第百三十一話 魔人の猛襲
「綾瀬さん、俺が足止めをします!」
「分かった……っ、援護する!」
鱗獣との戦いで効果を発揮したのは、複数属性を融合させて増幅する『エレメントグラム』――それ以外にも、攻撃を通す方法はある。
《神崎玲人が強化魔法スキル『マルチプルルーン』を発動 対象魔法を全体化》
《神崎玲人が弱体魔法スキル『Dレジストルーン』を発動 即時遠隔発動》
《神崎玲人が攻撃魔法スキル『フリージングデルタ』を発動 即時発動》
「――シャギィィッ……!!」
鱗獣がこちらに接近してくる前に魔法抵抗力を下げ、元から抵抗力の低い冷気属性で弱点を突く。
かざした手の先に生じた三角形は、拡大しながら鱗獣たちに到達し、瞬間的にその身体全体が凍結する。
「凄まじいな、神崎君……これなら……っ!」
《綾瀬柚夏が射撃スキル『ナパームショット』を発動》
凍結した鱗獣の身体を、綾瀬さんが魔力を込めて撃ち出した弾丸が射抜く。極低温から一気に高温に上げることで装甲がもろくなり、弾丸が貫通して炎が散る。
「まだっ……!!」
綾瀬さんは『ナパームショット』を続けざまに放ち、次々に凍結した鱗獣を撃破していく。第一陣の撃破は想像以上に上手くいった。
高台の上に駆け上がりながら、俺は『龍』の全貌を見る。
龍の背に見える、小柄な姿。龍の背から伸びた触手に下半身を絡め取られ、全身にも組織が巻き付いている。
髪の色が真っ白に変わっている。その変わり果てた姿でも分かる――あれは、ミアだと。
『……レイトさん……来てくれたんですね……』
頭の中に声が響いてくる。懐かしむように、ミアがこちらに手を伸ばしている――その手が、握りしめられる。
『あなたは……私たちの側にいなければいけないんです。いつも私の味方で……守ってくれる、優しい人……』
《名称不明の魔人が回復魔法スキル『ヒーリングアリア』を発動》
回復と防御のスキルに特化した職業である『聖女』。今はその力が、魔物を癒やすために使われている。
「この、音は……神崎君、私から……離れ……っ、あぁ……っ!」
その歌は綾瀬さんが言っていた通り、甘い毒のようだった。魔物には癒やしとなり、人間の心を乱す――それでも。
《神崎玲人が強化魔法スキル『マインドクレスト』を発動 即時遠隔発動》
綾瀬さんの額に魔力の文様が浮かび上がる――そして、彼女の目に正気の色が戻る。
彼女の銃口は俺に向けられていた。ミアの歌は同士討ちを誘う、そんな力は『聖女』だった彼女は持っていなかった。
「捻じ曲げられている……彼女の、スキルが」
「はぁっ、はぁっ……済まない……精神防御を行っていても、無理矢理に操られた……」
「俺がいる限り、全員が操られることは防げます。ですが……」
『もう、分かりましたか……? レイトさん、あなたには勝ち目はありません』
《『ヒーリングアリア』により鱗獣の「戦闘不能」が回復》
『龍』とミアの能力は、これ以上ないシナジーを発揮していた。眷属である鱗獣を回復させ、こちらの行動を阻害する――それでいて『龍』本体の行動を残している。
「あの子は……神崎君に話しかけてるんか。やっぱり人なんやな……」
高台には半分に折れた形跡のある岩があった。その影に、和装――巫女服を動きやすくしたような装備をした女性と、武装した少年がいる。
「姉上、あれは人の姿をしているだけです。龍の作り出した疑似餌のようなものに違いありません……痛っ」
巫女衣装の彼女がおそらく夜雲さんなのだろう。少年の額を軽く叩いて咎めている。
「それくらいは従者でも肌で分かって欲しいんやけどな。あの子は人間や、魂が闇に塗られても形は残ってる」
『これが人間の、本来の姿です。因子を持つ者は、こんな力を得ることもできるんです……選ばれた存在ですから』
ミアはこちらに向けて両手を広げる。その姿は聖女そのもので――だが、禍々しく歪んでいる。
『神崎君、地上にいる鱗獣を倒さへんと、あの子に近づくことさえできへん』
ブレイサーを介して夜雲さんが話しかけてくる。俺はミアの姿から目をそらさないまま、その声に耳を傾けた。
『私らが用意してる策は2つある。ひとつは『式陣符・八卦封印』……なんとか発動の準備は進めたんやけどな、最後の一枚だけがまだ指定の位置に貼れてへん。それをなんとかして貼ってほしいんや』
『分かりました。札を貼る位置に決まりはありますか?』
『あの龍の身体ならどこでもええ。近づいたら反撃されるで……だから、気づかれずに貼らなあかん』
