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03-32

「さて、マスターが一人の少女の夢を粉々に打ち砕いたところで……」


「今の俺のせいか? 俺は事実を教えただけのはずなんだが」


「事実が常に優しいものとは限らないと言うことです」


 アイにそう言い切られてマインは不服そうにしながらも、それ以上の抵抗を止める。

 納得したというわけではないのだが、これ以上アイと言い合いをしようとするとどこかで致命的なダメージを自分の方が負いかねないかもしれない、という危険性に気付いたからで、ここは沈黙こそが正解だと考えたからだ。

 その辺りのことはアイもなんとなく悟っていることで、ことさら勝ち誇るような真似はせず、がっくりと項垂れているリドルを慰めるように背中を軽く叩いてやりながら、視線は違った方向へと向けている。


「マスター、そろそろ作業が終わるのでは?」


「そうかもしれない」


 キメラを創るために予め組み立てられている術式のいくつかを組み合わせ、そこに詳細な情報を入力してやれば術式は決められた通りの処理を素材に対して行ってくれる。

 もっともこの予め組み立てられている術式というものを用意しておくのにかなりの手間がかかっているのと、必要な術式を必要な分だけきちんとした順序を立てて組み合わせるという作業が魔術師としての腕の見せ所であるのだが、この場においてはそれを説明する相手がマインにはいない。

 アイは理解しているものの、マインならば出来て当然というくらいの認識しかしていないし、リドルに至ってはまず何がすごいのかということを理解していないので、そこからせっせと説明するほど時間が余りまくっているわけでもなかった。


「マスター、なんとなくその……エルフをモデルにした割には筋肉質で大柄じゃありませんかこれ?」


 術式の力を受けて形を変えていく肉塊が、なんとなくどんな形になろうとしているのか見え始めて来ており、アイがそんな感想を口にする。

 マインとしてはなるべくエルフに似せたい所ではあったのだが、素材の量が多すぎて中々思うような造形にならなかったという事情があった。

 エルフに似せておきたかったというのは、見た目がエルフそのものであれば誰の前に出してもこれはエルフだろうと思われるので、疑われたり不要な説明を求められたりする手間が省けるからだ。

 素材の量とプロポーション的にエルフに似せることが無理だと分かった時点で、ダークエルフにしてしまおうという考えもちらとあったのだが、ダークエルフは他の種族からあまりよく思われていない種族であり、これを連れて歩いていると不要なトラブルなどを発生させそうな気がしたので、断念している。


「エルフに似せるのが無理だから、モデルは変えた」


「人族に似せたのですか」


「あぁ。人族なら多少大柄で筋肉質で胸と尻がでかくても、おかしいなと思う奴はいないだろ」


 とても面倒な作業だったのだが、とマインは心中で溜息を吐く。

 何せ耳一つとってみても、人族の形に整えるにはエルフっぽくするのよりもかなり手間がかかってしまうのだ。

 何せエルフの耳は短剣の刃の様と形容されるように長く鋭く尖っている。

 もう一つの素材である悪魔の方にはそもそも耳らしき器官が存在していなかった。

 つまり、素材となった二つの材料のどちらにも人族の丸い耳の属性が存在しておらず、本来ならばキメラというものを創る場合、人族の耳をつけることはできない。

 蛇と虎と猿を材料にキメラを作ったのに、急に首だけ山羊にすることはできないのだ。

 この場合、一から山羊の首を作成するための作業が必要となり、マインもまた人族の耳を創るために入れなくてもいい術式をいくつか組み込みなおす羽目になり、その分だけ作業量が増えて術式の制御が難しくなってしまっている。

 そうこうしている間にも肉塊は人の形へとその姿を変えていき、すらりと手足が伸び、腹筋が六つに割れた胴体が出来上がり、ちょっと手に収まりきらないのではないかというくらいのボリュームを持った女性の胸と臀部が出来上がり、ややがっちりした首筋とそこに乗る鋭いと言う形容がぴったりな顔立ちの頭が出来て最後にさらりと金糸のような長い髪が背中から腰の辺りまで伸びた。


「ワイルド系の美女ですね」


「美女なのはマインの趣味?」


「何もわざわざ醜い容貌にする必要はないと思うんだが……美女なのはエルフが元になっているからで、俺が創ったわけじゃない」


 三人がそんなことを言っている前で、全身がしっかりと出来上がった長身で少し粗野な印象を受ける美女がその鋭い双眸でマイン達を睨むように見る。


「マスター、ちゃんと服従する制約はつけてますかこれ?」


「毎度のことだが、俺はそういうのは嫌いだ」


「暴れだしたらどうするつもりなんですか……」


 通常のホムンクルスやキメラには作成者に対して絶対に服従するような機能を予め仕込んでおくものであった。

 そうしないと、出来上がった創造物が創造主に対して攻撃を仕掛けてきたりすることがあるからなのだが、マインは自分の創造物に対して術式で行動を制限することがあまり好きではなく、よっぽど危険なものでない限りはこの手のセーフティをかけないことにしている。


「まぁ暴れるようなら誰が主人か分かるまで、体に教え込むだけだし」


 少しだけ声に殺気を込めて、マインが口の端で笑いながらちらと生まれたばかりのキメラを見ると、その視線を受けたキメラは顔中からだらだらと冷や汗を流したかと思うと、その場にそっと土下座したのである。


「全裸で筋肉質な金髪女性の土下座……」


「俺が要求したわけじゃない」


 咎めるようなアイの視線にそんな言い訳をしながらマインはそれまで抱えていたリドルをそっと地面へ下ろす。

 瘴気の発生源であった悪魔がキメラ化したことで完全に周囲から瘴気の害が取り除かれたからであり、ようやく解放されたリドルは首やら肩を回しながらマインが解放してくれたということは危険は去ったのだろうとほっと息をついた。


「とりあえず、着せる服とかあるのこの子?」


「アイ、お前ならいろんなサイズのメイド服、インベントリに入ってるだろ」


「よくご存じで。確かにこんなこともあろうかと常に妖精族サイズから巨人サイズまで取り揃えております」


 サイクロプスやジャイアント、或いはトロールと言った巨人と呼ばれる種族にも確かに男女の区別はあるものの、さすがにマインも巨人族の女性にメイド服を着せようとは考えない。

 それらは全て、アイの考えにより用意されたものであり、マインとしては無関係を主張するところなのだが、今はその備えがありがたかった。

 いくらキメラだと分かっていても、全裸の女性をそのままにして森の案内をしろと命じることにはマインも抵抗を覚える。


「じゃあちょっと着せてやっててくれるか? 俺はその間に……」


 マインの視線が森の中へと向けられる。

 そちらには誰もおらず木々の他には何も見えず、リドルなどは何が見えているのだろうと首を傾げてしまうのだが、マインには何かが見えているらしい。


「ちょっと相手をする必要がある奴がいるようだ」


 マインのその言葉が聞こえたから、というわけでもないのだろうが意識を向けられているということには気が付いたのだろう。

 木々の向こうから流れてくる空気が、それまでの湿った森の空気から一転し冷たく肌を刺すようなものに変わったことを、リドルは感じ取ったのであった。

現在、毎日更新継続中。

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