23.彼は優しい人(王子視点)
〜第六王子視点〜
私はマシュー・エゼルヴェルド。エゼル王国の第六王子です。王子とは言うけれど私は、他の兄弟たちと違って、政治や城のことにはあまり興味がありません。もちろん、剣術や歴史についても。
そんな私が唯一、これが好きだと言えるものは植物。町に生えている草木や、森の中にある果物……それと、花が大好きです。
城でやっている事も、裏庭の花壇を世話するくらいです。今日はその裏庭に植える花の種を買いに、フードを被って街に降りてきていました。
花屋に入ると、今日は人があまりいないようでガランとした雰囲気でしたが、不思議と静かで落ち着きます。しばらく1人で花を眺めていると、「いらっしゃいませ!」という元気な声が聞こえました。他のお客さんでしょうか?
入ってきたその人は物凄く美形でした。他の兄弟たちに比べて(もちろん自分が醜い顔をしていることは分かっているけれど)美醜があまり気にならない私からしても、とても格好いい人だと思いました。
その人は入ってきてすぐ声がしたものの、店員が他の客の対応をしていて来ることがないと分かったのか、自分で花を選び始めました。
けれど花に詳しくないのか、しゃがみこんで花を見つつも、時折唸るような様子が見えます。
その様子が、花に詳しい私からしたらもどかしくて。それに、きっとその人と話してみたかったんでしょう。柄にもなく私は、初対面のその人に話しかけました。
「なんの花をお探しですか?」
そう私が言うと、彼は振り向いてキョトンとした顔のまま固まりました。
「あ、もしかして、花束をご希望ですか?」
もしかして急で聞こえていなかったのかと思い、もう一度話しかけると、
『……えぇと、貴方は?』
そこでハッと気付きました。よくよく考えれば彼からしたら私は不審者もいい所です。そう思った私は名を名乗ろうと思いましたが、せっかくフードを被っているのに本名を言うと王子だとバレてしまうかもしれないと考えました。
醜い王子の話は有名ですし、もしかすると話してくれなくなるかもしれません。そうじゃなくても、王子だという事で萎縮してしまうかも。
そう思った私は偽名を使うことにしました。騙すのは心苦しいですが、もう会うこともないでしょうし。
「すみません……!私は………ま……マット、です」
謝って咄嗟に名を言った後に後悔しました。
マット、と言うと私の愛称です。もう少し考えてから言えば良かったです。
騙して愛称を呼ばせるというのは、この国だと詐欺の手口によく用いられます。
自分の愛称を本名だと偽って恋人だと周りに広めるものです。そんなつもりは全くなかったですが、今やっている事は同じでは……?
ですがマットという名前が愛称だと知るはずもない彼は、私のことをそう呼ぶわけで…。
『マット……さん?』
「いえ、呼び捨てで大丈夫ですよ。さん付けはちょっと、違和感があるので」
愛称を呼ばれたことで嬉しくなり、気にしても仕方ないと開き直った私は呼び捨てにして欲しいと彼に告げました。愛称は命と同じくらい大切な人に呼ばせるもの。マットさんと言うのはなんだかくすぐったいですし。
『じゃあ、マット。俺はアルバート。なんで俺に声を?』
アルバート。…そう聞いて1番に思い浮かんだのは、兄上と会食をしたアルバート・ノルマンディのことでした。ノルマンディ家の次男……それならこんなに美形なのも納得できます。
家名を言わないのは私と一緒で、貴族だと知られたくないからでしょうか?
頭の中で考えをまとめ終わった私は彼の質問に答える。
「ああ……私、植物が好きでして、実家で育てたりなんかもしているんですよ。それでこの店にはよく来るんですが、入り口近くできょろきょろと花を見つめる貴方を見かけたものですから、ついアドバイスをしたくなって……」
つい長々と話してしまったけれど、要は植物が好きだから悩んでいるのを見て声をかけたくなったというだけですね。
彼は私がそう言ったのをなるほど、というように頷いてから口を開いた。
『そうか……お前の言う通り、花のことはよく分からなくてな。今度花束をお礼の品として渡したいんだが……なにか決まりはあるのだろうか?』
花束………そう聞いてまず気になったのは誰に渡すのかということでした。兄上?それとも他の誰かと関係があるのでしょうか。
お礼の品だとは言っていますが、アルバートさんから花束を渡される誰かも分からない相手に、私は嫉妬してしまっていたのだと思います。
しかし、花束の色のことを知らないなんて珍しいですね。貴族とは言っても、ノルマンディ家の次男は社交界に出てこないことで有名ですし、花束を渡す機会がなかったのかもしれませんね。
「そうですね……この国では花束の色で意味が変わってくる風習があります。」
『色が……へぇ、どんな種類のものが?』
そうして顎に手を当てる仕草ですら様になっている辺り、神は不公平だと思います。
「はい。黒は醜悪、紫は嫌悪、黄色は感謝、緑は親愛、青は尊敬。ピンクは告白の意味合いで使われることが多いです。赤は恋人に愛を伝える際に。」
黒と紫はよく送られていたし、黄色や緑や青もたまに兄弟たちと送りあっていましたが、ピンクや赤は……今まで送られたことがないですね。送られたらきっとすごく嬉しいんでしょうね。私には分かりませんが。
『……なるほど。黒と紫はなにが違うんだ?』
醜悪と嫌悪についても知らないみたいですね。あまり説明したいものではないんですが……。
「それは……紫は性格的に苦手な人に渡すものですが、黒は……顔の醜い人に嫌がらせとして押し付けるものなんです。そういう違いがあって」
送られた時のことを思い出して、つい顔をしかめてしまったけれど、フードを被っているし気付かれていない……ですよね?
『酷いな、それ。そんなことに使われる花も可哀想だ。』
アルバートさんがそう言ったことに酷く戸惑いました。だって、そんな事を言う人はこの国にはいないですから。黒と紫の意味に関しては、人を傷付けるような意味は無くすべきだと私は思うのですが、醜い者に厳しいこの国はそれをよしとしません。王家の思想が表れているんだと思います。
「そ、そうですよね。貴方もそう思いますか。実際送り付けられても、良い気はしなかったですから……私も黒と紫の意味は、無くしてほしいと思います」
初めて、人にこの意見を言えました。今まで、誰かにこの意見を言ったところでどうせ「送られたのはお前が醜いせいだろう」と言われると分かっていたからです。
アルバートさんには気を許してしまう不思議な雰囲気があります。この国の誰も何も言わなかった花の色の意味に対して、こんな風に怒ってくれたアルバートさんは、とても優しい人です。
私は、胸の奥が温かくなるのを感じました。
もう皆さん気付いていたと思いますが、マットは第六王子のマシューでした!
次も王子視点になります!




