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この村の灯り(修正版)  作者: 堺大和
20/50

投票前夜

冬休みに入ると 村の気配が戻ってきた

年末のバスから降りてくるのは

久し振りの顔ばかりだ

葵とさくらも そのひとりだった

大きな荷物を抱え 

吐く息を白くしながら歩く

「やっぱり 寒さが違うな」

「でも この感じ 嫌いじゃない」

二人はそう言って 笑った


役場では 

年内最後の仕事が静かに進んでいた

成人式の名簿確認

住民投票の投票所設営計画

配布物の部数チェック

「これで 全部ですね」

菫が言う

「はい」

私は机の上の書類を揃えた

「成人式も投票も年明け一気に来ますから」

慌ただしさはない

やるべきことは もう終えている

午後 仕事納めの挨拶が簡単に行われた

拍手も短く 形式ばらない

「良いお年を」

その言葉が 少し重く聞こえた


大晦日の夜

村の神社には 

ぽつりぽつりと人が集まり始める

焚き火の音 甘酒の湯気

遠くでなる鐘の準備の音

「久しぶりやな」

「ああ帰ってきたで」

都会に出た若者も 村に残った人も

この夜だけは同じ場所に立つ


一月二日

役場の時計は もう八時を過ぎていた

庁舎の廊下は静まりかえっている

昼間は明日の準備の為

人が出入りしていた

今は灯りが落ちていた

ふるさと振興課の部屋だけに

まだ電気がついている

私は机の上の書類を閉じた

明日の住民投票の資料だった

「…終わりか」

小さく呟く

椅子の背にもたれて天井をみる

ここ数カ月 ずっとこの仕事をして来た

説明会

住民からの電話

賛成と反対

どちらの声も聞いた

このままでは村が消える

誰かが決めないと進まない

私は思っていた

正しい答えは 最後まで分からなかった

私は立ち上がった

役場の玄関を出る

外の空気は冷たかった

夜の村は静かだった

遠くで犬の声が聞こえる

私は坂道をゆっくり歩いた

役場の明かりが後ろに小さくなっていく

道の途中で立ち止まった

山の斜面に 家の灯りが見える

ぽつぽつと

全部ではない

暗い家も多い

空き家もある

それでも灯りは残っていた

台所の灯り

テレビの光

誰かが今 そこにいる

私はその光を暫く見ていた

この村はどうなるのだろう

道の駅が出来ても 人口は減る

若い人は出ていく

それでもやる意味は有るのか

自分は間違っていないのか

私は小さく息を吐いた

その時 母の言葉を思い出した

灯りがついとるやろ

灯りが消えたら そこは村やない

私はもう一度 山の家々を見た

灯りはまだある

全部ではない

でも残っている

私はゆっくり歩きだした

明日 この村の人たちが決める

それでいい

役場が決める事じゃない

ここに住む人たちが決める事だ

坂の上に上がると 村が少し見渡せた

夜の山の中に小さな灯りが散っている

私はその景色を見ながら 小さく言った

「まだ消えていない」

その灯りは 夜の中で静かに光っていた


一月三日の朝は 澄んでいた

空気が冷たく息が白い

村の集会所の前には 

まだ日が高くなる前から人影が動いている

成人式の準備は夜明け前から始まっていた

椅子の配置 音響の確認 

名簿の最終チェック

私は無線を肩にかけたまま 

会場と控室を行き来している

「受付 椅子の確認お願いします」

「はい すぐ」

裏方の声が短く飛び交う

華やかな式の裏側は いつも地味で忙しい


菫は式次第の束を抱えていた

表紙に書かれた「祝 成人」の文字が 

少しだけ眩しい


「晴れてよかったですね」


そう言いながらも 視線は時計に向く

今日は 成人式だけの日ではない

外では 

振袖やスーツに身を包んだ新成人たちが

集まり始めていた

久し振りに顔を合わせる同級生同士の声が

場内まで響く


その時集会所の前に見慣れない車が止まった

アンテナの付いた車

カメラバックを肩にかけた人影

「…来ましたね」

菫が小さく言う

「毎年 ですからね」

私は とくに驚かない

理由は分かっている この村の成人式は

毎年「日本一早い」と言われている

帰省のピークに合わせたこの日程

「少しだけ対応します」

菫が外にでた

「おはようございます

今日は何の取材でしょうか」

「成人式の様子を少し

毎年早いですよね」

カメラは晴れ着の新成人に向けられる

「地元に帰ってきて どうですか?」

「懐かしいです」

「将来は?」

そんなやり取りが続く

そのうち カメラマンが周囲を見回した

「…あれ 住民投票の案内が出てますよね?」

掲示板の一角に 静かに貼られた紙


一月三日 住民投票実施


菫は一瞬だけ間を置いて答える

「はい 今日が投票日です」

「成人式と同じ日なんですか」

「この辺りでは 一番人が戻る日なので」

記者は 少し興味を示した

「何の投票ですか?」

「道の駅誘致についてです」

その言葉に カメラの向きが変わる

だが 菫はそれ以上説明しない

「詳細は こちらに資料があります」

それだけで十分だった


午前十時

成人式が始まる

壇上では 祝辞が読み上げられた

新成人たちは 少し照れた顔で座っている

私は会場後方で立ったまま様子を見る

時計を一度だけ確認した

投票は既に始まっている

華やかな式の陰で

静かな判断の時間が同時に進んでいた

午前中は まだ穏やかだった

役場の人間だけは よく分かっていた

正午が近づくにつれ

集会所の外の空気が少し変わった

成人式の余韻が残る一方で

人の流れが投票所の方へと向き始める

カメラは再び回り出したのは 

その頃だった

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― 新着の感想 ―
 堺大和さん、こんにちは。 「この村の灯り(修正版) 投票前夜」拝読致しました。  年末の帰省。成人式。投票準備。  もう一度、灯りの意味を確かめる。  消すか消さないかは、村人一人一人が決める事…
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