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人形遣いの悪役令嬢 〜悪役なので、もちろん悪役をした分報酬はもらいます  作者: バッド
4章 旅行する悪役令嬢

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99話 海につき

 大変な旅行の始まりとなっちゃった。まぁ、悪は滅びたから良いとは思うんだけどね。魔獣石を使用する人間は片端から駆逐していくと決めているんだ。


 でも、納得のいかない正義の人が一人いた。


 それは今回の主催者である天照鏡花だ。


「なんなんだ、あの男は! 人殺しだ、殺人鬼だよ。捕まえられそうな人間を普通殺していくかい? シリアルキラーだよ! 何人殺したと思っているんだ!」


「で、ですね。残虐ですわ」


「次に会ったら捕縛しましょう」


「………そうでしょうか? 当然の行いかと………」


 いつもは爽やかな笑顔の王子風美少女は、顔を真っ赤にして憤慨しながら友人たちと荒御魂のことを非難しており、口調を合わせて頷く友人たちと、荒御魂の味方をする友だちがいる。


「確かにシリアスキラーなのは間違いないかもね」


「深海の舞のせいだって、もしかして言いたいのかな?」


「え? 瑪瑙ちゃんの舞はカメラに撮って後で新聞に載せるよ?」


「ぎゃー、やめて〜! 封印! 禁忌! 遺失させるつもりだから、誰にも言ったら駄目だよ!」


 ヨミちゃんとしての感想はそんな感じ。なぜか慌てる瑪瑙ちゃんだけど、あれだけの活躍をしたのだから当然だよね。


「きっと深海の舞天女モードの人形を売ったら大人気だと思うよ。グニャンマニャン〜」


 ヨミちゃんは親友の活躍を真似して、深海魚の真似をする。鳴き声はよくわからないので、想像だ。床に寝っ転がり、細っこい腕をパタパタさせて、クエクエと鳴いちゃう。きっと全国でこの舞は流行ると思う。子供たちは皆して瑪瑙ちゃんの真似をする日が見えるよ。


「ヨミちゃ〜ん………? その真似をしたら、こしょこしょの刑だからねぇ〜?」


「はぁい」


 むにーんと頬を引っ張られて、青筋を立てて、ゴゴゴと謎の威圧感を見せる瑪瑙ちゃん。ちょっと怖いので、裏で販売をすることを約束する。表には出ないから安心してほしい。

 

 無邪気な目でウルウルと瑪瑙ちゃんに頷くと、瑪瑙ちゃんはニコリと微笑み───。


「裏で販売をするのも無しだからね? これはフリじゃないよ? 真面目に話しているんだからね?」


「は、はぁい」


 なんと、瑪瑙ちゃんはテレパスも使えるようになったらしい。さすがは瑪瑙ちゃん、ヨミちゃんの親友は凄い能力の持ち主だ。なので、そろそろ頬を引っ張るのをやめてくれないかな。


 とはいえ……。


「せっかくホテルに到着したのに、空気最悪だね」


「せっかく旅行の初日なのに、空気最悪だよね。初めての旅行でドキドキしていたのになぁ。残念無念だよ。本当はちょっと泣きたいくらいだよ」


 ヨミちゃんの頬を引っ張るのを止めて、指先で撫でながら瑪瑙ちゃんは悲しげに顔を暗くする。確かにスラム街時代には旅行なんて夢のまた夢、夢として描いたこともなかったに違いない。


 ヨミちゃんたちは、テロリストの襲撃後、戦闘があることに気づいた矢田家の軍がやってきて、事情聴取後にホテルまで軍の輸送車で運んでくれたのだった。


 観光地の金持ちが使うホテルだけあって、その内装は豪華だ。豪華とはいえ金ピカなピカピカ内装というわけではない。成金ではなく昔からの金持ちを相手にしていることを示すように、素人でも高価だとわかる豪華な内装でありながら上品であり嫌味さを感じさせない。調度品も一つ一つが配置まで考え抜かれており、これまでに見たことのあるホテルなど相手にならない。


