表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人形遣いの悪役令嬢 〜悪役なので、もちろん悪役をした分報酬はもらいます  作者: バッド
2章 入学する悪役令嬢

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

35/128

35話 入学式

 入学式はもっと厳粛な空気でやると、瑪瑙はなんとなくイメージしていた。


 たしかに椅子に座ってしばらくは厳粛な空気だった。静かで真面目な顔の生徒たちが壇上に立つ校長先生の話を聞いていた。


 でも、その後が問題だった。


「なんで貴方がここにいるのですか? ドヤ顔でEクラスに潜入するから任せろと言ってたではないですか」


「ちげーんだよ。あのマナ感知器が予想よりも性能が良くて『隠行』スキルでも駄目だったんだよ。市販のマナ感知器とは性能が違うのな」


「こいつアホね。鏡花、こんな奴を頼りにしたのが間違いだったのよ。古代遺物を誤魔化すなんて元から無理だったのよ、失敗したわね」


 新入生代表の挨拶で、女子二人が男子一人と言い争っていた。男子の方はさっきEクラスに入ろうとしていた意味不明の男子だ。


「貴様ら、いい加減にしろ。蛆虫を救おうなどと元から無理だったのだ。さっさと代表挨拶に行け」


 その3人へと、蔑みの顔で冷たい雰囲気の男子が口を挟んでいた。何やってるんだろ。


「うっししー、不思議そうな顔をしてるね〜、天女ちゃん」


「あ、どーも」


 隣の女子がぴょこんと顔を突き出してくるので、多少驚いてしまう。なにやら話したくて仕方ないらしい。口元がによによしてる。


「おっと、あたしは能代のしろ跳子ちょうこ。気軽にちょこと呼んでね。学園内の情報なら、かっこいい男から、お金持ちの男、噂話まで任せてよ」


 そばかすがチャームポイントなポニーテールの元気な娘が親指を立ててウインクしてくる。


「雨屋瑪瑙です、よろしくね。で、あの人たちはなんの話をしてるの?」


 どうやら情報屋らしい。学校にもいるんだ。


「あれは奴隷解放し隊と、気にしない派だね。私としては関係ない話だから、どっちでも良いんだけどね〜」


「奴隷?」


 後ろ手にして、ちょこちゃんはまったく気にしていないようだ。でも、その内容はなにやら不穏な響きだ。本当に奴隷ではないのだろう感じだけど、その名前だけで嫌な感じ。


「これは学校内では公然の秘密なんだけど、Eクラスが入学式に参加していないじゃん?」


「うん、他の体育館に行っちゃったね」


 ヒソヒソと小声になるちょこちゃん。なにやら不穏な響きで高山病のヨミちゃんが好きそうなシチュエーションだよ。


「あれは、Eクラスの生徒たちを奴隷にする恒例行事なの。召喚獣による事故を装った怪我をさせて、治癒料金を踏んだくる。Eランクの魔人たちは元々貧乏な家門で見捨てられた子たちだから、支払いは無理。高位貴族の生徒が代わりに支払って、その代わりに荷物持ちとかの雑用係にするんだ」


「はぁ……どこにでもそういう話あるんだねぇ。スラム街でも同じようなのあったよ」


 貴族の集まる学校でもやることは変わらないなぁ。


 スラム街の人買いがよくそんなことをしていた。安いポーションを貧乏な人たちに高値で売って、借金返済が不可能なところを、女子供を連れ去るのだ。借金返済をする間の丁稚奉公という形だ。もちろん高利のために借金は膨れ上がるばかりで、返済することなどできずに娼館などで人知れず死んでいく。


 まぁ、私たちの近くに拠点を持っていた人買いグループは偶然にも路地で拾ってきた子供が大きいシマを持つチームのボスの娘だったから、ボスが怒り狂って皆殺しにしちゃったんだけどね。それはもう言葉にできない残酷さだったよ。


