22+1-3.間章 闘技場を讃えよ3
※昨日から5/4日~6日本日までの三日間連続投稿を致しております。
間章後編ですので、前~中編部分を先にお読み頂けると幸いです。
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既に試合開始から刃を重ねた回数は百合を超えている。
レフィーリアの剣戟は刃を触れ合う事も困難な、掴みどころの無い変幻自在且つ止まらない斬撃によって構成されている。
それを可能とする極意は決して超人的な速さなどでは無く、足音すら消える緻密で繊細な重心移動による秘技、『神速・霞』によるものだ。
僅かな体の傾きと一見して分からずに重心を変える浮き。これこそが羽根の如き足捌きを実現する極意であり、無音の種。
これにより剣戟の重さを錯覚した相手は斬撃の虚実を誤認し、触れる様で触れる事の出来ない幻の様な剣舞が成立する。
故に本来は不可能なのだ、これほど長く剣を交え続けるのは。
(やはりおかしい……。あたしの『神速・霞』は技の仕掛け時を隠す『心眼』封じとして編み出された妙技。
けれど王子は、間違いなくあたしの剣に対応出来ている。)
身体能力任せの超反応や強引な体勢の修正などではない。
時にレフィーリアを上回る程の、無駄の無い体捌き。まるで切りかかる前に既にこちらの動きが読み切られているとしか思えない。
(まさか『見切り』スキル?こちらの動きそのものを見切ってるというの?)
達人の証と言われる『心眼』を上回る、洞察と経験の極み。
凡そ殆どの武人は辿り着く事の無い、天才のみに許された境地。
でも、それなら分かる。彼にとっての真の切り札。
何より、☆奥義の複数体得の様な不可能を可能にした秘密。
それが彼の尋常ならざる、天性の観察眼によってもたらされたのだとしたら。
(ッ?!仕掛けて来ないんじゃない、観察されてる?!
☆奥義以外に奥の手があると気付かれているの?!)
動揺した瞬間を狙い澄まし、アレスの剣に魔力が漲る。
「っ!【魔力剣】よ!!」
アレスの剣の間合いが槍並に伸び。
一瞬遅れたレフィーリアが掬い上げて弾き飛ばすが、刀身の裏側に滑り込む様に背後へ『神速』で回り込む。
飛び退き様に振るう二つの【魔力剣】が幾度と無く衝突するが、そこに不意を打たれた『霞』特有の斬撃は存在しない。出来ない。
(そんな、『神速』を封じられた?!
もう間違いない!アレス王子は『見切り』持ちだ!)
単なる剣戟の交錯に持ち込まれれば、身体能力の差がものをいう。
体勢を崩され、間合いをものともしない【魔力剣】同士の切り合いにおいて、膂力と体力の差は明確に表れる。
その上で。
(『連撃・交差刈り』!多段ッ!!)
アレスの刃が袈裟斬りに振り抜かれ、反撃する間もなくメの字に翻る。捌いたと思えば更なるメの字の追撃。絶え間なく、留まらず。
動きは単調にて正確、であれば読み易い分凌ぎ易いか、否。
剣の型とは無駄を削った反射の動作。単純な程に動きは速い。
例えどれ程読み易かろうが、防ぐより先に刃が届けば意味が無い。
故に。繰り返せる反復の型は、慣れと修練の数だけ他の動作より鋭くなる。
ゲームと違い、『連撃』に絶え間など必要ない。
(く、捻じ伏せられる……!何が天才よ、何が時代が味方する運命の寵児よ!
コイツ、戦い方がとんでもなく執念深くて泥臭いじゃないの!)
押し込まれる。些細な体捌きや間合いの誤差は伸縮自在な【魔力剣】と『神速』が埋める。『必殺』スキルが宿るとされる〔達人の剣〕は、獲物の急所の、位置と距離を教え続ける。
考える暇が無い。選ぶ時間が無い。止まらない。間に合わない。
(仕掛けられる内に、仕掛けるしかない!!)
『完全回避』。あらゆる技、術を凌ぎ、狙いを振り切る妙技。
音の無い跳躍、そして着地。レフィーリアのそれは『神速・霞』の延長による、視界を振り切っての死角移動術。
問題は、アレスの『見切り』は予測の極意。
(『必中・陽炎』ッ!!)
認識外。知覚の外に移動した上での死角突き。
盲点という、視認出来ない知覚を脳が補うが故に生じる、限られた武人しか知り得ぬ五感の空隙を穿つ、一瞬の刺突。
☆奥義使いに挑むための、レフィーリアの切り札。
(ここだぁッ!!)
