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03-31

 エルフの死体を上の乗せられた肉塊の反応はとても速く、肉塊から生じた触手がすぐにエルフの死体へと巻き付き、自らの内側へとそれを引きずり込んでいく。

 おそらくそれは、マインの剥ぎ取りによって奪われた自らの体を補い、かつ死体に残っている魔力を吸収することによって少しでも元の状態へと戻ろうとする肉塊の本能に基づいた行動だったのだろう。

 悪魔にとってエルフは生命力に満ち、魔力にあふれた絶好のエサであり、瀕死状態でそれを与えられてしまえば罠の可能性も考えずに食いついてしまう。

 それが悪魔にとって命とりとなった。


「余程危ない状態だったのかな? 何も考えずに食いついてくれて非常に助かるからいいんだが」


 そもそも物を考える頭がどこかへ行ってしまっているのだから、エサを与えられたと思えば疑いもなく、反射的に食いついてくるのかなとマインは複数の触手に絡みつかれて肉塊の中へと消えていくエルフの死体を見ながら思う。

 当たり前のことではあるのだが、マインは悪魔にエルフを与えてその力を取り戻させようとしたわけではない。


「術式起動」


 エルフの死体が肉塊に飲まれ、完全に見えなくなった時点でマインがぽつりと呟いた。

 途端に肉塊の表面が激しく波打ち始める。

 赤黒い血でぬめっている肉塊が、体内に死体を取り込んだことで激しく動き出したことは、まるで毒を飲み込んでのたうち回る様を見させられているかのようであった。

 実際、マインは呑み込ませたエルフの死体に、とある術式を忍ばせており、そうとは知らずに無警戒にそれを肉塊は取り込んだ。

 無理やり押し付けたわけではなく、自ら進んで取り込んでしまったその術式は肉塊の内部で展開され、その機能は速やかにマインの支配下に入る。

 肉塊は自らの自由が奪われてしまったことに気が付き、これに強く抵抗しようとしたのだが、体内で十全に展開してしまった術式に抗し切ることはできず、体の支配権をマインへと明け渡してしまう。


「よし、把握した」


 悪魔に頭部が残っていたのならば、こんな不用意なことはしなかったのであろうが、ただの肉塊となってしまった状態でそれを望むのは、流石に酷なのだろうなと思いつつマインは肉塊の内側に展開した術式を操作。

 それは肉塊の動きを封じると同時に、キメラを作り出すための術式である。

 本来ならばキメラを作り出す際には、素材を切ったり貼ったり混ぜ合わせたりと色々な処理が必要となるのだが、今回の場合は悪魔の肉塊は既にエルフの体を取り込んで混ざり合っているので、そこから必要となる要素を引き出してやればいい。


「肉がうごめいて……」


「ご主人様。これは無理に見ない方が」


 相変わらずマインに抱えられているリドルは嫌でも肉塊の方を向かされてしまうので、不気味にうごめく肉塊を見ないようにするためにはひたすら地面に視線を落とすか、目を閉じてしまうしかない。

 しかし、ずっと地面の方を見ながら体を揺らされているとなんとなく気分が悪くなってしまうし、目を閉じてしまうと自分の見えていないところでどんな恐ろしいことが起きているのか気になるやら怖いやらで、仕方なくリドルはまだ不気味なものを見せられる方がマシだと割り切っていた。


「まぁほら、すぐ終わるから」


 今回、エルフの能力が欲しいということから創られるキメラであるので、当然とその要素はエルフの方へと傾く。

 つまりはエルフを飲み込ませた肉塊をエルフの形に整えてやれば、自然と悪魔とエルフのキメラになるはずなのだ。


「簡単、簡単」


「マスター……鼻歌交じりにエルフのキメラなんて創ってしまわれるのは、マスターくらいなものですからね」


 呆れるアイを尻目に、まるで粘土細工でもこしらえているかのような気軽さでもってマインは肉塊を人の形に成形していく。

 元々の悪魔はマイン達が見上げるような巨体であったのだが、マインの剥ぎ取り行為によってその体積をかなり減らしており、巨体の大きさにはエルフ一人分を補充したところで全く足りない。

 しかし逆から考えるとエルフ一人分の体積に肉塊分を足したことになるので、そのまま創ってしまったのでは出来上がるキメラはエルフに比べるとかなり大型なものになってしまう。


「筋繊維を圧縮して……骨密度も上げて……まだ余るのか。一部は魔力に変換して持たせておくとしても……これじゃエルフのプロポーションがきちんと再現しきれないな」


「盛ったらいいじゃないですかマスター。乳と尻辺りにたわわな感じで」


「個人的に豊かなプロポーションのエルフって、違和感が強いんだが」


 エルフと対を成す存在としてダークエルフという種族がいる。

 彼らは銀髪と褐色の肌を持つエルフの別系統の種族なのだが、最大の違いは色ではなくそのプロポーションであった。

 つまり、エルフとは反対に胸や腰回りの肉付きが非常に豊かなのだ。

 これは彼らがエルフとたもとを分かってから後、森で暮らすことを止めて草原や荒地で暮らし始めたのが最大の原因であると言われている。

 森に住む以上、どうしても移動を妨げる草花や木立の間を通り抜けて行くには、起伏のほとんどない細身の体こそが最適解なのだ。

 そういう知識を持つからこそ、マインからすると色や見た目はエルフだというのに体つきだけダークエルフのような造りにしてしまうと強烈な違和感を覚えてしまう。


「キメラなのですからいいじゃないですか」


「そうか? だったら背中に羽でも生やしておくか?」


 悪魔の背中には蝙蝠のような羽が生えていた。

 その要素を引き出してやれば、キメラの背中に羽を生やすことなど造作もない。


「その羽で飛べるの?」


 マインに抱えられたままぐったりとしていたリドルの顔にわずかながらに生気が戻る。

 どうやら羽という単語から空が飛べるのではないかという発想に繋がったらしいのだが、マインは少々申し訳なさそうな顔で言った。


「飛べないぞ。元の悪魔もそうだが体の重さに対して羽が小さすぎる」


 人の体を羽で飛ばそうとすると、その大きさは身長の何倍もの大きさのものが必要となる。

 それより体が大きかったあの悪魔を飛ばすには、どれだけ巨大な羽が必要となるのか分かったものではない。


「羽が生えて飛べるエルフって、妖精みたいだなって思ったのに」


「妖精が飛んでるのも羽ばたきのおかげじゃなくて魔術だからな?」


 妖精は人に比べてずっと体の小さな種族ではあるのだが、その背中に生えている羽は彼らがその羽ばたきで飛ぶためにはやはりかなり小さすぎる。

 それでも彼らが飛べるのは、常時<フライ>のような何らかの魔術を行使しているから、というのが最近の魔術師の間では定説となっており、それをマインから教えられたリドルはがっくりと項垂れてしまうのであった。

現在、毎日更新継続中。

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