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3.幼馴染の恋愛事情

 昨日の愛花との事の印象が強すぎて、授業中は頬杖をついて妄想に耽っていた。


「雅久。この問題を解いてみろ」

「はいっ! その問題に答えはありません!」

「やっぱりお前はダメだな。後で職員室来なさい」

「はいっ!」


 ボケたものの馬鹿の俺にはそんな問題は解けるはずがなかった。クラスの中でも苦笑しているのが愛花だけだった。入学してからクラスのみんなは俺に冷たいような気がする。愛花と居る時なんて男子は特に、露骨にゴミを見るような視線を送ってくるのだ。


 努力はしてないとはいえ、どうしてこうも冷たいのだろうか。


 放課後いつものように愛花に「帰ろう」と誘われて教室に出たのだが、何やら廊下に野次馬ができていたのだ。彼らはみんな窓越しに校門の方を向いて、「誰」「女神だ」などと囃立てていた。


 純粋な好奇心で彼らの視線に便乗して校門に目をやると、そこにはリサがいた。てっきり昨日リサと出会ったのは夢なんじゃないかと思っていたが、こうして目の前に誰にも似ない彼女が現れて、夢じゃないと実感した。


 リサはこちらを向いて手を振り出した。明らかに顔の認識が不可能な距離だと言うのに、リサはこちら側を向いて滑らかにゆっくりと手を振っている。


「がっちゃん?」

「わりぃ愛花。今日一人で帰ってくんねーか?」

「別にいいけど? どうし──」

「それじゃ」

「え!? ちょっと!」


 靴を履いて玄関を出るなりリサの元へ駆けた。


「行くぞ」

「はい」


 リサのか細い腕を引っ張ってを道路を走り出す。この状況は確実に大勢に見られていた。明日には噂されるんだろうなと確信した。


 人目も無くなったところで俺は立ち止まった。息切れで、膝に手をつきながら必死に空気を求めている俺の横でリサは平然と立ち尽くしていた。俺よりも一回り小柄な彼女がどうしてこんなに体力があるのだろうか。


「お前……どうしてあんな所に……」

「寂しかったので」

「そんな……でももう少し人目ってのを……気にしてな」

「すみません。透明化には限度がありまして」

「……は?」


 また非現実的な事を言い出す彼女を訝しんだ。昨日だってそうだ、服を治すとか言って手を使わずに本当に治しやがった。彼女は人ではないのだろうか?


「透明化って聞こえたんだが」

「はい、こちらです」


 リサはふっとその場から姿を消し、俺はそれにデジャブのようなものを感じた。昨日、真希が部屋に入ってきてその時に……。


「よしもういいぞ家に帰ろう」

「はい」


 正直頭の整理が追いつかず、家で思考を巡らせようと思ったのだ。


「問う。お前はどこの国から来た?」

「分かりません」

「両親は?」

「私……何も思い出せない。自分がどんな家に住んでいてどんな生い立ちを遂げていたのか、両親がどんな人なのか、そもそも何人家族なのか」

「……そっか」

「名前だけしか……覚えていません」


 記憶喪失は確定のようだ。いつもより少し気持ちが落ちたような口調で、やはり自分の架空の部分に悲しさを抱いているようだ。


「じゃあさ、思い出すのを手伝うよ。それまでここにいていいから」

「……本当ですか?」

「ああ」

「……ありがとう」


 リサは無用心に抱きついてきた。目を潤ませていて、俺の前では初めて感情を露わにしたのだ。そんな彼女の頭を撫でるも、俺は先ほどから心の片隅に眠らせていた野心を浮き出させた。


「なあ、透明化って俺でもできるのか?」

「はい、私にかかれば」

「ちょっとやってみてくれないか?」

「はい」


 リサは俺の掌を握ると目を閉じて「はい」と一言放ち手を離した。何か起きたか? と疑っている自分の腕が消えていることに気がついた。


「本当に、俺透明化したのか?」

「はい、どこにいるのか皆目検討がつきません」

「これ効果時間はいつまでだ?」

「体質にもよりますが、あなたなら数十分といったところでしょうか?」

「ちょっと寄る所あるわ」

「私も一緒に──」

「すまねぇ。こっからは無我の境地だ。すぐ戻るから待っててくれないか?」

「……はい」


 一人家に置いたリサに半ば申し訳なさを感じながら俺は愛花の家に向かった。なんなく侵入に成功して俺は愛花の寝室向かって歩を進めた。


 バレないようにゆっくりと寝室に侵入すると、電気のない暗い部屋で愛花はベットで仰向けに寝ながら仰いでいた。その枕元には写真立てが置いてあった。前よく愛花の部屋に上がるたび、机の上で隠すようにうつ伏せに寝かされていたその写真立てが今、愛花の枕元にあるのだ。


 ちょとした出来心でそれを覗き込むと、そこには高校の入学式で肩を並べ合っている男女二人の写真があった。部屋が暗く、詳細は分からなかったが、きっと女の方は愛花だろう。そう考えながら、俺は今の愛花の顔に目をやった。そもそもなぜこんな写真立てを横に置いているのだろう。


 よく見ると愛花は涙を流していた。頬を伝う一筋の涙が月明かりに照らされて、俺は訳もわからず胸を締め付けられた。


「彼女いるなら言ってよ……」


 涙声でそう放つ愛花はどうやら失恋したらしい。きっと写真に映っている相手なのだろう。正直失恋相手の男が許せなかった。顔も名前も分からない相手だが女子を泣かせるのは本当に許せない。


 もっとも愛花の恋話などの浮ついた話は聞いたことがないが、なんだか心にモヤモヤするものがあった。


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