『見切り』による洞察、そして『連撃』で制限された行動。
一度も仕掛けぬ『必中』スキルの使わせ時は、『完全回避』によるこちらの斬撃を振り切った瞬間に限られる。
崩れた体勢で本領を発揮する技など存在しないのだから。
盲点狙いも現代知識のあるアレスにとっては驚くに値しない。読み勝ったと彼女の刺突に狙いを定めながら【奥義・武断剣】を解き放ち。
「ゥォオオオオオオオオオオォォォォ~~~~~~~~~ッ!!!!」
「ばよぉぉぉおぉぉぉ~~~~~んッッッッ!!!!」
直線状に衝撃波が二人の間を突き抜け、咄嗟の【魔力剣】で宙を舞ったアレスは棒高跳びの要領で空中を舞い。三回転して。
錯乱しながら地上を観察して、深呼吸しながら無駄に華麗に着地した。
「い、今のは必殺剣【バスター】?」
アレスの剣に弾かれて後退し、体勢を崩したレフィーリアが自分達を襲った一撃の方角を振り向く。
「ちぬかと思った。」
「いいからそのポーズを止めなさい。」
着地と同時に両手を掲げたターンAの字から体を開放し、全身の硬直を解す。
土煙の中からは全身を重武装で固めた巨漢の男が大剣を構えて現れた。
どうやら先程の一撃は、通路門を破壊した余波だったらしい。
【狂戦士テオドール、LV25。魔騎士。
『反撃』『必殺』『鉄壁』『暴走』。《破滅の魔剣》~】
獣の様な唸り声をあげる男は、最近この闘技場で戦った十階級目の王者だった。
「一体あれはどういう事?明らかに正気じゃないんだけど。」
「あれは《破滅の魔剣》だねぇ。並外れた攻撃力を誇る反面、呪いが自身を傷付ける力がある筈だよ。」
ゲームでは単に二割の確率で与えたダメージが跳ね返る呪いの武器だが、所持者は大体『暴走』スキルを持っているのでファンの間では関係性が疑われていた。
何より『暴走』スキルは本来HPが三割以下になった重傷時にしか発動しない筈のスキルなのに、HPが減る前から発動状態に陥っていたりする。
ひょっとしたら、長く使い続ければ『暴走』スキルが宿る様な裏設定があったのかもなとは疑っていた。
「呪いの所為か、【補助魔法】は通じないな。
闘技場の結界の影響もどの程度受けているか怪しいや。」
つまりテオドールに限って言えば、防ぎ損ねれば死ぬ恐れがあるという事だ。
けれどその程度、英雄と呼ばれ続けたアレスや傭兵として生きるレフィーリアにとっては今更の話で。
「勝負が有耶無耶に終わってもお客さんが可愛そうだ。
決着は、あいつに止めを刺した方の勝ちって事でどうかな?」
レフィーリアももう一度仕切り直す手間に思い至って顔をしかめる。
「ま、いいでしょう。元より重武装相手は得意だもの。
それじゃ、とっとと終わらせましょうか!」
敵を探していたテオドールがこちらに気付き、走り出す。
二人は同時に『神速』を発動させて距離を詰めるが、遠過ぎる間合いはその効果を弱めて加速を早めるに留める。
「ゥォオオオオオッッッっ!!!」
魔剣技【真空切り】。槍の間合いの外から洗練された斬撃の鎌鼬が放たれる。
理性を失って尚も奥義が放てるのは、絶え間ない修練の証か。
地面を抉る衝撃波を躱し切り左右挟み込む様に距離を詰めるが、テオドールが標的と選んだのはより間合いに近く、正面に近かったアレスの方。
《破滅の魔剣》の殺傷力は、肉体の負荷を無視した怪力も加わり当たれば鎧ごと両断出来る破壊力がある。
(【奥義・魔王斬り】ッ!!)
(【奥義・封神剣】ッ!?)
斬撃が炎を纏い、物理攻撃を魔法と化す【炎舞薙ぎ】となって薙ぎ払い。
全ての衝撃と余波をアレスの斬撃が傷一つ負わずに切り払う。
その様子に鎧を両断しながら疾走したレフィーリアの表情が引きつる。
(また【☆奥義】かキサマ。)
(ええ、三つ目です☆)
二人の間でイラつくアイコンタクトが交わされる。咆哮を上げて踏み止まって、ふらついたテオドールの両脇を、交差しながら走り抜けて弧を描く。
仕掛けるのも再び同時。
僅かな迷いを振り切り、今度はレフィーリアに【スラッシュ】による一面の薙ぎ払いが横殴りに空間を抉る。殺傷力を犠牲にした、必中の狙いはしかし。
(『完全回避』ッ!)
(【奥義・武断剣】ッ!!)
