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俺達は魔王再討伐をやる気はない。  作者: 紅梅 鮭卓郎
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馬鹿に、しやがって……

 今日の予定は新居に荷物を置いた後、お隣さんへの挨拶と家具と私の私物の買い出しとなっており、馬車乗り場を出ると早速新居への道を歩く。

 リゲールタウンはヨーロッパあたりを想像させられる街だ。石畳の道にまるで物語に出てくるようなカラフルな木製住宅が並んでいて、メルヘンチックな世界観をもらたしてる。

 凄、エッフェル塔とかありそうだ。ここで暮らすのが信じられねえ。日本じゃなかなか見ない光景に興奮して、キョロキョロと彼方此方を興味津々に見てしまう。

 道行く人は髪色や瞳の色がカラフルでアニメみたいだ。マリンさんとタクトさんも変わった色してたけどこの世界ではそういうのが普通なんだな。あっ金髪碧眼ツインテール美少女、美少女オタクなら誰もが通る道、好き。あそこにいるのは、ピンク髪に緑の瞳のポニーテール美少女、ニチアサの魔法少女アニメの主人公じゃないか、好き。そして今すれ違ったの茶髪に茶色の瞳のロング美少女、生で見るとより正統派ヒロインすぎる、好き。軽率に好きが飛び回ってしまうのも仕方ない。この世界謎に美形が多いのだ。私はもしかしたら何かのアニメの世界に転移してきたのかもしれないというぐらいには美少女が多い。男も美形が多い気もするが興味がないのでスルーだ。


「カナメ、観光は良いけどはぐれないようにしてね」

「そうだな、手でも繋いでおくか?」

「そっ……そんなに子供っぽかったですか?」


 揶揄いゼロのトーンで二人からそう言われ、タクトさんには手を差し伸ばされた。

 はしゃぎすぎたかもしれん。恥ずい……。

 そうだった。この人達はこういった光景は見慣れているわけで、そんな二人から見たら私は一人物珍しそうに辺りを見回していて目が離せない奴に見えるのも無理はない。

 …………え、待ってあの人ケモミミ、リアル獣人! めちゃくそきゃわいい……萌えの象徴が目の前にいるだなんて……やばい、あまりの感動に涙出そう。


「子供っぽいっていうか子供でしょ」

「ぐす、た、大して歳変わらないでしょうに」

「急に泣き出してどうしたんだ」

「いや、尊すぎて……無視して下さい」


 スッと差し出されたハンカチを目元に当てながらケモミミ様への感謝を告げる為心の中で手を合わせる。この世界来て良かったかも、一生住む。リアルのケモミミ美少女をタダで拝むことができるなら私の墓場からここでいい。

 涙が引いて冷静になってくると、先程のマリンさんの発言に苛立ちを覚えてきた。子供って何だ子供って……貴方と三歳差ですけど。学校の先輩後輩ぐらいの差じゃないか。

 マリンさんはムッとしている私の様子を不思議に思ったのか、首を傾げた。

 

「あれ、カナメっていくつ?」

「十七歳ですが、後一ヶ月程で十八になります」


 先日マリンさんからこの世界のことについての常識をある程度教わったのだが、驚く事に、この世界も一年は十二ヶ月三百六十五日構成(この世界は地球じゃないのに閏年もあるらしい)らしい。とある神様が決めたのだと。その上、私がこの世界に異世界転移したのは十二月二日、日本にいたときと同じ日だったのだ。

 つまり、私の誕生日は変わらず後一ヶ月ぐらいで来ると判明したのだ。ほぼ成人だと言っても過言じゃないだろう。

 それなのにこの二人ときたらピシャーン! と雷が落ちたかのようにズリッと荷物が肩から落ちる勢いで衝撃を受けたリアクションを取るのだ。何と失礼な。

 

