22.素顔を晒す
「…すみません、なんだか色々と口出ししてしまって」
遠慮がちに目を伏せ謝罪をするマット。口出しされたとは俺は思っていないけどな。
『いや、色について教えてくれて感謝している』
もしなにも知らずに赤とか選んでたら……、考えただけでも恐ろしいだろ。付き合ってもないのに愛の証を捧げた挙句、覚えてないなんて。
だからマットには本当に感謝しているんだが、マットは謙虚な性格なのかお礼を言っても苦笑いを浮かべるばかりだ。
「……えぇと、それじゃあ、花も決まったみたいですし私はこれで…」
え、もう帰るのか。結局、何を買いにきてたんだろうか?俺の相談にのってくれたのはありがたいけど、自分の買いたい物が買えてないんじゃないか?
『良いのか?何も買ってないみたいだが、』
「ええ……その、今日はもう、胸がいっぱいなので良いんです。」
………?胸がいっぱいって、何でだ?
胸がいっぱいだから何も買わないって…、まぁ本人がいいなら良いのか?
『…そうだ、帰るのなら最後に……顔を見せてくれないか?』
そう言うと、マットが少し不安げに後ずさる。
やっぱり隠しているのは、この世界で言うところの……醜い顔だからだろうか?
『理由があって隠しているのなら無理にとは言わないが、ずっと話していた人の顔も知らないのはな……。それに今度会った時、マットだって分からないかもしれないだろ?』
この言葉がマットの心を動かしたのか、まだ落ち着かない様子ではありつつも、マットは決心したように前を見据えた。
「そう…ですよね。顔の見えない人と話すのは不安ですよね……。では、顔をお見せしますが……気分が悪くなったら、すぐに言ってくださいね。」
と不気味な前置きだけして、マットはスっとフードを外した。
そこに居たのは、茶髪の髪にペリドットの瞳……リューやオリヴァー殿下なんかに比べたら地味だけど、素朴さを感じる癒し系な見た目の不細工だった。
ちなみにここはまだ花屋の中だが、幸いにもあまり人はいないし、地味めな見た目のマットには特に目をやる人もいなかった。
「……あの、すみません。やっぱり気分を害されました、よね……?」
そうおずおずと聞いてくるマット。俺がずっと黙っていたから、いたたまれない気持ちになったのだろうか。
そうしてまたフードを被ろうとするマットに、俺は待ったの声をかけた。
『フードなんて被らなくていい。俺はお前の容姿なんて気にならない………まぁ、綺麗な瞳だとは思ったがな。』
前から思ってたけど、王子たちの瞳って本当に宝石みたいなんだよな。多分みんな色が違うから余計にそう見えるんだと思うけど。
そう思いながらじっと瞳を見つめていると、じわじわとマットの瞳が熱を持ち始めた。
「あ、あの…そんなに見つめられると……。」
顔を赤らめてぼそぼそと呟くマット。赤い顔を見せないように下を向いているのか、目線だけこちらによこす様子は上目遣いになっていてとても可愛い。
こうやってマットを見てると、素朴な子っていいよなぁと思う。今は世界が違うから無いだろうけど、肉じゃがとか作ってほしくなるよな。
っと、違う違う。
『ああ、いやすまない。綺麗だと思って見入ってしまった。』
「……………、顔全体のことじゃなくて、瞳が綺麗だと褒められたのは、初めてです………」
まぁこの世界って、顔の全体しか見てなさそうだし。
マットの顔が醜いとしても、瞳とか髪とかは綺麗だし、仕草だって淑やかで美しいのにな。
『あ、引き止めて悪かったな。帰るところだったのに。』
今更ながらに時間をとらせてしまったことに気付き、謝罪をした。するとマットは少ししゅんとして、
「そうでしたね。帰ろうとしていたのでした………なんだか顔を見せた後では、離れるのが惜しいと思ってしまいますね」
爆弾発言だった。俺の理想が反映されてるけど多分……まだ一緒に居たい、ってこと……だよな?
顔が少し赤くなるのを感じ、咄嗟に手で顔を隠す。
『……マット、俺だから良いが、そういう事はあまり簡単に言うものじゃないぞ。』
俺がそう言うと、マットも自分の言ったことの意味に気付いたのか、ほんのりと頬を赤らめて、焦ったように弁解しようとした。
「ちが、違います。今のは、その、えぇっと……」
とはいえ何も違わないので、言葉が出てこなくなったのか赤い顔のまま黙りこくってしまった。
『ふ、ははっ、わかった。聞かなかったことにしてやるよ。』
なんだか面白くなってしまったので笑いながら忘れてやると告げると、
「本当ですか!……お願いします。こ、こんなこと言うつもりじゃなかったんですよ……」
はー……敬語かわいい………と場違いなことを思う俺。
王子たちもみんな初めは丁寧に話すけど、敬語がかわいいなんて思ったことなかったぞ。マットが使うとかわいいんだよなぁ…。
『わかったって。だから落ち着け。』
そう言って頭を撫でてやる。
「…………ん、」
ハッと顔を上げたあと、気持ちよさそうに目を細めるマットを見て、猫みたいだなと思った。
まぁマットの見た目だけでいうと猫って言うより犬っぽいけど。
「あの、そろそろ手を…」
無心で撫で続けていたらマットが疲れたように言ったので、名残惜しいが手をどけてやる。
「で、では、今度こそ、帰りますね。話したのは少しだけでしたが、すごく…楽しかったです。」
『ああ、俺も楽しかった。また会えたらよろしくな。』
マットが花屋を出ていくのを小さくなるまで見送って、俺は店員に花束を頼んだ。
黄色の花が中心の綺麗な花束が手渡され、俺はそれを大事に抱えて家に戻ったのだった。




