黒いスイーツの正体
甲高いバミュー公爵夫人の声が、闇に響く。
そして、甲高い声は消え、ドサッと重いものが土の上に落ちる音が聞こえた。
すぐ近くには城の明かりもあり、舞踏会のざわめきも気配でかんじる距離にあるにもかかわらず、護衛の騎士たちも不自然なほどにいないこの場所は静かな闇に包まれていた。
「まったく、思うようにいかない。」
カエ伯爵はつまらなさそうに声をあげた。
「いるのでしょう。」
月影の中で、カエ伯爵はロザリアの隠れる茂みのほうに顔を向ける。
ロザリアは立つか、このまま隠れているほうがいいか考える。
綺麗に着飾られた髪、そしてすばやく動くには無駄としか言いようのない姿の自分を見てゆっくりと立ち上がった。
「よくお気づきで。」
「そんな格好でうろうろされていては、馬鹿でも気が付きますよ。」
着飾ったロザリアの姿にカエ伯爵は、バミュー公爵夫人を捕まえた美しい顔で微笑みかける。
そして、足元で倒れているバミュー公爵夫人を冷たく見る。
「馬鹿以下は気が付きませんけれどね。」
足元で倒れるバミュー公爵夫人は微動だにしない。
「殺したの?」
ロザリアが尋ねる。
「さすがにね。王宮で殺してしまえば足が付きますから…。」
そう言いながら、そこに何ないようにバミュー夫人の背中を踏みロザリアのほうへ一歩進む。
「あの女が馬鹿なことをしたせいで、もう少し美味しい蜜の味を楽しめたはずが…欲とはおそろしいものですね。」
そうカエ伯爵は冷たく笑う。
壮年の男性であるはずなのに、まるで陶磁器のような冷たい美しさを出していた。
「衛兵を近づかせないようにしていたのは正解ですね。」
舞踏会のざわめきを、鼻で笑う。
一歩、わざとゆっくりと一歩ロザリアにカエ伯爵は近づく。
「あなたがマスキンから密売していた犯人?」
問いかけるようでいて、確信に満ちた声でロザリアが尋ねた。
「問いにもなっていませんね。」
もう一歩、カエ伯爵が近づく。
「自分で言うのも馬鹿らしいけれど、何故?」
「欲ですよ。」
カエ伯爵は興味がなさそうに言った。
「欲?」
「私はもともと次男でしてね、おまけに妾腹だ。長男の子供が爵位を継ぐまでの暫定的な雇われ伯爵なんですよ…お姫様にはわからない世界かもしれませんね。」
自虐的にカエ伯爵は笑う。
「身一つでどこまでいけるか、勝負したかったのですよ。」
「真面目に勝負なさればよかったのに。」
ロザリアが思わず言い返す。
「そうですね、けれどね…真面目だけでは勝負の舞台にもあがれない人間もいるんですよ。」
そして腰につけた装飾の施された剣先をロザリアに向けた。
「貴方を誘拐して、国外に行けば…次は国を相手に-」
壮年の男性特有の人間らしさを消し去った、人形のような顔でカエ伯爵は言葉を切った。
「汚い勝負ができそうだ。」
夜の闇が、急激に温度を下げるように…ロザリアの周りは冷気で包まれたようだった。
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