舞踏会のスイーツの前に現れたのは
結局マリアは断れず、リュミエールからロザリアに贈られた青いドレスを身に纏っていた。
王が舞踏会の始まりを告げるまでのつかの間、集まった貴族達は気心のしれたもの、人脈を広げようとするもの、それぞれの時間を潰していた。
マリアは時折現れる貴族の子弟達を軽くあしらいながら、舞踏会の様子を伺う。
貴族たちの欲望の渦めく会場で、真新しい噂は耳にせず、姫様に聞かせることは何もないなとがっかりし始めた頃、少し会場の雰囲気が変わった。
そして王が現れる直前になって宰相にエスコートされ薄い桃色のドレスを着たロザリアが現れた。
宰相と話すこともなく、静かに立つロザリアは集まった貴族たちの娘の中でも群を抜いた美しさだった。
ロザリアの周囲では初めて見る美しい姫に様々な噂が飛び交う。
ロザリアは、その美しさと輝きでで人を寄せ付けない壁をつくる。
噂好きな貴婦人たちでさえ息を呑み、気軽には話せない雰囲気だった。
そして夜会の初まりを告げる鐘がなる。
ざわめいていた人々が静かになりリュミエールがゆっくりと上段に現れ手短に挨拶を済ませた。
マリアは自分の身につけている青いドレスを見る。
紺藍色の衣装に身をまとったリュミエールとこの青いドレスが並べば計算された美しさを醸し出す。
きっと…流行に目がない上流階級の貴婦人たちに、二人の関係の深さを知らしめるためには上出来の策だっただろうと改めて納得する。
そして舞踏会の会場の場をゆっくりと見渡した。
舞踏会に参加している周りの貴族たち…特に若い娘達はリュミエールの髪の、瞳の色を意識しているのか全体的に青の種類はあれど青いドレスをまとっているものが多かった。
その中で、あえて反対色のドレスをまとうロザリアは美しい青い海に浮かぶ花のように、美しく際立っていた。
もちろん、ロザリアが青いドレスをまとっていたとしても、その美しさは寸分も損なわれるものではなかったが…
リュミエールは上段からホールを見渡す。
そしてホールにいるロザリアをみてリュミエールは軽く瞳を大きくした。
貴族たちのあつまるホール、大きな広間、たくさんの人の中リュミエールは広間に降りてくる。
迷うことなく黄金の輝きをめざして、ロザリアの元へ降りてきた。
本来ならば王の挨拶が終われば唯一の側室であるロザリアが出てきて二人がダンスを踊り砕けた雰囲気になるはずだった。
だがリュミエールはロザリアを呼ぶのではなく、自らロザリアの元に足を運ぶ。
「踊っていただけますか?…我が姫。」
慇懃に腰を折る。
王が腰を………
小さなざわめき、静寂。
腰を伸ばし、態とらしく手をリュミエールは差し出した。
紺藍色のリュミエールと薄い桃色のドレスをまとったロザリアではおかしくはなくとも、隣に並ぶと統一感のない装いになるはずがリュミエールの胸元から除くタイやシャツにさりげなくロザリアと同系色の生地が使われており違和感を与えない。
そして、ロザリアも首元や耳を彩る装飾品に青い宝石がさりげなく使われており、逆に二人の趣味の良さを印象付ける出来になっていた。
マリアは二人の姿を見て感嘆のため息をついた。
「光栄です。」
ロザリアは優雅に微笑んだ。
女神の微笑み。
そして、白く細い腕を伸ばしリュミエールの手をとる。
背の高いリュミエールの瞳を見つめたまま。
二人の関係を知らないものがみれば、まさに愛し合う恋人が見つめあっているようみ見えただろうその姿…
ああ、怒っている。
マリアは一瞬でわかった。
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