して、私を見つめている。
そんな顔されたら、私だって『許さん!』とは言えないじゃん……。
「いえ、そんな……謝らないで下さい……。」
なんて返していいか分からず、下手くそな笑みを浮かべる。
そんな私に照れたように笑うトーマサマ。
うう、眩しい……!イケメン眩しいよぉ。
陽を避けるような仕草で、トーマの笑みを遮っていたら、玄関のホールが見える。
ああ、やっと帰れる……。
ホッとした私を抱えたまま、トーマの唇が微かに綻んだ。
そろそろ玄関ホールを抜けるぐらいの時に、意を決したようにトーマが言った。
「セイラ嬢、私と友達になってくれないか?」
「え?」
私がトーマを見上げると、視線の奥にパパが見える。
多分パパにも聞こえていたようで、すごい顔をして固まっていた。
まぁそもそも第二王子に抱き抱えられ連れ去られた娘が、今度は第一王子に抱き抱えられ友人になってほしいと言われているんだもの。
パパの立場上、泡吹いて倒れてもおかしくない。
私が見ているのをわかっていて、パパが両手を広げて何かを合図している。
バタバタ手を振って、なにの合図だ?
ん?もしかして断ってもおkってことかな?
思わず首を傾げるが私の顔に何か書いていたのか、パパは焦ったように大きくバツを両手で作った。
ん?ん!?どっち?
パパを見て私が怪訝そうな顔をしているのを気が付いたのか、私を抱っこしたままクルリとパパの方を向いた。
「ブラウン男爵、よかったらお嬢さんと友達になってもよろしいか?」
「は!?え??」
何でパパに聞いたんだ!?
今度は私がパパに両手で罰を作ったが、パパの顔色はとても悪くなっていっている。
父の立場と男爵の立場で迷っているのか、若干私より顔色が悪い。
そしてそんな顔色のままニッコリと微笑むと、口を開いた。
「も……勿論ですとも!娘もとても喜んでおります!」
と、揉み手で言いやがった。
パパー!?
ちょっと待って、今私を裏切った!?
胸元で作っているクロスを大きく上にあげようとしたら、トーマが私を見つめていることに気がつく。
げ、やばッ。
慌てて私はそのクロスな両手を、ミイラの眠るポースのように、胸にそっとおいた。
「はいぃ、喜んでぇ……」
下手くそな笑顔を作りそう言った。
だってそういうしか無いじゃない!!
くそう、こんなの職権濫用じゃないか!
絶対パパがいるの分かってて言ったでしょ。
トーマも意外に策士じゃんか!
だがそんなトーマの顔はとても嬉しそうに微笑まれていた。
「セイラ、ありがとう。」
はいもう呼び捨てだし。
ホクホクとトーマは私を馬車に乗せ、笑顔で手を振ってくれた。
パパは帰りの馬車でひたすら後悔と反省中で、私ももう疲労困憊だし。
ゴトゴト揺れる馬車の中で、親子揃ってうめき合っていた。




