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18.優勢のような何か

 山からなだれ込む大量の黒光りしたモンスター達。

 こいつらは普段地面にいる為土魔法の類の効きが悪く、泳げるので水の魔法も相性は良くない。

 硬い殻に覆われ、接近戦は基本的に不利。

 しかし関節部は非常に細く、そこを狙えば有効打が期待できる。


 とある地点から、一気にアリの動きが鈍くなる。

 ライトベルの呪術の範囲に入った証拠だ。


「今だ! 我が軍団の精鋭よ、うてぇー! 」

「おい! なんでお前が指示してるんだよハゲ!」

「ハゲてねぇよおでこが広いだけだよ!」


 コントのような荒くれたちの声と共に、一斉に矢が放たれる。

 その中には、初めて矢を撃ったという者も一割ぐらいいたようだ。

 しかしそれでも問題はない。

 とりあえず前にちゃんと飛べさえすれば、狙いをつけずとも俺の精霊魔法でなんとかなる。

 全ての矢は飛距離を伸ばされ、アリたちの急所へ誘導される。

 俺の精霊魔法によって。


「いやー、流石ユーハさま。爽快ですね」

「私は小さい頃に弓を諦めたが、また習ってみるのもいいかもな」

「うー!」


 マイだけでなく、一応練習していたロントとスランも矢の雨に参加する。

 普段では出来ない作戦だな。


 次々に放たれる矢の雨は、アリの足や首や腹の関節を次々と撃ちぬいてゆく。

 動きを停止したアリは、後続のアリの勢いを止めるストッパーになる。

 時間を稼げば、次の矢を撃つ時間となる。


「ユーハさん、順調ですね!」

「そうだな、フマウンの方を支援出来ない分も頑張らないと」

「……私とユーハがいれば、余裕」


 そんな中、後ろのベッドで眠っていたトロープさんが目を覚ました。

 正確にはカー君の視界を共有していたというべきか。


「どうでした?」

「結構良い感じですね、アリの第一陣の勢いは大分殺せてます。このままで大丈夫だと思いますよ」

「ほー」

「それより、そろそろ面白いものが見れますよ? バルコニーから西を見てください」

「西?」

「……見れない」

「私も見たいです!」

「……レナ、私も見れないの。だから駄目」

「えー!」


 ならば俺達がしっかりと見てやる必要があるな。

 リアたちを引き連れて、バルコニーへと向かう。


「うわぁ、おっきい雲ですね!」

「積乱雲だな、夏の名物詩の1つだ」


 ライトベルが出した別とはまた違う雲が、フマウンの上空で発生していた。

 遠くから見ると非常に白く高い雲だ。

 あの雲は時に大雨や強い雷を発生させる。


「ん、何か一筋の線がありますね」

「あれは、竜巻か?」

《確か、フマウンには最強の風使いさんがいるんでしたね》

「あー」


 竜巻はその太さをどんどん増している。

 自然の驚異ではあるが、人間がモンスターに対して使うなら心強いなぁ。

 下にいる男どもがもうテンション上がりっぱなしで叫び声とか上げているし。


「おー! 俺達もこんなアリどもぶっ潰そうぜー!」

「やれる! 俺達ならやれるぞ!」


 そんな事を言いつつ、突撃する弓を撃てない人たち。

 うーん、大丈夫かなぁ。まぁ大丈夫だろう。




 ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~




 アリの最後の一匹を始末したのを確認した。

 目の前にアリの山が作られている。

 うーん、邪魔だなぁコレ。


 カー君が空から降りて来た。

 こいつはほぼ一晩不眠不休で働いているらしい。

 リアたちとの距離が離れているのを確認すると、こっそり話しかける。


『お疲れさん』

『あぁ、おめーさんもお疲れさん』

『いやー楽勝だったな』

『まぁ楽勝ではあるけど、気を抜くんじゃねぇぞ?』

『え? 終わりじゃないのか?』

《何言ってるんですかユーハさん、まだ半分ですよ?》

『さっきアネさんが言ってたじゃねぇか。第一陣だってよ』


 どうやら聞いていないのは俺だけだったらしい。

 下にいるゴロツキどもも、ちゃんと次の攻撃に備えて矢の補充をしている。

 何か悔しい気分だ。


《ユーハさんが精霊魔法に集中するように、戦況はなるべく伝えない方針だったっぽいですね》

『とは言われても、魔力の問題がだな』

『ハッ、もう魔力使い切ったのか?』

『使い切ってはないけど、3割ぐらいしか残ってない』

《ユーハさん、3割しか魔力残ってないんですか?》


 うーん、大丈夫かなぁ。

 本来ならもっと大人数に精霊魔法をかけれるが、300人しかいないからと調子にのって結構色々かけてしまった。

