友達と竜姫
ジョニーの件の翌日、八雲と伊織は学園から支給される制服を着て登校していた。
「八雲君、昨日の傷はもう痛くない?痛くなったらいってね?」
「伊織、そんな心配しなくても大丈夫だよ。伊織のお陰で全然痛くないし、それ以上に体調がいいんだ」
「おやおや、ご両人。今日も仲の良いことで」
「全く、見てるこっちが恥ずかしくなりそうですわ」
八雲と伊織が声に気づき、後ろを向くと茶髪の眼鏡の少年とボブ程の長さの金髪の美少女が立っていた。
「「ダニー、キャシー!」」
「やぁ、二人ともおはよう。またなにかあったようだね」
「おはようございますですわ。大方、八雲と伊織の仲に嫉妬した馬鹿がちょっかいを掛けてきたってものでしょう?八雲もちょっかいを掛けられたのならきちんやり返さないと舐められますわよ?」
「あはは、耳が痛いなぁ」
八雲はばつが悪そうな風に笑う。
ダニー、本名ダニエル・ノートンとキャシー、本名キャサリン・ミラージュは八雲と伊織が人工島に来てから最初の友達である。
八雲達が来る前に人工島にやってきていたダニー達が二人を案内をしたのが友達になる切っ掛けだった。
少し変なところもあるが物腰柔らかく誰とでも親しくなれるダニーは人工島でも生活に慣れない二人の手助けを行い、大企業のお嬢様で少し傲慢な所もあるが引っ張っていくリーダーシップがあるキャシーはなかなかクラスメート達に馴染めなかった二人をクラスの中心に引き込んでいった。
そのおかけで二人はクラスメートや人工島の生活に馴染む事ができたのであった。
「となると、ジョニー・ラノフとなるかな?確かにあいつは伊織にご執心だからね」
「あぁ、あの下衆男ですか。学園内でもあまり良い噂を聞きませんわ。暴力的で知性の欠片もない馬鹿だそうですわね。伊織は能力的にも撃退出来る力をもっていませんから気を付けなさい。助けが必要なら私も手を貸しますわよ」
「う、うん。ありがとうキャシー」
「本当は俺が追い払えればいいんだけど、俺の異能は戦闘に向いてないし、何より非力で小さい赤ずきんを戦わせれないしね。俺が体を張ってなんとかなるならそうしてみるよ。アハハ」
力なく八雲が自嘲気味に笑う。
「だから無茶しないでよぅ。八雲君に何かあってからじゃ遅いんだからね……」
そういう伊織の目には涙が溜まり今にもこぼれ落ちそうになっていた。
「い、伊織!?ごめん。無茶しないから泣かないで!」
「やれやれ、八雲はもう少し考えて喋った方がいい。僕やキャシー、伊織も君を大切に思っているのだからその大切に思っている人が傷つくのを喜ぶと思うかい?」
「そうですわ。貴方の謙虚なことは美点だとは思いますがその自己評価の低さはいただけませんわね。伊織を泣かせたくないなら貴方も強くなる努力をとりなさい!異能だけが勝負ではありませんわ。知力、体力、精神力に長けた者が勝利をものに出来るのです!そうとすれば今日の放課後、私とダニー、伊織と特訓しますわよ!」
「は、はい!」
キャシーのあまりの迫力に八雲は気圧され、返事をしてしまう。
「キャシー、お手柔らかにね……あれ?あの人だかりなんだろう?」
伊織の目線の先には学園の校門があり、見るとたくさんの学園の生徒が集まっている。
「ん?あぁ、あれは恐らく今日転入してきた生徒が来たからその人だかりだろう。彼女は有名だからね」
「へー、そうなんだ。どんな人なんだろう?」
「全く、八雲はもう少し噂話や情報を集める努力をした方がいいですわよ。彼女の名前はアイリス・コーラル。私と同じ大企業の令嬢であり、小さい頃から異能を使いこなしてきた天才児。彼女が入学した時点で十傑入りは確定したそうですわよ」
「じゅ、十傑って学園最強の十人だよね。でも確か今はもう既に十人いるはずじゃ……」
伊織は信じられないような表情をしているがそれは当然だった。
人工島にある唯一の学園には十傑と呼ばれる集団が存在する。
各分野に特化した力を持ち一般生徒と一線を画す存在で、学園と連合から高い評価を受けている。
ある生徒は怪力であったり、またある生徒は様々な発明品を造り出して人の役に立てたり、他にも一瞬で学園のまるごと凍らせる生徒等の人物が所属しており、一人一人が一癖二癖あるような人物がいる集団だった。
内容がなんであれ実力主義である十傑に敗者が出るとは普通は思わないだろう。
「それなんだが入学試験の際、当時の十席『拷問鬼』ランベルト・スダンドスが彼女に挑み返り討ちにされたらしい。しかもほぼ無傷でね。元々粗暴な部分が目立ち、十傑に相応しくないと決定した一席がランベルトを除名し、彼女を後釜に据えたそうだ。確か二つ名は……『竜妃』だったはずだ」
「確か八雲と同じ召喚系で竜を召喚するそうですわね」
八雲達が話していると、人だかりの中にいたアイリスがこちらに向かい歩いてくる。
朝日を浴びてきらきら光る銀髪にルビーのような赤い瞳、整った顔立ちに凹凸はハッキリとしたスタイルはもはや一種の芸術品にも見えるほどだった。
その姿に八雲やダニーはもちろん同性である伊織やキャシーも目を奪われるものだった。
「話している所すまない。ミラージュ家のキャサリン嬢か?私はアイリス・コーラル。いつもそちらの会社には世話になっている。今日から私もここで生活するのでご鞭撻のほど宜しく願いたい」
アイリスは軽く頭を下げ謝罪し、キャシーに向かい願う。
