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ジュワユーズの救国王子~転生王子の胃痛奇譚~  作者: 夕霧湖畔
第二部 義兄弟で主導権譲り争い
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22+1-2.間章 闘技場を讃えよ2

※昨日から5/4日~6日月曜までの三日間連続投稿を致しております。

 間章中編ですので、昨日の前編部分を先にお読み頂けると幸いです。

  ◇◆◇◆◇◆◇◆


 闘技場のど真ん中と言うのは、実の所ちょっとした密談に丁度良い。


 唇を読む様な真似をされたらどうしようも無いが、実際の所観客席とは結構距離があるので、余程目が良く無いと口の動きまでは読み切れない。

 なにより実際、街中で剣を抜くのは問題がある。だからレフィーリアとしては、義勇軍が使う鍛錬場辺りを使うのだと思っていたのだが――。


「いや実際俺が例の秘剣を使うってのは、結構知ってる人は知ってるんだよ。

 だから義勇軍内で披露しようとすれば、誰か彼か野次馬が集まって来るんだ。

 そうすると君は多分色々事情を聴かれる事になるからね。

 それならいっそ、俺が君を勧誘するために接触したってのを大々的に教えてしまえば必要以上に詮索されないって話なのさ。」


 闘技場の中央で開始位置付近に立ちながら、アレスは簡単な事情説明をする。


 実際義勇軍が一枚岩なのは帝国戦だけだ。参加諸侯に他国への侵略こそ許可されてないが、諜報活動に制限をかける事は出来ない。

 義勇軍内で他国に優位に立ちたいのは、どの国でも変わらないのだから。


「とはいえやり口が強引な自覚はある。

 だから三つ、君が勝てば君の聞きたい事もダモクレスの権限で対応出来る範囲で機密情報含めて応えよう。

 もし負けたなら、君の質問に答えるのはダモクレスに雇用された場合のみだ。」


 勿論先程宣言した、表向きの褒賞も値切る気はない。アレス自身も自分に十分な勝算のある初見の相手との経験は積んでおきたい。

 我侭に付き合って貰うのだから、その程度は必要経費と思っている。


「……成程。あたしにこの戦いの中で、仕官するに値するか見極めろって訳ね。

 いいわ。あなたに振り回され続けるのも大概腹立って来たし、魔法無しって条件もまるで勝って同然って言われてるみたいで気に食わない。」


「ああ、それは単に剣技を披露するって約束した分の理由付けかな。

 魔法使わずに接近戦挑んだら八百長臭いじゃん。」


「……そう。それでもいいわ。

 どっちにせよ、勝つのはあたしだから。」


 納得したレフィーリアは愛剣〔達人の剣〕を自然体で降ろして片手で握る。


【剣姫レフィーリア、LV22。魔騎士。

『奥義・封神剣』『心眼』『神速』『連撃』『必中』『完全回避』。~】


……データだけなら、多分ゲームと殆ど同じだな。

 基礎クラスだけなら勝負にならなかった。だが彼女は何らかの方法でハイクラスへの昇格を果たしている様だ。


 加えてレフィーリアの振るう【奥義・封神剣】は、あらゆる防御を無効化する。それは実は『竜気功』すら例外では無かった。

 加えて『必中』と『完全回避』の二つはアレスも初見のスキル。


(真面目な話。魔法抜きで戦えば彼女は、俺にとって極めて相性が悪い。)