「……何、二人揃ってアホヅラしてるんですか」

「……十四あたりだと思ってた」

「俺もだ……」

「いや失礼! せめて探偵のタクトさんは外さないで下さいよ!」

「そう言われても、十七だと証明出来る証拠をカナメ君から探し出すのは難題だぞ」

「そっっっっっこまでチビじゃ無いぃんですけど⁉︎」


 クッソ、馬鹿にしやがって…………うるせえ、これからあと五センチ伸びて百六十センチの女になるんだよ‼︎

 それとも中学生に見間違えてしまう程の童顔に見えてるのか? チビの自覚はあるが童顔では無い筈なんだけど。そりゃ、老けてるよりマシだけど大学生手前でそれはショックというか何というか……。


「そういうタクトさんはいくつなんですか!」

「マリン君と同じ二十歳だ」

「二人ともたったの()()()じゃないですか!」

「ご、ごめんって……」

「相棒に免じて許してくれ」

「全く……」


 私の迫力に圧倒された二人は緩い謝罪をすると私が持っていたボストンバッグをマリンさんが持って、タクトさんは私の右手を取った。ご機嫌取りのやり方があからさまで二個上の男二人が怒られて反省してる子供に見えた。本当に子供なら可愛いが相手はほぼ歳の変わらない成人男性。可愛くない。

 キレ散らかしたけどそこまで本気というわけでも無いのだが…………なんでタクトさんは私の手を取った? やっぱりまだガキ扱いか?


「何で手を握ってきたんですか、迷子防止ですか」

「何、レディのエスコートさ」

「カッコよく言い直しただけですよね。エスコートって護衛でしょう。言い換えればただの迷子防止じゃないですか」

「タクト、カナメってアンタの顔にやられないタイプだよ。諦めな」

「えっ、顔で釣ろうとしたんですか」

「……それはシークレットだぞマリン君」

「ちょっと」


 おい、今日から同居人だぞ。何ご機嫌取りに色仕掛けしてんだ。前言撤回、タクトさんは子供じゃない。子供っぽいナニカだ。

 ま、私は美少女にしか釣られませんので何の効果も得られませんけどね。美少女になって出直して来い、この男前が。くそ……女の子からモテるんだろうなぁその美貌。それも自覚済みときた。女の子の大好きなやつじゃないか。性格が残念な分鑑賞用とやらなのだろうが…………体ごと交換してくれないかな? その顔でハーレム作りたい。


「まあまあ、後で好きなもの沢山買ってやるから許してくれ」

「しょーっがないですねー! 今回だけですよ?」

「タクト、絶対にカナメの手離さないでよ。チョロすぎて駄目だ」

「変な壺とか買ったり、変な契約とか来ても俺逹の了承を得ずに勝手にかわすんじゃないぞ……聞いてるかねカナメ君?」


 好きなものか、何買ってもらおう。タクトさん金持ちだし、高いものを沢山頼もうかな。

 ヒモにはならんとは言ったが、今回は相手から金を差し出してきたのだ。ただ私はそれをありがたく受け取らせて頂くだけ、遠慮なんて失礼だからな。うんうん、相手の気持ちを汲み取ってやらないと。私は大人なんだから……。

 

「待って…………なんか人に、見られてない?」

「へっ? そうですか?」


 怒りに夢中になっていたせいで周りを気にしていなかったが、確かに他人に目を向けると、チラチラと此方を見てきている。

 しかしジーッといつまでも見られているわけでもなく、追いかけてくるわけでもない。ただちょっと視線を感じるぐらいだ。

 マリンさんは勇者のこととかの詳細を知ってる人間はこの街にはいないとは言ってたけど、やっぱり世界を救うなんてたいそうな事をしているわけだしバレてしまっているんじゃないか……?

 ヒヤ……と背筋が凍るような思いをして隣のタクトさんを見るが、彼は至って普通に私の手を引いていた。


「ああ大丈夫さ、バレてない」

「ば、バレてないんですか?」

「耳を澄ませるんだ。我が助手よ」

「耳を……」


 タクトさんの言う通り、聴覚に集中して周りの音を聞いてみると先ほどすれ違ったであろう美女二人の会話が聞こえてきた。


「ねえねえ、さっきすれ違った人超イケメン! どうしよう……ナンパ、しちゃおうかな?」

「でも女の子二人はべらしてたよ。その一人は超絶美少女だし勝ち目ないって……」

「うっ……そうよね。せめてあの黒髪の子だけだったらまだ勝ち目あったのに」


 あらやだ失礼な娘ねぇ。そりゃあ顔面偏差値カンストに挟まれてるしアタシの顔が平凡顔なんてわかってるけど失礼だわぁん。ここで豆知識、イケメンフィルターかかって見えてないかもしれないけどこの人の荷物全部ショッキングピンクなのよ? やめておきなさいそんなオトコ。

