決着
「えっ‥‥!?」
ルナちゃんから声が漏れる。
ジャストミートした打球は、惜しくも3塁線に切れてファール。
くそッ!ちょい、早すぎたか。
フォークが来ないことは分かりきっていた。
なにせ、僕は熱プロ11をやり尽くしている。ルナちゃんの事なんて隅から隅まで把握しているのだ。
プライドが高い子だからな。
僕相手に変化球を使いたくないんだろ。
1球目、渾身の力を込めて投げたストレートで空振りが取れなかった。
たった、それだけの事で彼女は意固地になっているのだ。
必ず、ストレートでねじ伏せる。
そう、決意しているに違いない。
僕の、狙いすましたような打球に動揺したのか続く5球目、6球目は明らかに外に外れたボール球だった。
カウント3ボール2ストライク、フルカウント。
「‥‥ふぅ」
ルナちゃんが額の汗を拭いながら、大きく息を吐いた。
追い込んだのは、完全に僕だ。
ルナちゃんは一つもボール球が投げられない。ゆえに、フォークボールという選択肢もない。(まあ、投げる気なんてないだろうけど)
僕は、この打席で完全にストレートのタイミングを把握した。
外野に運ぶ位だったら、よっぽどの厳しいコースでない限り可能だろう。
さて、とっととこの勝負に勝って手取り足取りルナちゃんに指導をしてもらおうか。
罵られながらのマンツーマン指導というのは、、グフフ、楽しみだな。
良からぬ妄想をしながら、マウンド上のルナちゃんに目をやる。
ぬ?なんか、様子がおかしいぞ?
「ああああああああああああっっ!!!!!もう、なんなのよおおおおおおおお!!!!!!」
のわっ!?ぶちギレた!
まあ、プライドの塊みたいな子だからな。
どうやら、想像以上に追いこんでいたようだ。
しかし、うむ。怒ったその表情、グッドです。
ん?
なんだろう、マウンドのルナちゃんからなんか赤いオーラ的なものが出ているように見える。
僕を見据えるその赤い瞳は、獲物を捕捉した肉食獣のようだ。
なんだろう、嫌な予感が、する。
大きく、大きく振りかぶる。
足を高く上げ、体をこれでもかというほどに捻る。
鞭のようにしなるその左腕から、白球が放たれた。
ギュイイイイイイイイーーーーーン
なんだこれ、今までのストレートじゃない!?
スイングを開始する。大丈夫、コースはそんなに厳しくはない。
落ち着いてカーソルを合わせれば、、
あ!?なんだ、これ。上方向に変化してる!?
バシーーーーーンッ!
僕のバットは、豪快に空を切った。
おかしい、おかしいぞ。
この時点で、ルナちゃんはまだこの球を投げれないハズだ。
この球を習得するのは3年生の最後の県予選の直前。
物理法則を無視してホップするストレート。
ルナティックミサイル
ルナちゃんをルナちゃんたらしめる、最高のオリジナルストレートだ。