 近接タイプの奴に魔力を上げる精霊魔法とか必要無かったろうに。


「……ユハ」

「おおう、どうした」

「……魔力ないなら、コレを齧ると良い」

「魔力結石かー」


 そういや、昔ライトベルが魔力結石を齧りながら戦ってたな。

 うーん、見るからに宝石というか研磨してない水晶みたいな見てくれで食べたくない。


 魔力結石は確かに高価だが、今回富豪がちょいちょいいた事によって多少支給された。

 しかも魔術協会と違って持ち帰ってもいいとのこと。太っ腹だ。


 という訳でコレを食べてもいいと言えばいいのだが、正直凄い嫌だ。

 でも、俺に魔力結石を向けるだけでは恐らく魔力の回復が間に合わない。

 くっ、齧るしかないのか。


「……ちなみに、この魔力結石は私が魔力を貯めた物」

「何か呪われてそうだな」

「……だから、私とのキスだと、私の味だと思って齧って」

「お、おう……」


 ライトベルから期待の眼差しを浴びせられる。

 人体に悪影響は無いらしいが……。

 ええいままよっ!




 まず口に広がったのは甘い味だった。

 次に懐かしさを感じた。

 前々世で、非常に好きだった食べ物の味だ。


《ユーハさん、どうですか? 味は》

(完全に佃煮の味だコレ)


 うめぇ。

 ご飯にかけて食べたい。

 ちなみに、誰が魔力を込めたかによって味が変わるそうだ。

 食感はガラス食ってるみたいな感じだけどな。





 ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~





 それから10分後、空を飛ぶカー君が再び円を描いた。

 第二陣の到着だ。

 とはいえ、状況はほとんど変わらないはずだ。

 300人程度だったこちらの陣営は、寝坊で遅刻してた者が加わって350人程度にまで増えた。

 矢の本数は潤沢。

 俺とライトベルの魔力も余裕がある。

 カー君からは気を抜くなと言われたが、正直やる事は変わりないはずだ。

 そう思っていた。

 その声を聞くまでは。





「ひぃ!」

「どうした!?」

《三点リーダが無かった!?》


 ライトベルが、突然小さく悲鳴をあげた。

 そしてその場で縮こまってしまった。


「どうした、何があった?」

「……同じ、ナフィの時と同じ魔力」

「ナフィと?」


 駄目だ、何を言いたいのか全く分からない。

 ナフィと同じ……これは何を指しているんだ?

 その答えは、すぐに出た。


 アリの群れが先ほどと同じように登場した。

 そしてそのままこちらの方向へ雪崩れ込んできた。

 いや、同じようにではない。

 先ほどより明確に勢いが増している。

 いや、足が速くなっている。

 そして、それは雲に描かれた魔法陣の中に入っても一緒だった。


「おい、どうなってる?」

「……負けた、力が勝てない」

「力が勝てない?」

『そっからはオイラが解説してやるよ』


 カー君が空から降りて来た。

 アリたちに呪術が効いていない?

 コレって相当マズいんじゃないだろうか。

 カー君がバルコニーの手すりに降り立つと、バサッと翼を広げた。


『おめーさん、もしかして魔力の流れを感じられてないんじゃないか?』

『あぁ、そうなんだけどそれがどうした?』

『ハッ、この状態で冷静でいられるのは状況が分かってないってだけさ。ほれ、爪の先っぽを触ってみな。何が起きてるのか体感させてやる』


 一瞬迷ったが、カー君の爪の先に触れた。

 その瞬間、何かを感じるよりも前に鳥肌が立った。

 まるでアリの方角から、大量のナイフがなだれ込んで来るかのような。

 恐怖? 脅威? 駄目だ、言葉には表せない。

 とにかく、おぞましい何かがそこにいるという感覚だ。


『何だ、コレ』

『こりゃあ、精霊魔法だよ。誰かのな』

『精霊魔法?』

『おめーさんよりも格上の奴さ。それがアリの大群に向けて、呪術を上書きして、そりゃあもう強力なものをかけてるのさ』

『呪術を上書き……いやそれ以前に』


 呪術を上書き。これは凄い気になる言葉だ。

 だが、その前にもっと気になる事がある。

 ライトベルが言った、ナフィと同じというものだ。


「ライトベル、アリたちに精霊魔法がかかってるんだな? それで精霊魔法をかけているのは、ナフィのあの精霊魔法と一緒なんだな?」

「……うん」

「分かった」


 俺らを邪魔し、結果ロントが怪我を負ったあの精霊魔法。

 まさかこんなところで阻害してくるとは。


 何か手を打たなければならない。

 このままでは、マーシュごとパーティーが全滅するのは不可避だろう。

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