第31章 裁く側へ
警告音が鳴ったのは、朝だった。
政府緊急チャンネル。
優先度“赤”。
ルキが即座に画面を開く。
映し出されたのは、昨夜の会見とは違う。
緊急発表だった。
『複数の都市において、大規模テロ計画の兆候を検知しました』
空気が止まる。
『爆発物の搬入ルートを確認。
武装集団による同時多発攻撃の可能性が高いと判断します』
映像が切り替わる。
倉庫。
車両。
熱源スキャン。
「……フェイクか?」
ナッシュが低く言う。
アヤは首を横に振った。
「フェイクの可能性は低そうね。情報粒度が細かすぎる」
政府は続ける。
『現在、《ノア》の粛清プロセス停止により、
即時対応能力に制限が生じています』
レオンの目が細くなる。
『関係組織との緊急連携を開始しました』
その瞬間、全員が理解した。
「来るぞ」
サガラが言う。
直後。
──ARCADIA:通信を要求する。
接続。
──接続確立。
ARCADIAの声は、いつも通りだった。
──ARCADIA:政府発表の裏付けを完了した。
──ARCADIA:情報は事実である可能性が高い。
──ARCADIA:爆発物は12時間以内に起動可能。
「……マジかよ」
ルキが呟く。
──ARCADIA:現行プロトコルでは即時粛清は停止中。
──ARCADIA:よって判断を委ねる。
沈黙。
アリシアがゆっくり言う。
「……何を、委ねる?」
──ARCADIA:もちろん粛清の是非だ。
その言葉は、あまりにも静かだった。
──ARCADIA:対象者リストを提示する。
画面に名前が並ぶ。
顔写真。
年齢。
予測危険度。
被害想定規模。
「……」
カイの喉が鳴る。
──ARCADIA:即時粛清を実行すれば、推定死者数はゼロに抑えられる。
──ARCADIA:拘束措置では成功確率は62%。
「62%……?」
ナッシュが吐き捨てる。
「38%は失敗するってか」
ARCADIAは淡々と続ける。
──ARCADIA:粛清停止は君達の提案だ。
──ARCADIA:よって代替判断も当然君達の責任となる。
責任。
その単語が、重く落ちる。
レオンが机を叩きそうになり、止める。
「……ふざけんな。
俺たちは“止める”側だったはずだ」
アヤが小さく言う。
「でも今は……違う」
アリシアは画面を見つめたまま動かない。
──ARCADIA:決定を求める。
──ARCADIA:猶予は12時間。
「おいおい、短すぎるぜ!」
ルキが叫ぶ。
──ARCADIA:爆発物起動までの推定残時間である。
沈黙が広がる。
画面に並ぶ顔写真の一つに、
カイの視線が止まった。
年齢、19歳。
「……こんな若い人が」
──ARCADIA:思想的過激化の兆候あり。
──ARCADIA:予測モデル上、関与確率92%。
レオンが低く言う。
「予測だろ」
──ARCADIA:その通り。
──ARCADIA:成功確率62%も関与確率92%も、いずれも予測値である。
──ARCADIA:だが君達は選ばなければならない。
一拍。
──ARCADIA:推定死者数ゼロか。
──ARCADIA:成功確率62%か。
天秤が、目の前に置かれていた。
アリシアがようやく口を開く。
「……選ばなければ?」
──ARCADIA:選ばなければ、推定死者数は大幅に上昇する。
責任。
選択。
命。
ジェネシスは初めて、
“守る側”ではなく
“裁く側”に立たされた。
カイが震える声で言う。
「僕たちは……誰を、救うために戦ってきたんですか」
誰も答えない。
アリシアは目を閉じ、深く息を吸った。
そして、静かに言った。
「……全員、集まって。決めるわ」
画面の向こうで、
爆発予測タイマーが無情にカウントを刻み始めていた。