 本当に偶然って怖いねと、崩壊した人買いの拠点で残っていたお金とかを回収しながら、ヨミちゃんが良い笑顔をしていたものだ。


「そういや、瑪瑙ちゃんはスラム街出身だっけ。………あんまりそういうことを言わない方が良いよ。ここでは不利になるから」


 本当に心配をしているのだろう。こっそりと伝えてくれる。けれども、それはどうかな………。ヨミちゃんならば、ミミックの口の中にわざわざ手を突っ込んでくる人がいるんだねと、ほくそ笑みそう。


「うん、一応気をつけておく。心配してくれてありがとう」


 ちょこちゃんは良い人っぽい。まぁ、第一印象はだけど。


「それよりも、話の続きは?」


「あ〜、そうそう、話を戻すと、それを天照鏡花さんは防ごうとしていたの。あの様子だと、どうも御雷みかづちのアホ嫡男をEクラスに潜入させようとしていたみたいだね。マナ感知では最高の性能を持つ古代遺物を誤魔化すことなんて不可能なのに」


 あのアホはやれやれ小僧って、陰で言われているアホなのよとちょこちゃんは話してくれる。そんなことよりも気になるのは誤魔化すことが不可能の古代遺物だ。


 ヨミちゃんはあっさりと誤魔化した。恐らくは血統を証明する魔道具を誤魔化した手段と同じじゃないかな。………すっごく危険な匂いがするから黙っておこうっと。


「テストでは零点を取るのに、高レベルの魔物をソロで倒したり、ダンジョンを踏破していたりしてて、俺はたいしたことがない無能力者だって、いつも誤魔化すんだ。カメラとか目撃情報とかバッチリ証拠は残ってるのに。アホだよねぇ」


「それはきっと高山病なんだと思う。でも、Eランクのクラスは今は召喚獣と戦ってるんだ」


「うん。しばらくしたら、治癒を求めて先生が扉から現れるだろうね。まぁ、30人足らずだから、ほとんどの生徒たちには関係ない話。この状況だと天照さんが全員の治癒料金を肩代わりするんじゃない? あの人は子供の頃から、曲がったことの嫌いな、人の良い善人だからね〜」


「あの白金の髪の人?」


 言い争いをしている人の中でも凛とした雰囲気の美少女。白金の髪を背中まで伸ばしており、さらりとした髪は艷やかで整えられている。意志の強そうな瞳をしていて、小顔で美しい顔立ちだ。


 姿勢も綺麗でピシッと立っており、己に自信があるのだろう空気を醸し出している。百人がすれ違ったら百人が振り返るだろう美人だ。それとともに強そうな戦士の空気も感じる。


「天照区の嫡子にして文武共に優秀な天才魔法使い、の天照あまてらす鏡花きょうか。真面目な人だけどある程度の融通も聞くことのできる才女だね。天は二物、三物とあの人には与えたんだ。次期生徒会長候補にして、将来は『高天ヶ原派』のトップになると噂されてるよ」


「へぇ〜。そんな人がいるんだね〜」


「話しているアホな男子が御雷みかづちたけし。鏡花さんの後ろにいるツインテールの少女が懐刀と呼ばれている重川おもかわ鈴音すずねちゃん」


 ふんふんと頷きながらも、あの人たちの名前を覚えなくちゃいけないのかなと、内心では考えていたりする。関わり合いがないなら、忘れても良いかなぁ。


「で、あの偉そうな男が大国おおくに大地だいち。大国家の嫡子ね。文武共に優秀な魔法使い。同じく次期生徒会長候補で将来は『葦原派』のトップになると言われてるんだ」


 うん、悪いけどキャパオーバー。もう覚えきれないや。二人は仲が悪いと。それだけ覚えておけば良いよね。


「大国君は魔法使い偏重の血統主義だからさ、差別をしない鏡花さんとは犬猿の仲。不思議なことに、子供の頃から仲が悪いって有名なんだ〜。だから今もEクラスを救おうとしている鏡花さんに絡んでいるんだよ」


