36話 ホームルームにつき
Eクラスの教室は特にボロボロというわけでもなかった。大金を払っているので、当然といえば当然だけどね。
きっちりとした黒板に、新品の机と椅子。掃除も行き届いている。内装もクリーム色の壁紙が貼られて、綺麗なものだった。
Eクラスだけは一クラスしかないので、教室の入口に掛けられているプレートも一言『E』だ。
無事チーズケーキを冷蔵庫にしまえてご機嫌ヨミちゃんはパタパタと足を振って、着席していた。
無事だった仲間もおとなしく座って、ホームルームを始めていた。
「えー、私がEクラスの一応の担当をする岩尾だ。君たちと対話をしても良いことはないので、基本は質問などはなしだ」
Eクラスの担当はやる気のないおっさんだった。背広はヨレヨレだし顔も無精髭で寝癖もある。そして、そのセリフは最低だ。
でも、ヨミちゃんはこんな状況に甘んじるつもりはさらさらない。なので、机をペチリと叩いて真剣な顔となる。
「先生、机にお菓子を入れるラックとジュースを置くなんかへこんだ部分がありません! 格差です!」
「そんなものはAクラスにもありません」
「ガーン」
クラス分けされているんだから、設備も違うと思ったけど、変わらないようだ。こういうのって、格差をつけるもんじゃないの? なんかボタンを押すとジュースが出てきたり、いつでもお菓子を食べられることのできる設備があると思ってた。
しょんぼりヨミちゃんを面倒くさそうな顔で見てきて、ため息をつく岩尾先生。
「はぁ……なんでこんな面倒くさそうな生徒がEクラスに……。あぁ、Eクラスは基本教科は同じですが、魔法担当はいませんので、基本自習です」
「自習って、どーゆーことですか? 先生もいないのに、独自に魔法練習をしろということですか?」
「そのとおり。その際に怪我をしても、死んでも学校は責任をとりませんので、命を捨てる気なら好きなように練習するように」
クラスを見渡して、ニヤリと嘲笑う岩尾先生。その言葉に私もニヤリと笑う。
「やった! 自由に魔法を研究していいんだって! ラッキーだね、何でもできちゃうよ!」
学内の施設は最高だ。これって最高だ。万歳三唱、大喜びのヨミちゃんだ。なんで、皆が暗い顔なのかが理由がよくわからないよ。
「はん、精々今は喜んでろ。ろくに知識もない奴らがなにができるかはわからないが、まぁ、頑張るんだな。それじゃ私は退出する。委員長と副委員長を決めて、後ほど職員室に報告に来るように。あと、今日は他のクラスは早速魔法の実践だ。的あてだが、グラウンドはもうどこも予約でいっぱいだったな! ハハハハ」
鼻で笑って、先生は教室を出て行った。ありがとうございます先生。その親切な心意気。心から感謝をしておくよ。
「それじゃ委員長は平太郎君、副委員長はメカクレ少女ちゃんね」
先生が去っていくと同時に決めてあげる。
「ふっ、わかったぜ、姐御! この俺がこの教室のリーダーとなってみせよう!」
「えぇぇぇ! 私が副委員長? というか私の名前は、座式和。和って呼んでよぅ」
平は快く承諾してくれたが、メカクレ少女は驚いて机をバンバンと叩く。
「りょーかい。で、和。副委員長よろしくね」
「えっと拒否は……」
「ないよ。どーせEクラスはハブられるから仕事はないはず」
「そ、そっか……そうだよねぇ……。それなら良いよ」
しょんぼりとして、和も承諾してくれる。
Eクラスの扱いはもうわかった。だから、これからはEクラスらしく行動をしようと思うんだ。
「とりあえずは、プレートを書き換えよう。誰か『E』から『那月一門』と書き換えておいて」
悪役令嬢がここにいるぞアピールだ。フンスと指示を出すと、なぜかドン引きの皆。でも、私が半眼になると男子がプレートを取り外して慌てて書き換えてくれた。
「おい、良いのかよ?」
「でも、俺らは部下だからな……」
