輝かしいバンド活動のために。
「ひっ、ひひひ、一目惚れッ!?」
思わず口をついた俺の言葉に響子さんは顔を真っ赤にしてアワアワしている。落ち着かせるために机に置いてあったグラスを響子さんに渡す。
響子さんはグラスからひとくち水を含んで、咳払いをする。少し落ち着いたような気がするが、顔は真っ赤のままだ。
「……LAKIさんが俺の曲をカバーしてくれたこと、本当に嬉しかったんです。思い描いていたものが形になったみたいで。あの日から毎日聞いてます」
あのカバー動画の再生数の2000回くらいは俺が回したと思う。それぐらい、俺にとってはかけがえのないものなんだ。
「……どんだけ好きなんだよ、あたしのこと」
「そりゃもう、すっごく好きです。愛してると言ってもいいです」
「は、はぁッ!?」
「あ、もちろん声のことですよ?」
「わ、分かってるよ! 勘違いとかしてねーから!」
「……それで、バンドのことなんですけど」
俺は本題に入る。響子さんは口を閉じ、考え込んでいる。彼女の顔は七変化してすごいことになっていた。こんなこと言ったらぶっ飛ばされそうなので、もちろん口には出さない。
「……少し考えさせてくれ。突然すぎて、どうすりゃいいか分かんねぇ」
「分かりました。いつまでも待ちます。気持ちが決まったら連絡ください」
そう言い残し、俺は立ち上がる。響子さんの分のお代は店長に渡しておこう。
「頑張ったわね、ヒナヒナちゃん!」
お金を受け取った店長は、爽やかな笑顔と力強いサムズアップを俺に向ける。その笑顔、どう言う意味なんですかね。
……そういえば、まひるのことをぼんやりとしか伝えていないけど大丈夫かな。不良とまひる。うん、やばい。
「おや、日向くん。もう話は終わったのかい?」
一抹の不安を覚えながら店を出ようとした俺の前に、月島先輩が現れる。休日モードの先輩の服装も素晴らしい。
「あ、はいなんとか。まだどうなるかは分かりませんけど、僕の想いは伝えたつもりです」
「愛の告白……素晴らしいね」
「やめてくださいよ……」
月島先輩がいうとシャレにならないからやめてほしい。
「まぁ、なんにせよ上手くいったみたいでよかった。彼女のこと、よろしく頼むよ」
「はい。通報されないように頑張ります」
じゃあね、と言い残し月島先輩は入れ違いで店内に入っていく。
思ったより早く用事が終わってしまい、どうしようかと考えながら歩く。特に用事もないし、家に帰るか。まひるのことも心配だし。
◇◇◇
帰宅した俺を出迎えたのは、ぶかぶかのしまにゃんTシャツにくるまったまひるだった。どうやって家に入ってきているかは永遠の疑問である。
今日の出来事を簡単にまひるに伝えると、複雑そうな顔をしていた。バンドメンバーが決まりそうなのにあまり嬉しそうじゃないのは何故なんだ。
「もし響子さんが入ってくれるなら顔合わせしないとな、まひる?」
「……うぅ」
この世の終わりのような顔をしているまひる。
「まひるも頑張るって言ったよな?
「がんばる……がんばるぅ」
響子さんと会うときのためにしっかりとした服を買いにいかないとな……。しわくちゃのしまにゃんには荷が重すぎる。
ちょうどいいから明日、一緒に買いに行くか。そろそろまひるも外出に慣れないとバンド活動どころではないし。
「……よし!明日、出かけるぞ、まひる」
「……」
そんな嫌そうな顔をしても無駄だからな?俺は心を鬼にすると決めたんだ。輝かしいバンド活動のために!