俺は夜雲さんに近づき、札を受け取る。これを龍の身体に貼る――投擲などの手段を使えば、龍本体に迎撃で防がれるだろう。
『札を貼ることで何が起こるんですか?』
『あの子を解放するためには、とにかく近づかなあかん。私の封印術が効いてるうちは、「龍」の反撃頻度が下がる……そうやなかったら、龍の背中から伸びてきた触手みたいなのでやられてまうで』
『そういうことですか……把握しました。綾瀬さん、援護をお願いします!』
《神崎玲人が特殊魔法スキル『ステアーズサークル』を発動》
俺は高台から飛び降り、空中に足場を使って『龍』に近づく――だが。
《名称不明の魔人が神崎玲人に攻撃》
《名称不明の魔人が神崎玲人に攻撃》
夜雲さんの言った通り、空中から近づこうとしても無数の触手がこちらを狙ってくる。
《神崎玲人が固有スキル『呪紋創生』を発動 要素魔法の選定開始》
《回復魔法スキル レベル8 『ブレッシングワード』》
《特殊魔法スキル レベル10 『デモリッシュグラム』》
『龍』を悪魔の一種と見て、『デモリッシュグラム』で対悪魔結界を展開する――読み通り触手の攻撃を防ぐことはできたが、あまりに手数が多すぎて接近できない。
『――玲人っ!』
『雪理……っ!』
第4エリアに雪理たちが侵入し、『龍』を発見する――それだけで戦意を喪失してもおかしくない相手なのに、誰も足を止めることがない。
『なんてでたらめな大きさですの……っ、こんな怪物を外に出すわけには……!』
『はぁ~、これ一発で死んじゃうやつですよね、攻撃受けたら……』
『社さんたちは鱗獣が近づいてきたときだけ対応してくれ。回避に徹して、距離を取って魔法で狙うんだ……俺はあの「龍」に近づかないといけない。この札を貼ることで、龍を弱体化させられる』
『それが秘策か……だが、簡単ではないだろう』
唐沢の言う通りだ――龍の体表から伸びてくる触手の手数があまりに多く、単純な物量で押し返されてしまう。
『龍の背にいる人は、こちらを歌だけで壊滅させる危険がある……だが、俺たちをまだ侮っている。連続で歌ってこない今の間がチャンスだ』
『れ、玲人さんっ……その、「龍」に近づくことができたらいいんですよね……っ』
『黒栖さん……そうか……!』
『はいっ、可能性はあると思います。私はもう覚悟は決まってます……っ!』
『……神崎、黒栖。何をするかは知らないが、それは捨て身というわけじゃないんだろうな?』
『ああ、そんなつもりはない。全員で脱出するまでがゾーン探索だ』
木瀬がフッと笑う気配がする。俺は仲間たちの前方に着陸すると、後ろから襲ってくる鱗獣たちに『Dレジストルーン』を『フリージングデルタ』の合わせ技を叩き込んだ。
「……あなたは。本当に無茶ばかり……でも、いつも私は……」
雪理の言葉は全て聞こえなかった――だが、その瞳を見れば意思は伝わる。
《折倉雪理が固有スキル『アイスオンアイズ』を発動》
雪理の瞳が冷たい青色に変わる。幻の冷気は鱗獣たちの動きを鈍くさせる――龍の動きさえも。
「――シャギィィィィッ!!」
停滞しながらも鱗獣たちはこちらに攻撃を仕掛けてくる。振り下ろされた腕が岩を砕き、土煙を上げる――その中に紛れながら、黒栖さんがコネクターを介して俺を呼ぶ。
『玲人さん、行きますっ……!』
『ああ、頼む……!』
《黒栖恋詠が特殊行動スキル『セレニティステップ』を発動》
《神崎玲人が特殊魔法スキル『ジャミングルーン』を発動》
使用者が出す全ての音を消す『セレニティステップ』に、他者からの認識を阻害する魔法を組み合わせる――そして俺は黒栖さんに、夜雲さんから預かった札を託す。
『折倉さんの力で、魔物が遅くなってる……これなら……っ!』
『黒栖さん、危ないと思ったら退いていい! 龍の反撃は……っ』
『――大丈夫……ですっ……!』
黒栖さんは最短経路で龍に近づいていた――そして、こちらを認識すると猛然と攻撃してきていた龍の触手は、ピクリとも黒栖さんに対して反応しなかった。
『お願いっ……!』
《斑鳩夜雲の陰陽術スキル『式陣符・八卦封印』が発動》
『……そんなことをしても、無駄なのに。この子が持つ力全ては封じられない』
ミアの声が聞こえる。彼女には『式陣符』を発動した意図の全ては理解されていない――彼女に近づくため、ただそれだけのためだということを。
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