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ヒューマンコード  作者: エイジ


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第41章 残された意志

夜明け前。


空はまだ暗く、街は静まり返っていた。


セラ、カイ、アヤの三人は、廃ビル群の裏路地を進んでいた。


足音を殺しながら。


息を整えながら。


言葉は、ほとんどなかった。


やがて——


セラが立ち止まる。


「……ここ」


目の前には、何の変哲もない壁。


セラは手を伸ばし、特定の位置に触れる。


微かな振動。


壁の一部が、音もなくスライドする。


隠し扉。


三人は中へ滑り込む。


暗い通路。


奥へ進む。


やがて、小さなパネル。


セラが手のひらをかざす。


沈黙。


数秒。


「……セラ?」


低い声が響く。


セラが短く答える。


「そう、セラよ。開けて」


一瞬の間。


「……は?」


戸惑い。


「冗談だろ……」


「開けて。時間がない」


再び沈黙。


そして——


ロック解除音。


扉が開く。


そこに立っていたのは、男。


副リーダー、エドだった。


目を見開く。


「……どうしたんですか。

 事前連絡もなく……」


視線が三人を走る。


汚れ。


傷。


血。


状況を一瞬で察する。


「……とりあえず入ってください」


それ以上は聞かなかった。


三人を中へ通す。


オペレーションルーム。


東部拠点は、無事だった。


静かだった。


あまりにも——


さっきまでの地獄が、嘘のように。


エドが振り返る。


「説明してもらえますか?何があったんですか」


カイが一歩前に出る。


喉が詰まる。


それでも、話す。


「……南部拠点と北部拠点が、同時に攻撃されました」


空気が止まる。


エドの表情が固まる。


「……は?誰に?」


信じられない、という顔だった。


アヤが続ける。


「処理班の奇襲です。完全に位置を把握されてました」


エドの目が細くなる。


「……そんなはずは——」


言いかけて、止まる。


ありえない。


だが、目の前に“結果”がある。


カイの声が震える。


「サガラさんが……退路を確保して……」


拳を握る。


「処理班を道連れに……」


沈黙。


「レオンさんも……僕たちを逃がすために……」


それ以上、言葉が出ない。


アヤが静かに引き取る。


「ルキとナッシュは拘束されました」


完全な沈黙。


誰も動かない。


そのとき——


扉が開く。


「エド、どうしたの?」


軽い声。


だが、部屋に入った瞬間、止まる。


ティアナだった。


状況を一瞬で読み取る。


「……何があったの」


エドが今聞いた事実を冷静に伝える。


ティアナの目が、大きく揺れる。


「……まさか……そんな……」


あまりのショックに言葉が続かない。


カイがポケットからデバイスを取り出す。


「これを……」


手のひらに乗せる。


「《ノア》のロック解除キーです」


ティアナの目が鋭くなる。


「……ルキから?」


「そうです」


一瞬。


空気が変わる。


ティアナが一歩近づく。


「他には?」


間髪入れずに聞く。


「データ。退避してた?」


カイが顔を上げる。


「ええ……」


記憶を辿る。


「拠点から逃げる前に……二人とも、作業してて……」


「終わったって……言ってました」


ティアナが頷く。


「やっぱり」


すぐに端末へ向かう。


高速で操作。


複数のレイヤーを飛び越える。


アクセス。


認証画面。


パスワード入力。


一瞬の間。


——認証成功。


画面が開く。


データ。


ログ。


バックアップ。


すべてが残っていた。


「……ビンゴ」


ティアナが小さく呟く。


その中に、一つのテキストファイル。


日付は、攻撃直前。


開く。


短い一文。


「あとは頼んだぜ!ティアナ!

 頼りにならない二人の兄貴より」


沈黙。


ティアナは何も言わなかった。


ただ、その画面を見ていた。


エドも言葉を失っている。


カイは、ただ立ち尽くす。


アヤは目を閉じた。


そして——


ティアナがゆっくり息を吐く。


「……ほんと、バカね」


だがその声は、わずかに震えていた。


次の瞬間、顔を上げる。


完全に切り替わっていた。


「でも——」


端末を叩く。


データを展開する。


「これで、まだ終わらせずに済むかもしれない」


視線が全員に向く。


「《ノア》にアクセスはできるわ」


その一言で——


空気が変わった。


完全に。


絶望だけで支配されていた部屋に、

初めて希望が生まれた。


終わりではない。


ここからだ。


カイはキーを握る。


強く。


確かに。


まだ、終わっていない。


終わらせない。

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