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褒められバスター  作者: 平野文鳥
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第35話 エスティムの手紙

 化石化した骨が作る人型バリアントの姿を眼下に、ソフィアはリュックから再び先ほどの書物を取り出し、挟まれていた手紙を抜き取った。それは祖父であるエスティムがソフィア宛てに書いた遺言だった。


――我が愛しき孫ソフィアへ


 この手紙は、おまえに私の願いを引き継いで欲しく希望を込めて書き綴ったものだ。少し長いが、最後まで読んでくれたら幸せだ。


 ソフィアよ。以前にもおまえに話をしたことがあるが、覚えているだろうか。

 この世界にはエンパとシンパという人の心を伝える二つの物質があり、エンパは人々の心の闇を伝え、シンパは心の光を伝えるということを。そして二つは相反し、二つが混ざるとお互いがその力を相殺し消え去ってしまうことも。


 私は、そのことをバーリー伝説を研究しているときに知ることになった。

 バーリーとは何者か? 闇とは何か? なぜバーリーが死んだら闇が消えたのか? あの伝説の意味することはなんだったのか? その好奇心が、若き頃の私をその伝説が残るバーリー山へと導いた。そして発見した。化石化した骨が作る巨大な人の姿を。それは、体は人だが頭はトカゲで長い尻尾がついた異形のものだった。その時私は、伝説は本当だったのだと確信した。そして私はその骨の一部を持ち帰り分析をした。しかし、それはただの骨の化石に過ぎず、それ以上新しい何かを発見する事はできなかった。

 そんなある日の事、街の中である噂が飛び交った。ゴーストが現れ人々を乱心させていると。それを聞いた私は伝説を思い出し、直感的にそのゴーストたるものは伝説でいう「闇」ではないかと思った。しかし、闇の原因と言われたバーリーは既にいない。そこで私は仮説を立てた。闇を作ったのはバーリーではなく、闇を倒したのがバーリーではないかと。

 それから私はその仮説を実証したくなり、骨の化石を持ってゴーストを探し続けた。そしてある日、ついにゴーストと遭遇することができた。ゴーストは私の想像を超えた存在だった。それは物体というより、人の闇の心が形になったようなもので、近づくと、その闇の心が自分の心に侵入してきた。恐怖を感じた私は何も考えられなくなり、とっさに化石をゴーストに向けた。すると突然、化石が光り出しゴーストが消え去った。

 その時、私は真実を知った。伝説は間違いだったと。バーリーは巨大化したゴーストを倒すべく山から降り、そして、倒した後にバスターたちによって殺され、山に葬られたのだと。

 それから、私はその化石を元に研究と実験を続けた。そして、この世界に人の心を伝える二つの物質があることにたどり着いた。それがエンパとシンパだ。もちろんその名前は私が作ったものだ。

 これを発見したした時、私は驚愕した。そして、なぜ人間が戦争と平和を繰り返すのか、その原因もわかり身の毛がよだった。ただ、原因がわかった以上、戦争を事前に食い止める方法の可能性もでてきた。


 ソフィアよ。これだけはわかってくれ。戦争はエンパが作る。だが、そのエンパを作るのは人の心だ。逆に平和もシンパが作る。そのシンパを作るのも人の心だと。そして、すべては人の心次第なんだと。


 最後にお願いがある。

 再び、エンパの動きが活発になってきているようだ。それは私が死んだ後も続くだろう。そして再び巨大なゴーストが現れ、この世界を戦争へと導くだろう。それをバーリーの骨で阻止してもらえないか。いつでも使えるようにブレスレットに加工しておいた。

 もちろん、おまえ一人だけでとは言わない。必ず、あのバーリーの骨を使える仲間が現れるはずだ。そして、おまえはその人間を見つけることができる。何故かって? 覚えていないと思うが、おまえは、幼い頃にバーリーの骨を光らせたことがあったからだ。ただ、おまえのどういう心が光らせたのか、その理由を今だに解明することができずに人生の終焉を迎えることになったことに関しては悔いが残る。しかし、いつかそれも分かると信じている。


 ソフィアよ。もし、おまえが私の意思を継いでくれるなら、バーリー山へ行ってくれないか。そして、そこにあるバーリーの骨を同じ仲間と共有して、巨大ゴーストを倒し戦争への道を阻止してくれないか。

 もちろん無理にとは言わない。もし、おまえがそれを負担に感じ拒否したとしても、私はおまえを恨まない。ただ、その時は、せめて、人々を救うために殺されたバーリーの気持ちを思いやり、忘れないでいておくれ。


 最後まで読んでくれてありがとう。


追記:バーリーに関することは、おまえの父ディザードも知らない。その事を彼に伝えることだけは控えてくれ。彼は、私の研究を自分の出世の為に無駄で持ち出した男だ。もしバーリーの事を知ったらシンパを間違った方向に利用するかもしれないから――。




 ソフィアは最後の一文に目を通した時に、一瞬哀しい表情を見せた。


「お爺様……。あなたの意思は、ちゃんと継ぎましたよ」


 ソフィアは、摘んできた花束を岩場に向かって天高く投げた。散った花びらがバーリーの骨の上に優しく降り注いだ。




 プレイズは自分のために用意された豪華な部屋で、椅子に腰かけてぼんやりとしていた。


(フェイムから聞いた話だと、僕はあのゴーストを倒せなかったらしい。でも、ソフィアにはできたらしい。じゃあ、僕なんかよりソフィアに協力してもらった方がよっぽど意味があったと思うんだけど、でも、なぜか彼女はそれを拒否したらしい。どうしてなんだろう。ソフィアはどこに行ったんだろう……)


 プレイズはため息をついて左手のブレスレットを見つめた。


(そんなに、落ち込まないでください。プレイズさん)


 突然聞こえたソフィアの声に驚いたプレイズは椅子から立ち上がり、周りを見回した。


「ソフィア!? どこにいるんだ」


(すごいわ。こんな遠い場所から私の心をあなたに伝えられるって。ブレスレットの何十倍もの伝達力がある。これがバーリーの力なのね……)


「えっ、何を言ってるんだ? これはどういうことなんだ」


 そう言いながら、プレイズは、ふと、初めてゴーストを倒した時に同じように頭の中でソフィアの声が聞こえてきたことを思い出した。


(プレイズさん。私の声はシンパの力を使って直接あなたの心にお伝えしています。……と、言っても何のことかわかりませんよね)


「シンパ? なんなんだ、それは」


(詳しいことはお会いしてお話いたします。よろしかったら私がいる場所まで来ていただけませんか)


「君がいる場所? も、もちろんだ! それで、今どこにいるんだい」


(バーリー山です)


「バーリー山……」


 その名前を聞いたプレイズの表情が曇っていった。

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