「これはコーラル家のアイリスさん。こちらこそ日頃そちらの会社にはお世話になっておりますわ。私でよろしければ喜んでお受けしますわ。ただ私の友人も一緒でしよろしければなのですが…………」
「友人?あぁ、そこの三人か。アイリス・コーラルだ。宜しく頼む」
アイリスは八雲達の方を見て、握手をしようを手を差し出す。
「ご丁寧にどうも。僕はダニエル・ノートン。ダニーと呼ばれてる。噂の竜妃様に会えるとは光栄だね。こっちにいるのが氷坂八雲と神崎伊織。僕も含め全員君と同い年さ」
出された手を握り返し、ダニーは後ろにいる八雲と伊織を紹介する。
「あぁ……八雲と伊織か。私もまだまだ若輩者だがよろしく頼む」
アイリスは優しく二人に微笑みかける。
「は、はい!」
「こ、こちらこそ!」
見目麗しい外見、大企業の令嬢、学園最強の十人という大きすぎる情報に二人は圧倒されながらも返事をする。
「おい、貴様ら。アイリス様に軽々しく近付くな!」
「そうよ。特におちこぼれの氷坂八雲には近付く権利すらないわ!」
先程アイリスに話しかけていた二人が八雲達のいる所まで来て言い放つ。
「貴方達……まだそのようなことをしてるんですの?」
キャシーは声を掛けてきた男と女、イレート・シュレウォットとワーシャ・バブタスに不機嫌そうな目線を向ける。
この二人は以前、八雲達がキャシーと友達になった時も同じようなことをいっていた。
理由はキャシーが大企業の令嬢だからであった。
実家が資産家であり、甘やかされた人生を送ったせいか選民意識があって他者を見下す傾向にある二人は格上のキャシーに取り入ろうとする為、八雲達を扱き下ろそうとしていた。
もちろんキャシーはそんなことをする二人を好ましく思わず、自分への接触を禁止し、八雲達に対する陰湿な行為を止めさせたのであった。
その効果もあってしばらく大人しくしていたが、今度はアイリスに取り入る為に八雲達に接触してきたのだ。
「おちこぼれ?」
「えぇ、異能を使いこなせない弱者ですよ。戦闘にも技術の向上にも役に立たない赤ずきんしか呼び出せないお伽噺のキャラクター召喚異能。そんな奴が貴方の側にいる資格なんてありませんわ」
「そうですよ。さぁ、私たちと行きましょう」
畳み掛けるように八雲に批難を浴びせた二人はアイリスの手を触れようとしたがその瞬間、アイリスはその手を振り払った。
「不愉快だな」
アイリスが低く小さな声で呟く。
「「えっ?」」
自分の思った通りの展開にならず予想外だった二人はアイリスの言葉の意味が理解できなく、固まってしまう。
「聞こえなかったのか?不愉快だといっているんだ。さっきから聞いていれば君達は私のなんなんだ?私の友人は私が選ぶ。まったく気分が悪い。今すぐ目の前から消えてくれ」
赤い目が鋭く二人を見据える。
二人はおろか周囲にいた八雲達もアイリスの美貌もあいまって普通の怒りの顔より怖く感じられた。
「な、何故私たちが……」
「くどい。さっさといってくれ」
もはや今のアイリスに取りつくしまなどなく、ワーシャ達に何を言われてもアイリスは聞くつもりなどなかった。
「くっ」
「うぅ」
なにか言いたそうにしていたが、アイリスとキャシーがいた為、二人はなにも言わずその場から走り去ってしまった。
「すまない。私のせいで君達を不快な気持ちにさせてしまったな」
「いえ、そんなことより庇って貰えて嬉しかったです。ありがとうございます」
先程のことを謝罪するアイリスに対し八雲はなにも気に止めずお礼を言う。
それは日頃からジョニーなどから罵詈雑言を受けている為、八雲にはあまり気にならなかったのだった。
「……君は心が広いんだな。少し君の事が気に入った。同じ召喚系の異能の使い手だし、何かあれば私に頼ってくれ。力になろう」
先程の鋭く険しい表情をした時とは、うって変わりアイリスはまるで一輪の美しい華のような笑みを見せた。
それを間近に見た八雲はつい見とれてしまう。
「おっと、もう集合の時間か。すまないがここで失礼する。それでは四人ともこれからよろしく頼む」
右腕にしていた腕時計をみたアイリスは身を翻し颯爽と去っていった。
「良い人そうです良かったですわ。心配の種が一つ減りましたわ」
「そうだね。だけどワーシャ・バブタス達がまたちょっかいをかけて来ていると考えると安心はできないね」
「そうですわね。気を引き閉めないといけませんわ」
「ダニー、キャシー……迷惑かけてごめん。俺がもっと強ければ……」
アイリスが去り、新たな問題事にダニー達が頭を悩ませていると八雲が申し訳なさそうに話しかける。
「だーかーら。その自虐を止めなさいと言っているでしょ!もうこうなったら今から特訓開始ですわ!」
「えっ!?」
「キャシー、鍛えるのは構わないけどもう少しで始業時間だよ。僕達学生の本分である勉学を先に済ましてからにしよう。それからでも遅くはないさ」
「そ、そうですわね。別に授業の事は忘れてたんではないですのよ」
キャシーは顔を赤くし、誤魔化そうとするが周りにはバレバレであった。
「キャシー、そうやって言うと本当に忘れてたように聞こえるから落ち着いて!」
伊織もキャシーのフォローに入る。
そんな中一人置いてきぼりにされていた八雲は目の前の光景につい微笑んでしまう。
何故なら自分がいかに友達に大事に思われているかを知ったからだ。
その事を再認識した八雲は三人に声をかけ、学園の中に向かうのであった。




