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悪役令嬢の母は娘をモブにして乙女ゲームの余波を生きる  作者: 二木公子
番外編

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短編 エリザベスの習い事 後編

番外編の後編です。

 それから何日かした絵の時間、先生があの青い絵の具を持ってきた。

 この前はもっと成長してからっておっしゃっていたのに。誰にも、欲しい、なんてねだってないなのに、どうしてだろう。

 もしかして、高価と言っていたけど、私が思ってるほど高価じゃないのかな?


 先生はコットンの目にキラキラの絵の具を使うか私に尋ねた。

 嬉しい。使っていいんだ!


 私は使いたい、って頷いた。


 今日の先生の笑顔はなんだか動かない。


 私が絵の具を出そうとしたら、先生がやっぱり僕が出そうって言いながら出してくれた。いつもよりも少しだけ。

 目に使うだけだからね、って動かない笑顔のままおっしゃっていた。


 確かに目を描くだけだから、少しで十分。


 私はキラキラした青い絵の具を筆につける。

 絵の具が動くとよりきれい。風がない日の水面のよう。


 絵の具のついた筆をそっと目の位置に下ろした。

 そうっとそっと、塗っていく。

 そうっとそっと、そっとそっと、塗って。

 筆を離してまた、そっと、もう一回、そっと。


 なんで、なんでなんで、なんで?どうして?


 絵の具は、キラキラしている。キラキラしてるの。キラキラしてるのに…。


 私の絵は、描いたコットンの目は、全くキラキラしてないの。どうして?

 絶対、ガラスみたいなキラキラの目になると思ったのに。ならないの。おかしいの。


「エ、エリザベスさん?」


 先生の声がする。

 でも私は絵から目を離せない。


 私が先生の声に動かないから、侍女のキャサリンに肩を叩かれた。


「お嬢様、?」


 恐る恐るキャサリンをみると、微笑んでる。


「この絵、とても可愛らしいお顔になりましたね。目のキラキラさがとてもコットンぽいです。」


 絵を見ながらにこにこと感想を言ってる。


 私はなんだかおかしい。キャサリンが遠くにいるみたいな感覚。不思議、隣にいるのに。


 キャサリンの言葉はとても遠くから聞こえるのに、とても重く感じた。キャサリンはなんでそんな楽しそうなの?


「なんで、そんな嘘言うの?」


「嘘!? お嬢様、私は嘘なんてついてないです!」


「だって、嘘よ。こんなの、コットンじゃない! コットンの目は、こんなに、こんなに、平べったくないの!」


 あぁ、そうか、平べったくなってしまったんだ。絵の具のせいじゃない。私が、平べったく描いたんだ。


 私は平べったくしか、かけない。


「お嬢様、これを。」


 キャサリンがハンカチを渡してくれた。

 キャサリンは私が熱を出した時と同じ顔をしている。


 私はハンカチを受け取るけど、どうしていいのかわからない。


「涙を拭いて。」


 先生に言われて気がついた。私は泣いてたんだ。


 わかってしまったら涙がどんどん出て来た。止まらなくなってしまった。


 しばらくぐすぐすと続けている私に先生は教えてくれた。


「エリザベスさん、大丈夫。あなたは描けない事に気がつけました。自分の描きたいように描けない事に気がつけましたよ。」


 先生の言葉にもっと涙が溢れて止まらなくなった。


 先生は柔らかく続ける。


「描きたいように描けない、そのこと気がつけたということは、あなたには理想がしっかりあると言う事です。特にエリザベスさん程度かけているなら、その理想は具体的なはずです。手法をしっかり学びましょう。絵の具の扱い、筆、キャンバス、色の乗せ方、光の差し方などたくさん勉強しましょう。エリザベスさんは学べば描けます。知識をつけましょう。」


 先生の言葉はとても嬉しい。学べば描けるようになるんだ。

 頑張りたいって思った。

 でも、同時にお母様との約束を思い出した。


「それは、十歳までにできますか?」


 私は十歳までにできるようになるのかしら。コットンの目を描けるようになるまで学べるかしら?


