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幸せ

やっぱり小説書くの難しいですね。


 子供の頃は、自らの望みや欲求をはっきりと、そしてぱっとすぐに口に出すことができた。毎日が新鮮で輝いていて、希望に満ち溢れていた。


……それが今ではくだらないもの、無価値な物に思えてしまう自分がいる。少し、ほんの少しだけ後悔している。







―――私は雉谷直翔(きじやなおと)。独身貴族を楽しんでいる最近30代になった会社員だ。


 働いて休日を不意にして、また働く。こんな代わり映えのない単調な日々を送っている。趣味もない、働きがいもない、現実から逃げる度胸も逃げる世界もない、退屈な毎日だ。


 生きがいが全くない。


 確かに安定はしているだろう。しっかりと貯金をしてとても堅実に生活している。人並みには暮らしている。だけど、幸せかと聞かれたら……




 そんな私はある日病にかかった。とても有名で多くの人がかかるという癌に。


生きがいもないくせに死にたくないからたまに人間ドックに行く。その結果癌だと診断された。


 がん検診をオプションとして入れていたのが功を奏したのか、そこまで進行していない状態で発見されたらしく、1、2週間程入院して薬物による治療を受けることになった。


 入院は私としては歓迎できない。会社に迷惑をかけるし、何より私の孤独さを意識させられるからだ。恋人も両親も兄弟も私にはもういない。受け入れていたはずなのに、少しだけ心が沈んだ気がした。




 持論だが、入院は夜が一番ストレスになる。昼間に寝た分夜に寝づらくなり、暗闇をぼんやり眺めるクソみたいな時間が発生する。点滴の針に刺されたところがかゆい。何もすることがない。できることも限られてくる。

働いていた頃は仕事によって紛らわされていた虚しさが私を蝕んだ。


「退屈だ」


 スマホをいじって一日を潰す。意味もないのにただただみる。それ以外は食事か睡眠程度しか行わず、生きるだけになってしまっている。腐っていく自分を自覚しながらも何もやる気が起きない。


「なんで生きてるんだっけな?」


こうもやることがないとついつい哲学的な方向に傾いていき、さらに沈んだ気分になってしまう。

入院生活は思いのほか私を苦しめた。







―――数日経って少しだけ入院生活に慣れてきた頃(退屈なのは変わらないが)、何故かつよい眠気に襲われた。心臓の鼓動も心なしか早まっている。


健康な生活を送っているので十分に睡眠はとっているし、癌以外の病に掛かっているとは言われていない。それに加え、私の身体に言いようのない異和感を感じる。


ドクンドクンと妙に大きく早く感じる鼓動と異常に出る汗。鈍い手足の感覚。きっと大丈夫だと自分を落ち着かせようとするも、やはり嫌なことを考えてしまう。


 もしかして私は死ぬのか?まだまだ人生はこれから。50年ほど生きられたはずだ。50年もあればきっと何かで私は充実した毎日を生きることができるようになって、今の私を笑えるくらい幸せになっているはずだ。


まだ、死なないよな?こんなんで死なないよな?

やはり、死ぬのは怖い。眠さと不安が私を駆り立てる。


でも、この先の私の未来を見れなくなるのは悲しいが、受け入れてしまう自分も少しだけいた。


あぁ、眠たくて、冷たくて、虚しいな


抗いがたいほど強い眠気に私は意識を手放した。








―――次に目を覚ましたとき、私はベッドの上にいた。でも、病院のベッドにしては硬いような……


少し違和感を感じ、辺りを見渡してみる。


 中世を思わせる壁や私のほうに向いている木製の椅子。お世辞にも綺麗とは言えないベッド、そして窓に映る小学生ほどの大きさの私の体。

窓から差し込む朝日が眩しい。窓から外を見ると、下に馬車などが通っている。ここは二階のようだ。


「あ、あれ?」


体が小学生ほどになっている。幻覚かと疑うが、おクスリをキメた覚えはないし、部屋に充満している木の落ち着く匂いも外から聞こえる馬の蹄の音も私に目の前の光景が現実であると認識させる。


私の最後の記憶は、つよい眠気に襲われた所だ。麻酔など打たれていないのに感じたつよい眠気と寝る前に感じた違和感。そしてやけに速い鼓動。それらを踏まえて考えると…


「あぁ、私は死んだのか。」


すぐに理解した。

若返ったわけがない。そんな技術は開発されていないし、今の私はくすんだ白い髪に茶色の目。前の私は黒髪黒目だった。なら、私は、


「転生したのか?」


 ラノベはあまり読まないが、友人がオススメしていたので少しだけ覚えている。若い人たちに人気なんだとか。また、その中に転生物の物語があるとか。魔物とか魔法とか夢はあるし楽しそうだけど、そこまで余裕がなかった私はあまり読んでいなかった。


だが、なぜ私は転生したのか?ここはどこだ?元の私はどうなっている?疑問は尽きないが、棚上げして現状把握を行うことにした。


まず、私はなんで死んだ?