「ふーん。奴隷扱いはたしかに酷いね。でも、ヨミちゃんはそんなことにならないと思う」


「あぁ、たしかに雨屋家だもんね。お金はあるからあの娘は大丈夫でしょ」


 勘違いしたちょこちゃんがうんうんと頷くが、そうじゃない。多分酷い目にあってるのは、先生じゃないかな。


 公然の秘密をヨミちゃんが知らないわけがない。きっと対処しているだろう。


「いい加減にしろ、天照。貴様のせいで入学式が滞っているのがわからないか? 地べたを這って踏み潰されるだけの蛆虫たちをいつまで気にしてるんだ!」


「くっ………鈴音。Eクラスの治癒料金は私が立て替えると回復魔法使いには伝えてください」


「りょーかいっ! それじゃ……んん?」


 大国君が怒鳴りつけて、悔しそうに天照さんが重川さんに伝える。重川さんは芝居じみた敬礼をしようとして───。


「な、Eクラスが戻ってきたぞ!」


 その言葉に皆が入り口に顔を向ける。扉からは出ていったはずのEクラスの生徒たちが入ってきていた。


「怪我一つ負ってない!」


「おいおい、もしかして召喚獣を倒したのか?」


 ざわめく人たちを無視するかのようにEクラスの生徒たちは歩いてくる。その制服は埃などで汚れているが、皆は得意気だ。


 一際汚れている制服を着ている先頭に立つ男子が鼻をこすって口を開く。


「へっ、俺達の座る椅子はどこだ?」


 そこにはなにやら大変なことをやり遂げた満足そうな空気があった。


「マジかよ……」


「初めてじゃないか、Eクラスが入学式に出席できるなんて」


「あの男が倒したのか………」


 信じられないとざわめく皆。その中で、大国君がチッと舌打ちして、忌々しそうな顔で椅子に座る。


 天照さんは、Eクラスの生徒たちが無事なことに瞳を輝かせて嬉しそうに頷き、御雷君が俺がやるはずだったのにと、悔しそうにする。


「よろしい。少し遅れたが新入生代表の挨拶をさせて頂きます。全員揃ったようだしね。そうそう、よかったら君の名前を教えてもらえないだろうか?」


 天照さんが壇上に向かうが、Eクラスの先頭に立つリーダーっぽい男子に面白そうな顔で声をかける。


「ふっ、俺はたいら太郎たろう。しがないEクラスの生徒さ」


「平太郎君か、その名前覚えておこう」


 しがないと答えながらも、ドヤ顔で腕を組む平君。名前を聞くと満足そうに天照さんは壇上に立ち、挨拶を始める。なぜかEクラスの人たちは平君に呆れた視線を向けているがなんだろう。まぁ、予想はつくけど。


「遅れてすみません。では、挨拶をします。私の名前は天照鏡花。今年の新入生代表の挨拶を任されて光栄です。本学校は魔物に苦しむ人々を救うために作られた学園であり、これから切磋琢磨して己の腕を上げていきたいと思います。さらに───」

 

 なんだか長そうな挨拶なので、眠気に耐えつつ、ヨミちゃんを探す。Eクラスの中にいなかったんだよね……。あ、いた。


「冷蔵庫を使わせて! チーズケーキが温まっちゃう!」


「なんで君はホールのケーキを持ってきてるんだ!」


「頼む、あの召喚獣の弁償をしてくれ! リボ払いでまだまだ返済が残ってるんだ!」


 壁際に立つ先生へと冷蔵庫を借りようと必死になっていた。そしてヨミちゃんの後ろで泣きそうな先生が懇願してた。あの場所だけ混沌としてるよ。


「楽しそうな学生生活になるかなぁ。……楽しそうではあるかな」


 ヨミちゃんがこれからの学生生活を面白く彩ってくれるだろうと信じて、私は目を瞑るのだった。


 話長いよ、天照さん。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 色んな文明があれやこれやなったのに残ってるリボ払い……恐るべし……
[良い点] この章をありがとう (≧▽≦) [一言] >「冷蔵庫を使わせて! チーズケーキが温まっちゃう!」 チーズケーキがああああわわわわわ⊙﹏⊙
[良い点]  ひと癖もふた癖もある連中が物語にエントリー!果たして誰がプレイヤーなのか?なんか2話前からフラグが立ってるやれやれ系御曹司の御雷武がそれっぽいけどフェイクの可能性もあるしいろいろ先を想像…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