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最弱四天王転生~1年後に死亡するクズ悪役に生まれ変わったので、原作知識と努力で破滅エンドを塗り変える~  作者: 御鷹穂積


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17◇グレン領




「うおお、一角イノシシ!?」


「バカ! 領主様だ!」



 一角魔猪の頭部を持っていたことで門番に驚かれる。


「通って構わんな?」


「も、もちろんです!」


「おつかれさまでございました!」


「お前達もご苦労」


 門をくぐる。

 領都は活気に満ちていた。


 人々の顔には笑みが浮かび、誰も彼もが幸せそうだ。


「グレンしゃん!」


 聞き覚えのある声に視線を向けると、そこにはエルフのミュークルがいた。

 俺を見つけると、とてとてと近づいてくる。

 彼女は片腕に赤い野菜を山程抱えながら、もう片方の手でそれを頬張っていた。


「ミュークルか。そのトマ……トメェイトはどうした」


 明らかにトマトなのだが、原作ではトメェイトということになっている。

 違う世界なので違う野菜ですよと示す為なのだろう。他の食材に関しても、少々もじった名前になっており、イイジママサタカだった者としてはなんとも言いにくい。


「野菜売りの人がくれました! なんで人間の国のお野菜はこんなに美味しいのでしょう!」


 ミュークルはエルフの使節団の長として魔王軍に派遣されているが、仕事の時以外はオレのところにいる。

 今回もオレの領都視察についてきたのだ。


「魔法で改良を施している内に、種自体が変化したのだと聞いているが……。詳しく知りたければ、今度シンラに話を聞いてみるといい」


「あの人は苦手なので、やめておきますー」


「そ、そうか。悪い奴ではないのだがな」


 シンラはうちの女性陣に苦手意識を持たれている。

 神出鬼没なのと、オレへの過度なスキンシップが原因だろう。


「オレは屋敷に戻るが、どうする?」


「わたしもいきますー」


 二人並んで歩いていると、オレに気付いた民が頭を下げたり感謝の言葉を投げかけたりする。


「領主様、こちらをどうぞ。採れたてのアポォです」「領主様! こりゃすごい大物ですね!」「りょうしゅさまー、魔法みせてー」「あのー、領主様のお部屋にお邪魔してもいいですか……?」