1人間ドックても見つからない新型ウイルス。


2薬の投与ミスもしくは希釈ミス。


3天命


可能性としては2かな?


思索にふけっていると…


ガチャッ


急にドアが開いて30くらいの女性が部屋に入ってきた。灰色のつややかな髪の毛に、穏やかそうな印象を与える垂れ目。服は少し古ぼけたワンピースのようなものを着ている。この女性誰?ノックくらいしてくれない?


「どう?体調は」


「だ、大丈夫だよ…?」

しかもやけに馴れ馴れしい。初対面なのに。

それに、何故かは分からないが私は彼女の話す言葉を理解できたし、話すこともできた。明らかに私のいた世界で話していた言葉と違うのに。


「そう。そろそろ夕飯だけど、食べれる?」


「う、うん」


「そう、なら下に降りてきて。無理はしないようにね。」

そう言って先にドアから出ていった。

ほんとに誰この人?

深く考えても答えが出ないとりあえず言われた通り下に行って見るか。


女性が出ていったドアを開けると、廊下に出た。私の出てきたドアが廊下の最奥だったようだ。廊下の先には階段があり、そこまでに左右にいくつか部屋がある。


 廊下を足早に進んで少し急な階段に怯えつつ下に降りてみると、食事の乗ったテーブルが目に入ってきた。

 どうやら一階はリビングと台所があるようだ。女性が料理をテーブルに並べている。

 リビングを見ると、女性と同じような年齢の引き締まった身体をした男性が見えた。茶色の髪の毛と優しそうな雰囲気。この男性と女性はカップルかな?


 そんな事を考えていると食事の準備が終わったのか女性が声をかけてくる。


「ご飯にしましょう」

少し戸惑っていると男性が、


「ほら、食べるからこっちおいで」

と言いながら私を持ち上げて3つあった席の一つに座らせる。

これで確信した。私この人たちの子供だ。


「じゃあ、食べましょう」


パンとよくわからない野菜とスープがある。

とりあえず適当に食べていると、


「お仕事おつかれ様。兵士はこんな遅くまでたいへんね」


「そんなことないさ、みんなを守る兵士になれて僕はほこらしいよ。」

はにかみながら言う。


どうでもいいけど野菜がなんかうめーおかわりしようか悩んでいると、


「なぁリー、風邪は大丈夫か?」

私の顔を覗き込みながら男性が言った。私はリーと言うのか。それと私風邪引いてたっけや?

「大丈夫だよ」

できるだけ純粋な笑顔言う。


「そっか、無理はしないようにね。」

心配するような目でこちらを見てくる。優しい親だなぁ。


「あなた、今日も魔物が出たんですって? 最近物騒だからしっかり気をつけてね。」

魔物!?へー魔物ねぇ。ファンタジーだねぇ。魔法とかもあるのかな?


「大丈夫だよ、僕が治癒魔法が得意なのしってるだろ?前線にはほとんど出ないし、剣も不得意なわけじゃないからいざとなったら守ってあげるよ。」

 すっごい爽やかな笑顔で言い切る親に、冷ややかな視線を向けつつ魔法があることに驚く。

 

 今世は楽しそうだな。新しい刺激的な世界に期待していまう自分がいる。


「もう、あなたったら。愛してるわよ」

 子供の前でいちゃつかないでほしいな。反応に困る。


「僕もだよ」

幸せそうで何より。


「そうだ リー、そろそろ剣の練習をしていこうか。前から言っていたように明日魔法の習得に行くことになるから、それを習得したら同時進行で練習していきたいんだ。あと3年くらいで学校だから、準備を少しずつ初めていこう」

なんか興味ある単語が出てきた。少し興味がある。


「学校?」


「あぁ、勉強とか、生活の仕方を学ぶところだよ。9歳になったら入れるんだ。父さんと母さんと離れて暮らすことになるけどね。」

へー、教育機関とは進んでるね。


「剣の練習とか魔法の習得ってどうやるの?」


「剣は父さんが教えるよ。魔法は、僕たちクラン家は東の教会で習得するんだ。詳しい魔法の使い方は学校で習うから楽しみにしててね」


クラン家か、なら私はクラン・リーという名前なのかな?それに魔法の習得か、前世では出来なかったことだ。少しだけ、待ち遠しいな。



今世はもっと、楽しめるかな?


◇◇◇◇


今日の息子は少しいつもより落ち着いているように見える。いつもなら魔物が出たら、お父さん頑張って!とか言ってくれるのに。

少しむくれつつ、これからの予定について話してやると驚いたような、ワクワクしているような顔を向けてきた。


僕も学校に通っていた。たくさんの友人と出会いに恵まれた。息子にとっても、そうであるといいな。





―――学校について詳しく話をしてやると、息子は凄く笑顔を浮かべながら待ち遠しそうな顔をした。やっぱり楽しみだよね。入学前に剣をやっておくと入ってから授業でやるときに楽になるから教えつつ、息子と数年会えなくなる前に思い出を残したいなと思った。


今日も平和な我が家は、僕の宝物だ。

優しい嫁と可愛い息子の笑顔で、また頑張ろうと思った。


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