 無論☆奥義三種の修得は伊達じゃない。『見切り』スキルは彼女にとって特効と呼べる程に質が悪い。

 けれど、どれも絶対の優位にはなり得ない。


「始め!」

「?!」


 『神速』で先制を狙ったアレスだったが、違和感を察して間合いギリギリで足を止める。逆に迎え撃つ構えのレフィーリアは、アレスの反応にくすりと笑う。


「流石ね、義勇軍の英雄。違和感を察しても強引に切り込んでくる連中は大体一撃で仕留められるんだけど。」


 綿の様に、羽根の様に。ゆらと、ゆらゆらと。

 足音を立てずに、幾度と無く足を踏み。

 鳴らない音を、踏み鳴らす。


 刹那。


「甘い!」


 間合いの外にいた筈のアレスを襲う斬撃を弾き、即座に両者の『連撃』が翻る。

 唐突に始まった剣戟の応酬に観客達は息を呑み。

 そして唐突に間合いから逃れたレフィーリアの手によって終わり。


「おっと!」


 即座に距離を詰めたアレスが動きを封じにかかる。だがそれでも時々、唐突な間が生じて両者の距離が離れる。そして再び唐突に始まる。


 無数の斬撃が翻り、火花が散り。切り合う全ての斬撃が滑り、留まらない。

 技を乱すための衝突すら切り流され、打ち鳴らされる金属音はまるで楽器の様に音が反響し続ける。


 弧を描き円を描き、殆ど全ての剣戟が一筆書きの斬撃によって構成される。


 彼女の様な力より速さで翻弄するタイプの剣士が突きを多用しないのは不自然と言ってよい。突きは鎧の隙間を縫い、剣戟を交える時間も少ない。

 本来力で劣る相手には、可能な限り鍔迫り合いや打ち合いを避けるのが定石。


 だが剣舞の如き彼女の戦い振りに、リズムを乱す刺突はむしろ邪魔なのか。


「流石ね。あたしの『神速・霞』をここまで完全に見切ったのはあなただけよ。」


 賞金まで賭けて来たアレスに対し、わざわざ『封神剣』を振るうまで待つ心算は無いらしい。

 レフィーリアは己の『神速』が見破られていると知りつつ、剣捌きで圧倒しようと只管に攻め立て、攻め返す。


(『神速・霞』か。多分あの無音の足捌きによって重心移動を隠し、間合いに不規則な緩急を付ける技なんだろうな。)


 アレスは攻撃の仕掛け時や敵の狙い易そうな間を察知する事で反応していたが、原理を見破れば多少は反応し易くなる。

 予想は当たった様で、少しずつではあるが仕掛け時も読めて来た。


(となれば!)


((【【奥義・封神剣】】!!))


 音叉の様な金属音が響き渡る。

 双方の斬撃が交差の瞬間に月の様な弧を描き、互いの斬撃を滑らせる。


 素人目には残光しか見えない刃の応酬は両者の相殺にて終わるが、僅かな膂力と技量の差が、微細な剣速の差を上回る。

 掠り傷を付けられたのは、アレスの一撃だった。


「「ッ!」」


 相殺は共に予想出来ていた。剣鬼スカサハの時と違うのは、相手が修得しているという事前知識。だからこそ、殆ど同時に『連撃』を繰り出す。

 只の衝突。しかし体勢を崩したのは僅かに反応が遅れたレフィーリア。


 このままでは耐え切れないと悟った彼女は呼吸を外し、距離を取り。

((【奥義・【封神剣】武断剣】ッ!!))


 一呼吸で振るわれる三連斬りが、たった一薙ぎ弓状の斬撃で全てを弾き切る。


 互いに渾身の交錯であり、どちらも腕に衝撃が残る。

 必然互いに間合いの外で足を止め、一息吐いて様子を伺う。


「……こ、これは凄~~~いッ!!両雄、一歩も譲らず!

 まさに息を吐かせぬ攻防とは、この事だぁ~~~!!」


 思わず魅入っていた観客達が、一斉に息を吹き返した様に歓声を上げる。

 例え動き自体は目で追い切れなくても、両者が並の選手とは一線を画している事くらい一目瞭然だ。目の肥えた観客達なら目を剥く者も多いだろう。


 ようやく息を吐けた観客達とは違い、未だ両者の間には緊張感が途切れない。


「☆奥義同士は相殺出来る。話には聞いていても、ぶっつけ本番でやるのは流石に心臓に悪いわね……。」


「へぇ。その話はもう少し詳しく聞きたいな。

 何故気付いていたのかもそうだが、こっちは☆奥義って用語自体、聞き馴染みが無いんでね。」


 レフィーリアが深呼吸序でに呟いた軽口にアレスも便乗すると、向こうも時間稼ぎはしたかったらしく、隙を見せぬまま話に応じる。


「あら今更?あたし達は共に王族で、同じ【封神剣】使いなのよ?

