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「で、オリュンポスと坂田康二について教えてくれ」
マスターは保冷剤を鼻に当てながら、彩華に聞く。
「えぇ。これを見て」
彩華は、開いたノートパソコンをマスターに見せる。
そこには、とある企業のホームページが映し出されていた。
「荒木グループ?たしかスーパーマーケット「アラキ」の……」
「そう。昨日、マスターが買い物しに行った店が、まさにこれ」
マスターは、左手で保冷剤を押さえたまま右手を左わきに挟む。
真剣な顔をしているが、なんとも間抜けな姿。
「坂田康二は店長だっていうことが分かった。このホームページに載ってたからね」
彩華はホームページに記載されている各地域のスーパーマーケットアラキの中から岩手県の項目をクリックする。
そこには「岩手県スーパーマーケットアラキ北上店、店長、坂田康二」と書かれていた。
「なるほど。だが、オリュンポスと何の繋がりがあるんだ?」
「表には出ていないが、オリュンポスという犯罪組織は荒木グループの裏の顔だってことが分かった」
彩華は、荒木グループの実態についてまとめた資料をマスターに渡す。
マスターは、右手で受け取り内容を確認する。
——報告書——
【荒木グループ概要】
表面上は「安い・安心」を謳うスーパーマーケットアラキ。
しかし実態は、犯罪組織「オリュンポス」の資金洗浄および人身売買・闇仕事の窓口。
【裏の事業内容】
レジ打ちや品出しのパート・アルバイト募集の裏で、生活に困窮した人間や借金を抱えた顧客の情報を収集。
SNSも駆使し、暗号めいた短文を発信し募集を行っている。
秘密裏に「オリュンポス」の違法な運び屋や、いわゆる「消えても誰も探さない労働力」として売り飛ばしている。
「なるほど……。さすが敏腕の情報屋である彩華だな」
「へへっ。こんなの朝飯前よ」
彩華はマスターに向けてグッドサインをする。
「だが、あくまでも標的は坂田康二だ」
「え?壊滅させないの?」
「アホか。リスクが高い。これはボランティアじゃないんだぞ?」
「……でも」
「彩華の気持ちは分かるよ。だがな。俺はともかく君の命が危うくなるかも知れないんだ」
「……わかったよ」
彩華は残念そうな顔をするが、これは遊びではない。
俺たちの裏を知られてしまえば終わりなんだ。
マスターは右手で彩華の頭を撫でる。
「留守の間、店を頼むよ」
「うん、わかった。無事に帰って来てよ」
「わかってるよ。じゃあ行ってくる」
マスターは左手で鼻に当ててた保冷剤をカウンターに置き、右手でアタッシュケースを持つ。
玄関から出る時、マスターは立ち止まった。
「ん?どうしたの?何か忘れ物?」
マスターは、真剣な顔で振り向く。
「……最後に一つだけ教えてくれ」
ただならぬ雰囲気を醸し出すマスターの顔を見た彩華は、思わず息を呑む。
「……な、なに?」
「……お前が勘違いしてた大人の玩具ってなんだ?」
「うっさい!バカ!早く行け!」
彩華は救急箱を両手で持ち、大きく振り上げた。
ヤバい……治療する救急箱で致命傷になったら元も子もない。
マスターは、早足で外に出て店を後にした。