 でも美人二人組に罵られたという事実を噛み締めていくと心の内側から段々と気持ち良くなってくる。もっと煽ってくれても良かったかもしれない……。

 先程の女性二人組の次に男性二人組とすれ違ったが、そのときにはマリンさんの容姿を褒め称えていた。曰く、「隣に普通顔の女の子いるからか余計際立って可愛かったな!」らしい。男は遠慮なくぶっ潰す。イケメンだったけどイケメンには興味が無いんだよ。一生モテない顔にしてやる。


「気にするな、カナメ君は顔以外に良さはあるはずさ」

「薄っぺらい言葉ありがとうございますっ! とぉ……別に、気にしてませんから」

「気にしてるじゃないか」

「うっわダメージゼロですか腹立たしい」


 両手どちらも握力十七のこの私の全力を込めた肘付きにびくともしないなんて、一体何者だ? …………いやこの人賢者だった。ただのミステリオタクじゃないんだ。そんなんが相手だったら握力十七女(ザコ)は負ける。

 私とタクトさんが戯れている間にマリンさんも状況を把握したのだろう。若干肩の力が抜けたように見えたが、声が震えていた。


「そっか……バレてないのか」

「……マリン君。君は、家で休んでくれ。挨拶とカナメ君と買い出しは俺に任せろ」

「でも……いや、任せた…………ごめんねカナメ。僕が誘ったのに」

「いえ、体調優先です。ゆっくり休んで下さい」

「タクトも、ありがと」


 そう言うマリンさんの顔色はかなり悪くなっており心配だ。そんな状態で私のことなんか気にかけないでもっと自分を優先してほしい。そういうところは彼の性なのだろう。突然自分のテリトリーに入り込んできた見知らぬ人間を放っておく事もできないような人だもんな……。

 そんな人だというのにこんなにも他人が駄目になるなんて……勇者という肩書きは相当なトラウマモノだったのだろう。

 遠慮するマリンさんから強引にボストンバッグを奪った。元々この中にはマリンさんの私物しか入ってないが、さっきまで私が持っていたものでもある。たったの数キロだとしても負担は減らしてあげたい。


「気にするな、君は悪くない。そうだな、少し急ごうか」

「はい」


 タクトさんの言う通りに歩く速度を少し上げて街中を進んでいったその先に大きい家があった。越す前に写真で見せてもらったものと同じだ。ここが新居だろう。

 歴史とかで見る豪邸に比べたら断然小さいが、三人で住むにしても部屋が余りそうなほどでかい。流石は金持ちが購入した家、ローンは組まなかったらしい。

 家の左側はパン屋さんで右側は喫茶店らしい。パンの良い香りがして涎が垂れてきそうになる。

 タクトさんがドアを開けると新築独特の建材などの素材そのものの匂いがした。

 一言で表すなら金持ちの友達の家……って感じだな、すごい広い。

 ドサリと荷物を全て床に置くと、肩が一気に軽くなって背伸びをする。

 あーっ、肩が解放された。こういうとき引っ越しトラックがない世界って不便だな。全部手持ちはキツい。凝縮魔法がある分、負担は少ないがそれでも重いものは重い。


「よし、それじゃあ両隣の二軒に挨拶しに行って、その後買い出しに行くか。マリン君は留守番を頼む」

「ん、わかった。気を付けてね」

「お大事にして下さいね。いってきます」

「ありがと、いってらっしゃい」


 ニコ、と微笑んで手を振ったマリンさんに手を振り返し、タクトさんと一緒に挨拶の為の塩と砂糖の袋を二セットずつ持って家を後にした。

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