 振るう獲物はどちらも〔達人の剣〕。魔法が得意なあなたと剣が得意なあたし、LV差があっても良くて五分。むしろあたしが優勢な筈よ。

 魔法を封じたあなたは、何でそこまで勝つ自信があるのかしら?」


「……あっ。あ~!成程ね……。」


 そういや【奥義・封神剣】は防御無効の格上殺しだ。『竜気功』だって通じない訳だし、奥義同士なら相殺出来るってだけで勝算としてはおかしい。


「それに【封神剣】の話を聞いたあなたは露骨に取り乱してたじゃない。

 自分がシャラーム王族かも知れないって疑いを抱いた様には見えなかったわね。

 なら一番有り得るのは、他の☆奥義を習得している可能性。

 正直、半信半疑だったけどね。」


 握りを確認し、痺れが取れたと確信したレフィーリアが剣を構え直し。


「☆奥義同士が相殺出来るってのは?」


「そっちは単なる伝承、口伝の類ね。

 ☆奥義っていうのは『鑑定眼』スキルで確認出来る単一の奥義として昇華した、人体の限界を引き出した技にのみ出る☆印付きの秘剣の事よ。

 ☆奥義はどちらも身体能力の限界に達している分、全ての技に優劣が存在しないと聞いているわ。だから☆奥義同士である限り、性質が違えど威力は五分。

 ☆奥義の使い手は結果的に、全ての☆奥義が防げる。そういう口伝。」


「……なるほど。つまり☆奥義の数は、勝算になり得ない訳だ。」


 事実、【武断剣】は【封神剣】で相殺出来た。見る限り逆も可能だろう。


「ええ。あたし達の勝敗を決めるとしたら、☆奥義以外の要因が必要。」


 アレスが有利と言える根拠は、既に存在しない。


  ◇◆◇◆◇◆◇◆


 闘技場の覇者テオドール。その名は既に地に落ちたに等しい。

 かつてイストリアで英雄と言えば、それは常にテオドールの事だった。


 傭兵として各地を転戦し名を挙げて。

 数多の手柄によって東部でも数少ないハイクラス、ナイトへの昇格を果たし。


 修得したスキル『反撃』『必殺』『鉄壁』の三つはどんな相手にも勝機を残し、まぐれ勝ち以外では制覇出来ない無類の覇者。

 一度は勝てても勝ち続ける事は出来ない絶対王者として在位五年以上、歴代でもトップクラスの期間、王座を死守し続けた。


 帝国の侵略によって王都は闘技場に救援を求める余地すらなく陥落し、早々閉鎖に追い込まれた。だが、その苦難の日々も長くは続かなかった。

 その、筈だったのだ。


 連敗。圧倒。蹂躙。踏破。

 当初超えられなかった者達も、近隣で武者修行を果たして逆襲し。

 今迄の挑戦者達とは違う、戦歴に裏付けされた底力。


 今やテオドールの常勝を信じる者など誰もいない。

 皆が義勇軍に新しい勇士が現れるのを心待ちにして、テオドールが踏み台になる事を疑わない。かつての闘技場の覇者の敗北を、皆が今か今かと待ち望む日々。


 それは針の筵だった。逃げるなど許されない。後を引き継ぐ相手もいない。

 義勇軍の者達は己の武勇を磨くために幾度も挑戦し、自分を討ち果たしたという勲章に満足して闘技場を立ち去っていく。

 テオドールは何処までいっても、所詮井の中の蛙でしかなかった。


 そりゃあもう泣いた。咽び泣いた。プライドはバキバキのボロボロだ。

 今日も明日もまた負ける。最初は怒り心頭だったオーナーも、今は同情の眼差しでお前の代わりはいないと肩を叩く。そして義勇軍を称賛する。

 手抜きは許されない、勝利を期待されない仕事。


「あぁ、羨ましいよなぁ……。

 オレとの戦いで、こんなに観客が湧いた事は一度だって無かったよなぁ……。

 スゲェよ。あんな歓声。オレもこんな風に、観客を沸かせたかったなぁ……。」


『おい今日はお前も休めるぞ!

 アレス王子がサプライズ対決を提案して下さった!

 今日の闘技場は、盛り上がるぜぇ!!』


 そこにテオドールの居場所は無い。

 控室で酒樽を抱き続けるテオドールに、気付く者はいない。


「ホント、羨ましいよなぁ……。」


 チャキリ。

 暗い情念に突き動かされて、テオドールは呪われた剣を抜く。

 邪悪な魔力を放つ魔剣は、その呪いの力で男の吐瀉物を弾き飛ばした。

※昨日から5/4日~6日月曜までの三日間連続投稿を致しております。

 間章中編ですので、昨日の前編部分を先にお読み頂けると幸いです。


 4日間連続投稿は無理だったので、代わりにこちらの宣伝を兼ねて5/3日に不定期連載短編として「人よ持て成せ神様談義」を予約投稿しておきました。

 短いですが興味が湧いたらそちらでお茶を濁して頂ければ幸いです。



呪いの魔剣「大概にせぇやボケ」



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