 上品でありながら旅行先の解放感を感じさせるために、20階までは吹き抜けで天井が高く、壁はガラス張りで南国めいた木々が生える中庭が見える。このホテルの受付ロビーに一歩入っただけでワクワク感を心に持たせるセンスの良さであった。


 だからこそ、鏡花が怒鳴り散らす姿に残念さも一層意識させる。ロビーのソファでゆったりとコーヒーを飲んで新聞を読むセレブたちも、その光景に眉をひそめるが、相手が鏡花だとわかって誰も注意をしようとしない。取り巻きたちもどうやって宥めようかと苦心しており、招待された生徒たちは顔をしかめていた。


 ヨミちゃんとしても、あそこまであからさまに動揺する姿は予想外だ。それだけ襲撃者たちが大事な駒だったのかと邪推しちゃう。


 ───鏡花は前の世界のハヤテだと考えていた。大国のライバルはハヤテだったから、この予想は間違いないと考えていた。


 正義感の熱い主人公キャラ。困った人を助けて、卓越したプレイヤースキルで数年で有名になったプレイヤー。課金はほとんどせずに、しかもそれでいて戦術にも長けて、金を稼ぐことも得意な皆に好かれる人柄だった。前の世界では倒すのに苦労をしたものだ。


 でもハヤテだと思ったが、どうやら違う違う違う……。


 チガウ


 ハヤテのことを思い出そうとすると、なぜか意識が朦朧として、ふらりと体が泳ぐ。記憶が垣間見える見える見える。


「ヨミちゃん!? 大丈夫?」


「え? あぁ、うん、大丈夫。ちょっと疲れただけだよ」


 慌てて瑪瑙ちゃんが倒れそうになるヨミちゃんを受け止めてくれて、焦った顔になる。瑪瑙ちゃんの声に意識がはっきりして、とりあえず深呼吸をする。

 

 どうやら自分で思っているよりも疲れたらしい。ヨミちゃんの体力だと夏の陽射しはきつかったかな。か弱い身体だからね。


「良かった。急に虚ろな顔になるからびっくりしたよ。本当に大丈夫? ソファに座って休もうよ。鏡花さんたち、早く話し終えてくれないかなぁ」


「なに! よみたんが疲れているだとぉぉぉ!」


 新たにホテルに入ってきた一団の一人が走ってくる。どういう地獄耳をしているんだよ。


 ドドドと走ってくるのは、九郎だ。ブラストを喰らって車ごと吹き飛んだのにピンピンしているや。無事だったのか。


「メーデーメーデー、こちら人類の至宝が、世界の危機だ。メーデーメーデー、衛生兵、衛生兵〜?」


「ヨミちゃんの体調がもっと悪くなるから離れていてください」


「何を言う! 未来の夫が助けなくてどうする?」


 冷たく氷の声音で瑪瑙ちゃんが九郎を睨むが、めげずに自殺行為を口にする。こりゃ、助けないとアタミ殺人事件が始まっちゃう。まだ海の家で焼きそばもラーメンも食べてないのに、それはノーサンキュー!


「それじゃエリクサーを持ってきてくれるかな、九郎君?」


「任せとけ! たしかアタミカジノの交換品にあったはず。すぐにコインを増やしてくるぜぇぇぇ!」


 ドップラー効果をしながら、ダッシュでホテルから飛び出していった。なんと、カジノにコイン。ここの領主はわかっているね! なんかヨミちゃんワクワクしてきたよ。


 さて、それよりもこの暗い空気を誰かが吹き飛ばしてくれないかなぁ。


 ヨミちゃんも他の人たちと同様に顔をしかめて嘆息する。


 と、救世主は予想外のところから来た。


「天照嬢。無事で喜ばしいことです。皆様お疲れでしょう。少しご休憩なされたらどうでしょうか?」


 ダンディな渋い中年男性の声が廊下から飛んできて、皆が振り向く。


 廊下を歩いて来たのは、武人のように鍛えられた大柄の体格の中年男性だった。スーツを着ているが筋肉でパンパンで力を入れれば破けそう。背丈に合わせても、筋肉が重装鎧のように膨れ上がっているので、身体に合っていないのだろう。ボディビルダーとかでよくあるパターンだ。