死角から消失した瞬間に空を切り。背中を一瞬の三連撃が抉り裂く。
凡そ瞬きの交錯。膝を突く暇さえ無い三度目の交錯が迫り。
「グぅヌォオオオオオオッッっぅぅ!!!!」
奮い立つように咆哮を上げた一撃は頭上で止まり。
「グぅヌゥゥゥゥ~~~~ッッッッ!!!!」
(((((あ。)))))
けれど頬を涙が濡らしながらも振り下ろされる事は無く硬直し続け。
悔しさに歯軋りしながら無防備に二対の【封神剣】が直撃する。
涙は止まらず、唸り声も辞めず。
呪いの魔剣の力を借りて尚も一方的な現実に。
狂戦士テオドールは、衝撃に打ちのめされながら倒れ伏した。
「「…………。」」
二人の間に、気まずい空気が流れる。
そして観客達の間にも伝わる。彼の、何処までも残酷な現実が。
どれだけ泣いても届かない、振り下ろしどころの無い魂の叫びが。
それはとても辛い、敗者の嘆きがそこにあった。
「フヌゥゥ~~ッ!フグゥゥゥウ!」
歯軋りしながら魔剣を床に叩きつける。僅かに動く腕の力で。けれど真に悔しいのは敵ではなく、振り下ろせなかった自分自身で。
アレスは慟哭する男の拳を、そっと手を添えて止めた。
「大丈夫だ。君の今迄は無駄じゃない。君は諦める必要なんて無いんだ。」
優しい笑顔で微笑みかける。彼を力付けるために。
「本当さ。君は決して弱くは無い。君は今でも、逃げて無いじゃないか。
大丈夫だ。確かに負け続けた。けれど君は、無駄になんてしていない。」
魔剣の呪いは既に及ばない。無力な呪いに何の説得力も無いから。
悔しさに泣き続けるテオドールの拳には、何処までも無力感が残り続ける。
「それに失礼だよ。今でも君は皆の目標だ。
君に勝とうと頑張っている者達が居る。君は間違いなく高みの壁なんだ。
君は万能でも常勝でも無い。けれど間違いなく君は強者で、皆が乗り越える価値のある、紛れも無い、誇り高い勇士だよ。」
「そ、そうだ!テオドール!お前はよくやった!」
「お前は凄ぇよテオドール!アンタは間違いなく英雄だ!」
誰かが始めた拍手が会場に響き始める。
「「そうだ!俺達は見ているぞ!アンタの不屈の魂を!」」
「「「負けるなテオドール!あんたは間違いなく俺達のヒーローだ!」」」
涙を流しながら手を叩く。辺り一帯を拍手の音が埋め尽くす。
誰もが皆共感する、圧倒的な障害。そして立ち向かい続けた勇士の姿。
「ゥォオオおおおおおおおおぉぉぉぉ~~~~~~~~~ッ!!!!」
気力を振り絞り、動かぬ体で魔剣を捨てて拳を振り上げる姿に。
万雷の拍手喝采が満ち溢れた。
(逃げ切ったゼ。)
尚元凶のアレスは、脂汗塗れの体から逃げる様に気配を殺して。
背後の黒髪が浮かべる笑顔に気付かぬまま会場を後にした。
◇◆◇◆◇◆◇◆
カリカリとガラスペンが文字を記す。差し出されたのは雇用契約書だ。
「条件はこれで、問題ありませんね?」
書類を差し出したのは、ルーゼこと元帝国第三皇女ヴェルーゼ姫。
今や義勇軍の中核の一人であり、戦力三強の一角。
「ええ、これで構わないわ。」
予備と二つの書類に証明印を捺して片方を差し出す彼女の美貌には、容姿に自信のあったレフィーリアを以てしても舌を巻く程だ。
そして今は一時的ではあるが、事実上の義勇軍を差配するトップだ。
『私は欲望に負けて仕事をサボり、周りに迷惑をかけました。』
尚本当のトップであるアレスは椅子に縛られ、背中に石と看板を担ぎながら只管与えられた仕事を片付ける機械と化していた。
「アレス王子。これ、今上がって来た闘技場の修繕費です。」
あなたが払ってくれますよね?と無言で威圧するのは。
消えた王子の捜索隊の報告で一度は倒れた、ちょっと病状が悪化して額に血管を滲ませるイストリア王だ。
※昨日から5/4日~6日本日までの三日間連続投稿を致しております。
間章後編ですので、前~中編部分を先にお読み頂けると幸いです。
4日間連続投稿は無理だったので、代わりにこちらの宣伝を兼ねて5/3日に不定期連載短編として「人よ持て成せ神様談義」を予約投稿しておきました。
短いですが興味が湧いたらそちらでお茶を濁して頂ければ幸いです。
アレス王子は時代劇とかアニメで見た秘剣を思い出す限り全部練習してますw
「魔法剣とかめちゃくちゃ興奮したwオリジナル必殺剣、憧れるよね!
人類には出来ない奥義?それは今の超人で天才な私にも出来ない事かね?」
といったアホな方向で役に立つか立たないかはさて置いて、違う意味で才能に溺れてますwそりゃあもう凄い勢いでw無駄な努力とか、大好きだッ!!
「極めるとは、こういう事だァッ!」とか一生に一度は言ってみたい台詞ですw
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