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悪役令嬢の母は娘をモブにして乙女ゲームの余波を生きる  作者: 二木公子


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お茶会の後9

 今日一日でたくさんの情報が入ってきました。

 良いことも、頭が痛いことも、本当にたくさんございます。


 頭の中を巡る幾重もの事に、おもわず、独り言が出てしまいました。


「どのように進めていきましょう。」 


「…もう遅いよ。今日はもう休もう。」


 わたくしの独り言に、夫が区切りをくださいます。

 わたくしが色々と考えているとわかっていらっしゃるのでしょう。


「えぇ。そうですね。そうしましょう。」


 返し、つとめて、頭の中にある数多の情報をゆっくり、ゆっくりと、いったん意識の外に沈めてゆきます。


 その途中、頭のなかで 明白な、けれども考えないように脇に避けていた事実が浮かび上がりました。



 夫の命が狙われたという事実でございます。



 これがよぎってしまったら、たがゆるんでしまいました。


 涙がこぼれそうです。


 浴室の支度もそろそろ終わる頃なこともあり、夫に気が付かれる前に退出しようとしますが、立ち上がれません。


 わたくしはこの服を脱がなければなりません。

 一日中着ていたこの服の手入れをしなければ、使用人たちは眠れないのです。

 わかっていても動きません。体に力がが入らないのです。


 わたくしは立つことを諦め、少しでも耐えようと上を向き、腕で目元を覆いました。

 落ち着こうとしますが、うまくいかず、後悔が沸き上がって来ます。


 二ヶ月前、領地に向かう直前に夫が伝えてくれたあの空気を何故使えなかったのか。夫が危険な状態であることを感じ取ることができていていたのに、なぜ動けなかったのか。

 自分の心を守るために、領から王都へ何も働きかけを行わなかったことが悔しくてなりません。

 自分の不安に振り回され、根拠もなく大丈夫だと思い込んでしまったのです。わたくしの足りないところでございます。

 もっと、もっと何か出きたはずです。手を回すべきでございました。

 もし、もし、そうしていれば…夫に、いえ、マークは…。命が危ぶまれることなどなかったかもしれないのです。

 なぜ気が付かなかったでしょうか。




「セシリア?」


 わたくしがおかしな姿勢で動かないからでしょう。夫が心配した声をかけてくださいました。

 夫から見えているかはわかりませんが、口角を少しだけ上げて、立ち上がらない言い訳を述べます。


「少し疲れました。」

 

「そうか。」


 そのまましばらくはそうしておりました。


 少しして、ふと、そばに気配を感じたと思ったら、夫の手がわたくしの首すじに当てられました。


 医者でもないのにわたくしの脈でも測っていらっしゃるのでしょうか?

 面白いことをなさいます。


 少し驚きましたが、当てられた夫の手が温かく、とても心地良く感じられます。


 この心地よさを続かせたく思い、首すじに添えられた夫の手にわたくしの手を重ねました。

 わたくしの首と手で夫の手を押さえるように、ほんの少し力をかけて夫の手を挟みます。


「君が悪いことなんて何一つない。至らないところもない。」


 夫はわたくしを見透かしているのでしょうか。


 夫の言葉にポロポロと涙がこぼれてきてしまいました。


「心配かけたね。」


 本当に!、と強く怒りたいと思いましたが、しかし、言葉が喉につかえて出てきません。



 会えて良かった。

 夫が生きていて良かった。本当に良かった。

 生きている夫に会えて、温かさを温もりを感じることができてどれほど、どれほど感謝をしたら良いのか。


 本当に、本当にありがたいことです。



 わたくしの涙が落ち着くまでのしばらくの間、夫は手を貸してくださいました。



「もう大丈夫です。」


 涙が落ち着いてから、少しだけ笑ってみせると、夫は頷き返してくださいました。


 わたくしから手を離す際に、重ねていたわたくしの手を軽く握り、そのままわたくしを引き寄せるように、立たせて下さいました。

 不思議なことに、先ほどはなぜ立てなかったか思うほど、自然と立ち上がることができたのでございます。


 そして、おやすみ、と言いながら、ちょうどわたくしを迎えに来た侍女に引き渡してくれました。




浴室をでた後、わたくしは自室で一人寝床に横になりましたが全く眠れる気がしません。

 疲れすぎてしまったのでしょう。目が冴えてしまっております。


 仕方なしに、明日の朝に書こうと思っていたエリザベスちゃんへの手紙をしたためていると、戸を叩く音がしました。


 入ってきたのは使用人で、旦那様からです、と言いながらはちみつ入の温かいミルクを渡してくれたのでございます。

 飲むと、先ほど首すじに当てられた手の温かさが思い出されました。


 送り主はきっととっくに寝入っていることでしょう。



 ミルクの温かさが、ようやっとわたくしを落ち着けてくれました。

 空の白む中、出て来た眠気を逃さぬよう、床につきます。


 そしてまどろみの中、生きている夫に会えたことを、今夜ばかりはと女神様に感謝をささげました。

 お読みいただきありがとうございました。

 誤字報告感謝いたします。


◆夫婦の居間を退出した使用人

ヴァネッサ:ご夫婦の会話にわたしたちを引っ張り出さないでいただきたいものです。


ピーター:まったくですね。都合の悪い事はいつもわたしに説明させるとかやめていただきたい。


ヴァネッサ:[憐憫]ご苦労さま。


◆夫婦の居間を退出した主人

アーサー:(かなわないな…)

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