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モルス1911  作者: 古鳥居 日影
第一章
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「ノクターン」へようこそ

 ここは、日本のとある場所にひっそりと佇む酒場。

 知る人ぞ知るバーの名前は「ノクターン」である。

 今日も日暮れとともに、来店する客は癒しを求めてやって来る。

「マスター、お客さんだよ」

 店内に響き渡る健気な声は、このバーの店員である看板娘の河岸彩華である。

「ん?あぁ、今行くよ」

 カウンターの奥から、寝ぼけ眼でやって来たのは店主であるマスター。

「また、寝てたでしょ!」

「いやぁ、申し訳ない。未だに夜が苦手でね」

 マスターは、欠伸をしながら返答する。

「あぁ、お客さん。お見苦しいとこ見せて悪かったね。何を飲みますか?」

 客は苦笑しながらマスターに言う。

「大変だね。その子、娘さんかい?」

「あ、わかります?実はそうなんですよ。可愛いでしょ?」

「嘘ですよ、お客さん。私は店員です!」

 彩華は、顔を真っ赤に腕を組んでいた。

「仲良いですなぁ。じゃあモヒートを……」

 マスターは着ているネイビーブルーのダブルベストを位置調整し、灰色のワイシャツの袖を捲る。

「モヒートですね。かしこまりました。おーい、彩華」

「え、私!?マスターが作るんじゃないの?」

「ただ身だしなみを整えただけだよ」

「え、何それ……」

 カウンター席に座ってる客が、大笑いする。

「面白いね。まるで夫婦漫才だ」

「夫婦じゃないよ!」

「じゃあ、彩華ちゃんに作って貰おうかな。女性の方が美味そうだからね」

 彩華は、今以上に顔を真っ赤にしている。

「ほら、彩華。お客さんのご指名だよ」

「……誰のせいよ」

 彩華は、文句言いながらモヒートを作る。


 カラン……。


 新たなお客さんが来たようだ。

「いらっしゃいませ……」

 マスターが仕事モードに入り、紳士的な口調で挨拶する。

 見ると、黒いチェスターコートを着ている中年男性であり、奥のカウンター席へと歩いて行く。

 中年男性が席に着くとマスターが男性に近づき注文を伺う。

「いらっしゃいませ。何をお出ししましょうか?」

「……メメント・モリ」

 男性は小さい声でマスターに言う。

「申し訳ございません。当店では、そのような品物はございません」

「……では、氷(・)の(・)花(・)を(・)一(・)つ(・)」

「……かしこまりました。しばしお待ちを」

 マスターは軽くお辞儀をして、モヒートを作っている彩華へ近づく。

「おーい、彩華。これから商談するから、ここ任せるよ」

「ん……?あぁ、わかった。今のお客さんと?」

「そう。別の部屋に行くから、よろしく~」

「はーい」

「ちゃんとモヒート作れよ?」

「うっさい!」

 モヒートを待ってる客が、また笑い始めた。

「ガハハハ!いやぁ、本当に仲がいいね」

「いえいえ、そんな事ありませんよ。あの人は本当にズボラで、呆れてしまいます」

 客と彩華の笑い声が店内に響く。

 マスターは、カウンターから出て中年男性の元へと歩み寄る。

「お待たせしました。では、ご案内します。こちらへ、どうぞ……」

 マスターは、黒いチェスターコートを着た中年男性を、奥に見える「非常口」と点灯している扉へ案内する。

 扉を開けると、そこは温かみのあるバーとは違い、冷たいコンクリート剥き出しの壁でできた廊下であった。

 廊下の奥には木製の扉がある。

 マスターが扉を開けて、中年男性を中に入れる。

「おぉ……すごいなぁ」

 中年男性が部屋に入ると驚いた。

 部屋の中は、木目調の壁にフローリングの床。

 そして天井は白く、淡い光を放つ照明。

 奥にはカウンターがあり、その後ろに酒棚がある。

「どうぞ、こちらにおかけ下さい」

 マスターはカウンターに入り、中年男性はカウンター席に座る。

「ここは特別な場所です。誰の耳にも入りませんので、ご安心下さい」

「へぇ……なかなか面白い部屋だね」

 マスターは、カウンターの下からグラスを取り出し、小型冷凍庫に入っている氷をコップに入れる。

 カクテルを作りながら、マスターは聞く。

「では……ご用件を伺いします」

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