 先生は少し困ったように、いったん違うところをみてから私を見た。


「できる限りを私も尽くすよ。」


 とても、とても優しい声だった。

 でもわかった。私はできるようにはなれないんだ。


 でも、先生も頑張ってくれるって言ったからできるかもしれない。でも、いったん違うところを見た先生の視線の動きが、頭から離れなかった。




 それから半年。

 もう少し、もう少し、少しでも上手くなりたくて、たくさんたくさん絵を描いた。

 絵の勉強もした。先生が光についてたくさん教えてくれたけどよく分からなくて、何度も何度も聞いた。


 先生は何度も何度も教えてくれた。


 でも、まだ描けない。描けない描けない。

 あと一年もないのに。


 そんなとき、領地の家の蔵書室から絵の本を見つけた。いろんな絵が説明されている本。絵の簡単な模写とかも載っていた。


 その本を読んでいたら、他国には女性の画家がいると知った。

 とてもびっくりした。


 だって女の人が描いた絵が載っているの!

 女神様のお叱りを受けないのかしら?


 先生に聞いたら、とても言いにくそうに帝国の画家だって教えてくれた。

 他の人には言っちゃだめだよ。とも。

 なんで言ってはだめなのかは分からないけれど、分からないから頷いておいた。


 その本を眺めてたら思い出した。

 そう言えば昔、お母様が帝国にも学校があるって言っていいた。

 行ってみない? って言っていた気がする。


 もしかして、もしかしたら、帝国なら絵を描いても怒られないかもしれない。


 だって、実際にいるんですもの! 画家の女の人が! 本に載っているんですもの!


 思いついたらじっとしていられなかった。


 私は早足でお母様の部屋に向かう。

 後ろから、はしたない、ってキャサリンが言っているのが聞こえたけど止まれなかった。


 お母様の部屋のドアの前で、ノックの返事を待つのがとてももどかしい。

 

 部屋に入ると、お母様は優しく迎えてくれた。


 私はふぅっと息を吐く。なぜだか自分が少し緊張しているのがわかった。


 私はお母様の目をしっかりと見ながら言った。

 

「お母様、私、帝国に行ってみたいのです。」




 それから私はたくさん勉強している。

 あの日から、帝国に留学するためにはたくさん勉強しなければならないって言われて、予定がいっぱい。

 語学やマナー、歴史や地名。

 それに加えて社交界デビューの準備も始まった。

 とても大変だけど、もっと絵を描きたいから頑張ると決めた。



 帝国に行くための勉強を始めてからも、十歳になる日までは絵を習い続けた。


 最初の約束通り、先生は十歳まで教えてくれた。本当にたくさんのことを教えてくれた。


 けれど結局、十歳になった私もコットンの目を描けていない。

 キャサリンは上手だと言ってくれるけど、私は満足できていない。


 先生は最後の日に、帝国で頑張って続けて、って言ってくれた。

 本当はそんなこと言ってはだめなのに。先生に女神様の天罰が下るかもしれないのに。



 先生とお別れした後は、今まで絵を描いた事が無いお父様が、絵を始めてアトリエを作った。


 時々ここで描いても良いよ内緒だよって。

 とても嬉しかった。本当にたまにだけ使わせてもらってる。お父様が絵を書く時間に、人払いが出来たときだけ。


 私が絵を描いている事はキャサリンにも知られてはならない事だから、仕方がない。

 疑われることも無いようにしないとならない、とお母様が言っていた。


 だから私は、帝国に留学する三年間をとても楽しみにしている。

 帝国でなら絵を描くことが出来る。

 すごく隠れて描く必要はないから、学園に通う三年で絵をたくさん描こうと思ってる。


 そのために帝国へ行く。

 たくさんたくさん描いて上手くなりたい。とにかくたくさん描きたい。




お読みいただきありがとうございます。

誤字報告感謝いたします。

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