第65話 共同研究者
決意だけでは、人は救えない。
現実は、あまりにも厳しかった。
研究室はない。
研究費もない。
実験器具もない。
そして何より――。
ルシエ自身は、属性魔法が使えない。
理論は組み立てられる。
仮説も立てられる。
けれど、その理論を証明する実験ができなかった。
研究は、一人では成り立たない。
数日後。
王立魔法学校。
昼休み。
ルシエは自分の席で研究ノートを開いたまま、ぼんやりとページを見つめていた。
ペンを持つ手は止まっている。
そんな彼女を見て、ノエルが近づいてきた。
「どうした?」
「君らしくない」
ルシエは笑おうとした。
だが、うまく笑えなかった。
「実は……」
ぽつり、ぽつりと話し始める。
母の病状。
卒業まで待てないこと。
治療法を見つけたいこと。
それでも、研究を始めることさえできない現実。
話しているうちに、視界が滲んだ。
「ご、ごめんなさい……」
慌てて涙を拭う。
こんなところで泣くつもりではなかった。
ノエルは最後まで何も言わず、静かに話を聞いていた。
そして、小さく頷く。
「分かった」
ルシエが顔を上げる。
「僕には、君みたいに理論を組み立てることはできない」
「でも」
「魔法で、その理論を証明することはできる」
ルシエは目を見開いた。
「僕には全属性適性がある」
「君が考えた理論は、僕が実験する」
「だから――」
ノエルは真っ直ぐルシエを見つめた。
「僕を共同研究者にしてくれ」
ルシエは言葉を失う。
理論を組み立てる自分。
その理論を実証できるノエル。
足りないものを、互いに補い合える。
胸の奥が熱くなる。
気づけば、涙が頬を伝っていた。
「……ありがとう」
その一言を口にするだけで精一杯だった。
ノエルは少し照れくさそうに笑う。
「君一人じゃない」
「これからは、一緒に考えよう」
ルシエは大きく頷いた。
「うん!」
こうして。
一人では届かなかった答えを求めて。
二人の共同研究が、静かに始まった。




