いじめられる少年
2099年4月、突如世界各地の空に亀裂が走り、そこから異形の怪物が現れ、侵略行動を開始した。
突然のことに人類はなすすべもなく、捕食され、殺され、住んでいた土地を捨てざるえなかった。
国際連合は互いに手を取り合い兵器を使い、対抗するもあまり効果はなく、人類は衰退の一歩を辿っていく。
最初の侵攻から数年、異形の怪物達に触発されたのか人類の中に特殊な力に目覚めるものが現れた。
あるものは怪力に目覚め、あるものは火を操り、あるものは何かを召喚するものも現れその力は驚異的なものだった。
それも取り分け少年、少女といった比較的低年齢の発現が多く、それ以上の年齢のものは発現率が低かった。
国際連合は異能に目覚めた者達を対異形の戦闘員に組み込み、反撃を敢行した。
結果として人類が怪物達の駆逐に成功し、奪われた土地の奪還に成功した。
この件をきっかけに国際連合はまた侵略しに来る怪物達に対抗するため異能を持つ者達の戦力の成長、技術の発展をさせる為に異能を持つ者を育てる教育機関を海の上に人工島を造り上げる。
人工島の名前は人類が怪物達から解放される祈りを込めて、リベレーションと名付けられた。
そして、小中高の全てを統合した異能学園に世界中の異能を持つ子供達が集められる。
そんなリベレーション島が造られて10年、その島の一角、華やかな繁華街の夕方の路地裏で三人の男が一人の男に暴力を振るわれて倒れていた。
暴力を振るわれていたのは日本人で、暴力を振るっていたのは金髪の外国人達だった。
「おい氷坂、いい加減しろよ!神崎にはもう近付くな。あいつはこの俺、ジョニー・ラノフの物になるんだからな!」
ジョニーは氷坂と呼ばれた倒れている日本人、氷坂八雲を足蹴にし、ジョニーの取り巻き達はその姿を見て笑う。
「神崎……伊織は君のものじゃない。伊織が一緒にいたい人を決めるんだ。それを決めるのは君じゃない!」
八雲は身体の痛みを我慢し、立ち上がる。
しかし、せっかく立ち上がるも身体はふらふらで今にも倒れてしまいそうだった。
「な!?だまれぇ!」
ジョニーが右手の人差し指を八雲に指し示すとジョニーの足下の地面から拳程の大きさの石柱が現れ、八雲を殴り飛ばす。
「ぐはっ」
「調子に乗ってンじゃねぇよ。知ってるんだよ。お前の異能は弱いっていうのはな。雑魚なら雑魚らしく、寝てな!」
そう言って ジョニーは取り巻きを引き連れて去っていった。
ジョニーが去ったあと、八雲が一人残った路地裏に新しく二人の人物は入ってくる。
片方は八雲と同じ日本人であり、腰まで伸びた艶やかな黒髪に少し幼さ残る顔立ちをした少女。
顔立ちは充分に整っており、美少女と言われてもおかしくなかった。
もう片方は十歳ほどの赤い頭巾を被っている少女。
金髪に青い目、手にはパンやワインの瓶が入ったバケットを持ってこちらに走ってくる。
その姿は文字通り童話の『赤ずきん』そのものだった。
「マスター!伊織さんを連れてきました!伊織さん、マスターを!」
「八雲君!大丈夫!?すぐ治すから」
「い、伊織。あ、赤ずきん」
伊織と赤ずきんと呼ばれた少女は八雲に駆け寄り、二人は手を貸して八雲の身体を仰向けに寝かせる。
「マスター、ごめんなさい。私、マスターの異能なのにもっと強ければ、こんなことにならないのに……」
「き、気にしなくてもいいよ。元々赤ずきんは戦闘を行うようなキャラクターじゃないんだ。伊織を呼んできてくれてありがとう。赤ずきんもしばらく休んでおいで」
そういうと八雲の手に小さな手帳が現れ、ページが開かれると赤ずきんは吸い込まれて消えていく。
『虚構の友』、それが八雲の持つ異能である。
自分の知るお伽噺のキャラクターを召喚することができる能力なのだが、何が原因なのか八雲は赤ずきんしか召喚することしかできなかった。
「もう、八雲君。無理しちゃダメだよ。赤ずきんちゃんも私も心配するんだから。……これやったのはジョニー君だよね?」
伊織は掌から淡い緑色の光を発し、光が触れた八雲の痛みは徐々に引いていく。
伊織の異能、『貴方の治癒』は対象の生来持つ自然治癒能力を引き出し、治療する能力であり、それが発動し八雲を癒していく。
「……うん。伊織のこと自分のモノにするって言ってたから伊織はモノじゃないって言ったらやられちゃった」
八雲は苦笑しながら上半身を起こして、治療を受ける。
「確かに私はジョニー君のモノじゃないけど八雲君が怪我する必要はないんだよ!幼馴染みとして心配するんだからね!」
「うん。ごめん。気を付けるよ」
八雲と伊織は小さい時からの幼馴染みであり、二人とも中学を卒業後に異能に目覚めた為、この島に連れてこられた。
「けど、治癒しきれない怪我しなくて良かったよ。はい、これで治療終わったよ。早く一緒に帰ろ!」
「え、あぁ、うん。そうだね」
治療を終えた伊織は立ちあがり、八雲に手を差し伸べ、八雲も応えるように手を取り立ち上がり、そうして二人はそのまま帰路につくのであった。