意地悪な葡萄ゼリー 宰相の娘
年の若い女官が忙しそうにお茶を運んでいるところだった。
「ったく、社交界デビュー前には王宮で一年行儀見習いしろってお父様もなにを考えているのかしら。」
どいつもこいつも、着飾るばっかりで働ける人間が見えてこない。
どうせ働くなら、もっと実務的な仕事が良かったと思いつつお茶を運ぶ。
貴族の令嬢たちのそばを通り抜けようとした瞬間、不自然な傾きを体が感じる。
足かけやがった。
態勢を崩しながら若い女官は、貴族の令嬢のあざ笑う視線をはっきりと見る。
くそっ、やられた。
舌打ちしそうになりながら、熱いお茶がスカートにかかる。
動きにくい分厚いスカートのおかげで、この時ばかりはやけどをしなくてすんだと若い女官が思う。
「きゃー。」
足をかけた方の貴族の令嬢が叫び声をあげる。
「濡れたじゃない。」
「使えないコ。」
足をかけてきたのに酷いいいようだった。
若い女官は取り合えず頭を下げる。
「そんなんで許されると?」
そろそろ怒るべきか若い女官が考えていると、女神が現れた。
金の髪が太陽の光を受け輝いている。
「どうなさったの?」
音楽の旋律のような優しい声。
「ロザリア様。この子がお茶をこぼしてしまってぇ~。」
貴族の令嬢がいう言葉に、これが噂の寵姫かと若い女官が納得した。
「こんなこの子がよく王宮に勤めていられるわ。」
貴族の令嬢がまだ何か言っている。
「あら、そう。お怪我は?」
ロザリアが若い女官を見て言ったが、貴族の娘が態とらしくロザリアの手をとる。
「ありがとうございます。お優しいロザリア様。」
「ロイ、この方を女官長の元へ。」
女騎士の名前を呼ぶ。
「ロザリア様のお側を離れるわけには参りません。」
女騎士が短く答えた。
「大丈夫よ。この方たちと、あちらの東屋で待っていますから。マリアは一緒にお茶の準備をしてきて。」
「しかし…。」
「ここには近衛兵もいるし…ね。それに、エル侯爵様、カエ伯爵様、ルエ子爵様のご令嬢もご一緒ですもの。安心していいわ…勝手に決めてしまってごめんなさい。いいかしら?」
三人の貴族の娘にロザリアは声をかけた。
紹介もしていないのに、自分たちの身分を正確に言われた貴族の娘達はただうなづくだけだった。
若い女官がマリアと女騎士につれられ女官長の元へと連れてこられる。
「女官長様、用意していただけましたでしょうか。」
無表情で通っている女官長が笑いながら、緑の物体を手渡す。
「報告期待しています。」
きみの悪い緑の球形をしたものも入っている。
「はい。」
ロザリアのお付き侍女が底抜けに明るい返事を返した。
「では、私はこれで。ロイ参りましょう。」
ロザリアのお付の侍女が女騎士に声をかけた。
そして思い出したように私を見る。
「お父様…宰相様によろしくお願いします。」
思わず目を向いた。
私の正体を知っている。
社交界に出るまでは、顔を見せさせないということで徹底しているのに。
急に、この侍女に…あの姫に興味が湧く。
王宮での行儀見習い楽しくなりそうな予感がした。