 領主と民としては間違った距離感なのかもしれないが、オレとしてはこの方が接しやすい。


「グレンさん、それが民を困らせていた一角魔猪ですか? 中々の大物ですね」


「そうだ」


「お肉はどうされたんですか?」


「畑の連中にくれてやった」


「さすがグレンさん! 優しいですね!」


「……持って帰るのが面倒だっただけだ」


「またまたー。はい、優しいグレンさんには、美味しいトメェイトどうぞ」


 ミュークルがトメェイトを「あーん」とオレの口に差し出す。


 抗うほどのことでもないので、そのまま齧った。

 みずみずしさの中にほどよい酸味があり、確かにこれは美味い。


「美味いな」


「そうですよねー。故郷のみんなにも食べさせてあげたいな」


 彼女がどこか遠い目になった。

 進んで使節団の長となってくれた彼女だが、故郷が恋しいのかもしれない。


「種を用意する。それを向こうで栽培すればいいだろう」


「わーい! さっすがグレンさん!」


 ミュークルはオレに抱きつこうとして、自分が沢山のトメェイトを抱えていることに気付いたのか、ぐっと堪えた。


 しばらく歩いていると、領主館が見えてくる。


 グレンは領地に興味がなかったので、これはかつてこの地がグレンのものでなかった時の代官の屋敷を流用したもの。

 無駄に豪華な屋敷には慣れないので、オレとしてはこれで構わないのだが、あまりこじんまりしているのもよくないらしい。


 配下たちに言われて、今は新しい屋敷を建造中だ。


「おかえりなさいませ、カシラ!」


「おぉ! すげぇデカイ獲物ですね! さすがカシラ!」


 オレをカシラと呼ぶのは、主に獣人の配下だ。

 ニャルルの一族を筆頭として、オレは獣人を数多く仲間に加えている。


 適性のある者はニャルルのように諜報員兼暗殺者の訓練を受けさせるつもりだ。


「これを頼む」


「お任せくだせぇ!」


 獣人の男が三人がかりで一角魔猪の頭部を受け取る。

 あとは彼らに任せ、屋敷の中に。


 すると、待ち構えていたようにメイド姿のニャルルが立っていた。


「おかえりにゃさいませ、グレン様」


「あぁ」


「湯の用意ができていますにゃ」


 森に出かけて、倒した野生の獣を抱えて帰ってきたのだ。

 確かに、汚れを落とした方がいいかもしれない。


「そうか、ありがとう」


 俺は浴場へ向かう。

 魔法があるので、魔人にとって湯を沸かすのは大した手間ではない。


 一般家庭でも風呂が備わっている家は珍しくないが、家に都合よく水属性と火属性の使い手がいるとは限らない。


 というわけで、魔人社会では『湯売り』といって、湯を売る職業がある。

 グレンも孤児の時は、自分の火属性魔法を湯を作ることに使い、小銭を稼いでいた。


 脱衣所で服を脱ぎ、ほどほどの広さの浴場に入る。

 一般家庭とは比べるべくもないが、貴族のものと比べるとしょぼい。


 イイジママサタカにとっては、充分すぎる広さだが。

 さて身体を洗おうというところで、脱衣所に続く扉が開かれた。


 そして三人の美女が中に入ってくる。


 ニャルル、コキューリア、ミュークルだった。


 全員美しく豊満な胸部を誇っているが、それぞれスタイルには違いが在る。

 ニャルルは細身だが引き締まった身体をしており、コキューリアはスラッとしており、ミュークルは健康的な肉付きをしている。


「お背中お流ししますよ」


 コキューリアが頬を染めながら言う。


「……そうか。では、頼む」


 正直、期待していなかったと言えば嘘になる。

 こういうことはこれまでもあったからだ。


 美女三人に丹念に身体を洗ってもらったあとは、四人で湯船に浸かる。


 転生しても、風呂に入った時の心地よさは変わらない。


「民の為に領主自ら動かれるとは……見習わなければなりませんね」


「気まぐれだ」


 実際、領主の仕事ではない気がする。

 魔族の国は強い奴が偉くなりがちなので、領主が魔物退治しても不自然ではないのだが。


「グレン様がお優しい方だということを、ニャルルは知ってましたにゃ!」


 最近、ニャルルの語尾が猫語になる頻度が増えている気がする。オレに効果てきめんなのを気づいているのかもしれない。


「いい街ですよね。ずっとここで平和に暮らしていたいですー」


 ミュークルの言葉に、内心で同意する。

 このまま平和に暮らせれば、それが最高の結末なのだが……。


「人間共が過ぎた夢を諦めないことには、平和は訪れん」 


「そうですね。魔王様の秘宝を渡すわけにはいきません」


 リットは、願いを叶える道具などなければいいと言ったが、あれは正確ではない。

 最初からなければ、人はそれを空想するだけで済む。


 だがこの世界には、実際に願いを叶える道具が存在するのだ。

 仮に『願いを叶える小箱』に『自壊』を望んでも、争いはなくならない。


 簡単だ。

 そんなこと、誰が信じる?


 魔族が「壊したのでもうないですよ」と言ったところで、人類の国々は止まらないだろう。

 仮に各国の王を集めて目の前で壊しても、トリックを疑われるだけだ。


 何故なら、誰しもが『自分がそれを持っていたら、捨てるわけがない』と考えるから。

 リットは、人の善性を信じすぎている。


 原作では、どうやってハッピーエンドにたどり着くつもりだったのだろう。


 どうせなら完結した作品の世界に転移させてくれれば……なんてのは贅沢な悩みか。


 ――待てよ? 


 その時、オレの中にあるアイディアが閃く。


「グレン殿……?」


 しかしその思考に深く潜ることはできなかった。

 怪訝な顔でこちらを見るコキューリアに「なんでもない」と返す。


「そうですか。では……その、民を救いし領主様を、労おうと思うのですが」


 頬を染めながら、湯の中でオレの太ももを撫でるコキューリア。


 見れば、他の二人も熱っぽい視線でオレを見つめている。

 オレたちが風呂から上がるには、それからしばらく時間がかかった。





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