クラスメイトが何人かヒソヒソと話しているけど、良いに決まってるでしょ。
字が上手い男子が『那月一門』と書き換えたプレートを戻してくれて完成。ヨミちゃんも満足です。
「23区の大貴族って、ここまで凄いんだ……」
「いや、座式。姐御は特殊だと思うぞ」
和と平君、何か意見があったら聞くよ。
「まぁ、とりあえずはこれでいっか。で、今日の授業はなんだっけ?」
壇上にぽてぽてと近づくと、んしょと登って脚を組む。扇を開いてひらひらと揺らしながら高慢ヨミちゃんは尋ねる。
なぜか私を支えようとしていた平と和が顔を見合わせる。落ちないから大丈夫だよ。
「えっと………先生の言ったとおり、今日は魔法の実践で終わり。後は部活決めだねぇ。学内の生徒は必ず一つの部活に入らないといけないんだぁ」
「俺たち、Eクラスの奴が部活に入ってもなぁ……」
「だなぁ。どこも俺らを蔑むだろうし、こき使うに決まってる」
クラスメイトから溢れる悲観的な意見に呆れちゃう。だったら、なんでこの学校に入学したわけ? いや、よく入学できたな。ここは学費も高いのに。
「なんでこの学校に入ったの?」
「23区の魔人は全員この学校に入る規則なんだよぉ、うちは違うけど、普通の下級貴族は寄り親に借金して学費を用意してくれたんだぁ」
辛そうな顔のメカクレ少女の姿になるほどねと納得する。魔人は弱くてもガッチリと抑えておきたいんだな。
「そっか。それじゃ仕方ないね。でも、幸運だよ。なにせ雨屋家の息女たる那月ヨミの一門に入れたんだから! これからの将来はハッピーだよ」
ムフンと胸を反らせてよろけちゃうので、和が背中を支えてくれる。とはいえ、ヘッドハンティングしたからには、しっかりとしたボスとして力を見せないといけない。
「それじゃ、直近の問題から片付けよう。部活の問題は簡単だよ。新しい部活を設立すれば良い。皆のお金を稼ぐためにも『那月ファンド』を作ろう。皆が部員となって、様々な儲け話に首をツッコみます」
「ぶ、部活のなまえがファンド………う、胡散臭いよぅ………」
「投資を求めてるわけじゃないよ。私が投資して皆で頑張って仕事をして稼ぐの。これからも学費や教科書代金、他にも様々なお金がかかるんだから、この部活は皆には絶対に必要でしょ」
速くも素敵な部活を作るヨミちゃんである。皆んなは戸惑いの顔となるが迷っている暇はない。反論は設立後に聞きます。
「ま、まぁ、ここで他の部活に入っても悲惨な将来しか見えないし、それで良いか」
「だな。姐御ならなんとかしてくれそうだし」
ワイワイと話すクラスメイトだけど、姐御呼びは決定なのだろうか。こんなにも可愛らしいヨミちゃんに似合わないと思うんだけど。
「でも、その部活でどうやってお金を稼ぐのぅ?」
「それはまた後でね。とりあえずは部活申請書を出したいんだけど、誰か申請書持ってる?」
「さすがに持ってねぇけど、使い魔に取りに行かせるぜ。この平太郎の力を見せる時だな」
平がヘヘへと鼻をこすって、手のひらを床に向ける。全力でマナを込めて、そのこめかみに汗が流れていく。
「こいっ、俺の使い魔、数多の妖魔を喰い殺し、あやかしの王たる山猿を討伐せし伝説の魔獣しっぺい太郎!」
『犬召喚』
なんだか大仰なセリフが平から発せられて、床に魔法陣が描かれる。そして、光る魔法陣から、ゆっくりと魔獣が姿を現す。
敵を畏怖させるつぶらな瞳、甘噛みが得意そうな小さいお口。ふさふさの毛皮を纏い、嬉しそうに尻尾をぶんぶん振るヨミでも抱えることができる魔獣しっぺい太郎が姿を現した。
「ヒャンッ」
しっぺい太郎は魔獣に相応しい凶暴なるポメラニアンの姿をしていた。
「しっぺい太郎って、ポメラニアンなんだ!」
なので、恐れ慄きヨミちゃんはしっぺい太郎をすぐさま抱きかかえる。ふさふさの毛皮だ、可愛らしい!