 強面のおっさんがニコニコと笑顔で近づいてくる。その隣には奥さんらしき女性。何歳かはわからないが、美人というよりも可愛らしい。パパもそうだけど、この世界の貴族の奥さんは皆若々しくて綺麗だ。


 その後ろにはヨミちゃんたちよりも少し年上のおとなしそうなひょろリとした気弱そうな男子と活発そうな女の子。


 誰だろ?


 コテリと小首を傾げて、やってきた人たちを見ていると、鏡花は相手を見知っていたようで、ようやく自分の失態に気づいたのか顔を赤らめて頭を下げる。


「これは矢田殿。失礼致しました、恥ずかしいところをお見せして申し訳ありません」


「いえいえ、襲撃があったと聞きました。ならば慌てるのは当然のこと。お気になさらずに。それよりもウェルカムドリンクはいかがでしょう。係の者が緊張して待機しておりますのでな」


 謝罪する鏡花におっさんは軽く笑って手を振る。鏡花は安心したように気を取り直すと、ヨミちゃんたちに笑顔を向ける。


「そういえば喉が乾きました。ではお言葉に甘えて。皆、荷物は係の者が運んでくれるから……そういえば全部失くなったか。買い揃えてくれるから、私たちは一休みしよう」


 それぞれおもいおもいに、ラウンジのソファに座り、ようやく一息入れる。強面のおっさんの割りに、スマートな解決だこと。慣れてるんだな。


「皆さん、よくお出でになられました。矢田家当主の矢田イアンと申します。どうやら大変な旅行の始まりであったようですが、この後は我が家の治める地。皆様の安全は保証しますので、安心して旅行を楽しんでください」


 まぁ、状況からして矢田家の当主だとは思ったよ。天照家の一行が来たから挨拶に来たわけか。フラグも立てたみたいだけど。


「妻のミホです。よろしくお願いしますね。このアタミは海も温泉も美味しい海鮮を出すレストランもあります。カジノもありますが、あまりお小遣いを使わないようにね?」


「長男のクリフです。楽しんでください」


「リーナよ。皆よろしくねっ!」


 家族の紹介もしてくれる矢田家。仲良さそうな家だこと。空気でそういうのってわかる。


 矢田家は中立派であり、政界にまったく興味がない。リゾート地を支配しているので、金も武力もあるのに珍しい。まぁ、ここでしか会えない人たちだろう。


 というか襲撃があっても気にしないのは、この世界だと魔物やテロリストに襲われるのは貴族にとって当たり前だからだろうなぁ……。


「もう一人娘がいるのですが、か弱くあまり体力もないので、ご挨拶はご容赦を。では、このアタミを楽しんでください」


「えぇ、楽しませていただきます。皆、すまない。少し動揺してしまったらしい。では……まずは水着とかを買い揃えよう。荷物ないから……」


 気まずそうに頬をかく鏡花を見て、皆がその姿を見て笑い、ようやく空気が弛緩して旅行は始まるのであった。


「それじゃ……まずはカジノだね! 8万枚くらい買いたいなぁ」


「だーめ! まずは水着でしょー!」


「ニッシッシ! それは楽しそうな催しだね〜、あたしも仲間に加えて〜」


 ちょこちゃんも話に加わり、まずは水着を買うことになったのだった。アブナイ水着はなしだからね?

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― 新着の感想 ―
[気になる点] こちらのヤーダさんちは随分と安定していらっしゃる。 これはトーフのアレコレが終わった後ですかね?
[一言] 鏡花はここまでアホだと逆に怪しくないのかな?ってきもするが、あれだけ好き放題した犯人たちを庇い立てた時点で論外なんだよな。 終わってもずっと文句いってるし、なんやねん。
[一言] アタミのカジノ……。 なんだか良くわからないけど、とりあえず豆腐を置いておきますね?
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