1話
リメイク版とでも良いのでしょうか?もちろん初見さんも楽しめる?作品となっております。宜しければ読んでいただけたら嬉しいです。
そこは空白の空間だった。何故自分がここにいるのだろうか。そう思った時、目の前にもう1人自分がいた。ソレは自分と全く同じ輪郭と外見を持ちながら、周りの空間とは切り離されたかのようにどす黒い存在だった。
「御前は誰だ?」
「御前だよ」
目の前の黒いソレに問いかけると答えは返ってきた。自分と全く同じ声でありながら、その声は悪意に塗れたような声をしていた。
「御前の中にいる、もう1人の御前さ」
「もう1人の……俺?」
「そうだ」
訳が分からなかった。自分が何人もいるわけがないのだから。
「じゃあ聞こう。……何故お前はいる?」
「今はわからなくていい。いずれ、分かるときは来るんだからな」
黒いソレがそう言うと、周りの白い空間に塗りつぶされていくかのように黒いソレは消えていく。
「ま、待て! まだ御前に聞きたいことが、あ……」
そこで空白の空間の中の意識が途切れ、代わりにそこには見知った天井が広がっていた。寝苦しかったのか、全身汗まみれで酷く気分が悪いものであったが。
「……朝、か」
少年、麻生浩一は目を覚ました。だが、何か大事なことを忘れているような気がして頭の中は靄がかかったように不明瞭であった。それが夢の内容だったことは覚えている。だがそれが何のことであったのか、大事な部分だけが思い出せないでいた。
「ふぁあ……まあ、良いか。えーと……」
浩一は寝起きであまり働かない頭で、まず時計を見た。6時20分。普段より20分ほど早く目覚めてしまったが、だからと言って二度寝をする気にもならなかった。
「……あんまりしないけど、シャワーでも浴びてこようかな」
浩一は普段、朝にシャワーを浴びることをしない。だが、これだけ汗だくの格好でいるのも気持ちが悪かったので、着替えを準備しシャワーを浴びに行くことに決めた。
「あ、そうだ。時間ももったいないし……」
着替えを準備し終えた浩一はオーブントースターに食パンを一枚入れるとタイマーをかける。浩一が風呂から戻ってくるころには冷めていることが予想できたがあまり気にはしなかった。面倒であったし、あまり時間を無駄にはしたくはなかったからだ。
「さてと……行ってくるかね」
浩一はそういうと風呂場に向かって歩いて行った。
そんな彼を、ずっと狙っている者がいた。いや、それを者と呼ぶにはあまりにも語弊があった。ソレは者などとは呼べる代物ではなかったからだ。
全身が黒く、巨大なソレは2足歩行をしているという点において言えば人と呼べるのかもしれない。だが、全身に大量の眼が存在しており腕の肘に当たる部分には巨大な槍のような針が存在していた。
「待ッテイロ、貴様ノ血、啜ッテヤロウゾ」
ソレは喉をクククと鳴らしながら、いつかいつかと浩一を狙っていた。
「ふう、朝シャンなんて中々やらないけどやるとさっぱりするもんだな」
浩一はシャワーから戻るとトースターの中のパンを皿に移す。冷蔵庫の中からマーガリンと牛乳を出すとコップに牛乳を注ぎ、マーガリンをパンに塗る。
「いただきます」
浩一は一口牛乳を飲んでからパンを齧る。やはり、思った通り冷めていた。だがこれはこれで良いと思い、あまり気にはしなかった。
「えーと今は……7時10分か」
浩一は一気にパンを食べて牛乳を飲むとすぐさまワイシャツと学校指定のスラックスを履く。後は必要物品の殆どを学校に置いているためにペラペラとなっている鞄を持つと部屋を出る。
「行ってきます」
浩一は誰もいない部屋に言って部屋を出た。アパートの鍵を閉め、住人専用の駐輪場まで行き自転車の鍵を開けると早速走り出した。浩一の高校は自転車で40分ほど掛かる。普段より幾分か早いが、その分ゆっくり行けば良いと浩一は思っていた。
「おーい、浩一ー」
しばらく走っていると後ろから自分のことを呼ぶ声に気付いた浩一は自転車をその場に止めて後ろを振り返る。そこには自分と同じ高校に通っている、自転車に乗った須藤直樹の姿があった。
「おー、直樹」
「おっす」
浩一は軽く挨拶をすると、直樹と並ぶ。中学からの同級生であり、同じ高校に通っている高校1年生。浩一にとっては真面目なことから馬鹿なことまで話せる友人である。
「今日の宿題やった?」
並んで走り出した浩一に直樹が話しかけてきた。
「ああ、やったぞ」
「マジで? なあ、写させてくれよ。頼むよ、浩一ー」
「良いけど、1ページ300円な」
「え!? 金取るのか? なー貸してくれよ、頼むよー、鬼ー、悪魔ー」
「金取られるのが嫌なら自分でやれ。あれの提出午後までだから、午前中頑張れば何とかなる」
「マジでか!? おし、急ぐぞ。浩一」
そういうと直樹は浩一を置いて先に行ってしまった。やれやれとため息をつきながらも浩一は直樹を追う。こんなことも相変わらずだな、と思っていたからだ。
それから30分ほど走ると浩一は高校についた。彼等の通っている桐生高校は取り立てて特徴的なことはなく、学力のレベルも中の中と言った高校だ。ゆえに一昨年は若干定員より多かったし、去年、浩一達が入学した時には定員割れを起こすような普通の高校だ。浩一はスニーカーから学校用の内履きに履き替えると2階の教室に向かう。そこでは既に直樹が自分の机で必死に宿題をやっていた。その直樹を前の席から椅子を後ろに向けて座り、直樹の宿題を見ている者がいた。
「おっす、遥」
「あ、浩一。おはよう」
「おう」
遥と呼ばれた少女は浩一と挨拶をするとまた直樹の宿題に注釈を入れる。浩一は直樹の斜め前の自分の席の脇に鞄をかけると自分の椅子を引っ張ってきて座りながら直樹を見る。
「直樹も直樹よね。家で余裕を持ってやれる宿題なのに」
「遥はもう宿題したのか?」
「勿論。浩一は?」
「やったよ。一応、だけどな」
「遥ー、ここ教えてくれー」
あー、はいはい。と遥は直樹の方を向きなおし宿題を教えていく。浩一は少しだけ直樹と遥を見ると、机に椅子を戻して外を見る。雲が多いが、雨は降らないだろうと思った。
「あー……そういえば今日は昼飯準備してなかったな。購買でパン買うか……」
両親を中学2年生の時に交通事故で亡くした浩一は現在アパートで独り暮らしをしている。元々浩一は両親を亡くしてからは父方の祖父母の家で生活していた。だが、その裏では当時中学生の浩一の受け入れについて親戚一同では幾度となく話し合いの場が設けられ、その度に皆揃って渋い顔をしていた。事実、浩一が祖父母の家に住むことが決まるまでは幾日も掛かり、それまで浩一は親戚達の家をたらい回しにされるように転々としていくこととなった。その度浩一の心には小さな傷が無数についていき、自分はいらない人間なのだと思うこともあった。だが、中学生の浩一も自分の立ち位置をある程度分かっていたためか、親戚一同を恨むことはせず、高校生になるまで面倒を見てくれた祖父母にも感謝していた。
だが、だからこそ、その祖父母や親戚一同に迷惑をかけないために、高校生になった事を機に両親が残した遺産と奨学金をもらい、アルバイトをしながらアパートで独り暮らしをしているのである。そのため部活動は名前だけ在籍の帰宅部だ。