「へへっ、それが俺の使い魔しっぺい太郎ですぜ、姐御。頭が良いので職員室に申請書を取りに行くことくらい朝飯前でさ」
「ヒャン!」
ハッハッと舌を出して、私を見てくるしっぺい太郎。きっと魅了の魔眼も持っているに違いない。それじゃ、使い魔を使ってもらおう。
「よし、しっぺい太郎。これから職員室に向かい、部活の申請書を持ってくるんだ!」
「ヒャンヒャンッ」
平の言葉にわかったよと、しっぺい太郎がぶんぶん尻尾を振り、私たちはぞろぞろと皆で職員室に向かうのであった。
「え? なんで皆で行くんだ?」
「しっぺい太郎が迷子になったら困るでしょ!」
「そうだ、平。お前は血も涙もねぇのか」
「こんなか弱い子犬が職員室まで行けるはずないだろ!」
平の酷いことばに私とクラスメイトたちは口々に非難する。もちろんポメラニアンは私が抱っこしてるよ。順番? 仕方ないなぁ、それじゃ次は和ね。落とさないように気をつけて。
そうして職員室まで散歩をする。首輪を買わなくちゃいけないねと、皆でしっぺい太郎の犬小屋を作ろうと話していたらすぐだった。
「こんにちは〜」
第二職員室とプレートの掲げられた職員室へと入り、元気にご挨拶。結構な先生方がいて、私たちへと目を向ける。
「あ、無上先生、ちょっと良いかな?」
「新しい召喚石を購入するには、この金額でリボ払いで……ん、なんだ? 落ちこぼれたちじゃないか、なんの用だ?」
机に置いたメモ書きを前に悩んでいた無上先生を見つけて声をかけると、相変わらずの酷い態度で私たちを見てくる。
「部活申請書をください。新しい部活を設立するので」
「あぁん? はっ、たしかに落ちこぼれのお前らが入れる部活なんざないからな。ほらよ」
「ヒャンッ」
投げ捨てるかのように紙を渡してくるので、しっぺい太郎がジャンプして銜えた。おぉ、なんて賢いんだ。
褒めて褒めてと銜えた紙を持ってきて尻尾をはちきれんばかりに振るので、頭を撫でてあげる。そして、ササッと部活申請書に書いて、無上先生へと返す。
「ったく。面倒くさい。なになに、『那月ファンド』? 目的は金を稼ぐこと。はっ、お前らがまともに稼げるとは思えないが、まぁ、良いだろう。おら、判子だ。それと部費は出ないからな? 部活として許可してやっただけでも有り難く思え!」
楽しそうに、ヘラヘラと嘲笑う無上先生。
「ありがとうございます、無上先生」
ニパッと花咲くような笑顔でお礼を言うヨミちゃんです。ちゃんと仕事をしてくれるとは少し意外だったよ。
さて、部活のことはとりあえず解決した。
次はというと、魔法の授業についてか。外からは攻撃魔法を撃っているのだろう。爆発音や、生徒たちの歓声が漏れ聞こえてくる。
皆はその音を聞いて、寂しそうにして暗い顔になってる。まぁ、無理もない。ハブられてるからね。
でも、そもそもEクラスは全滅したから存在しなかった。それを考えると、生きているだけでも儲けものなんだけどね。
訓練のことはどうしようもない。だから私達は別の方向で魔法の訓練をしようよ。
「無上先生。それと錬金実験室の鍵を貸してください。私たちの今日の授業は錬金術にしようと思ってるです」
なので、ちっこい手を差し出して、ヨミちゃんはお強請りをするのだった。
錬金は文字通り金になる技術なんだ。それを皆に教えてあげよう。
もちろん悪役令嬢風味の錬金術をね。




