03-30
「気は進みません。進まないのですが一応マスターの思いつかれたといういい考えというものを一度、お聞かせください」
「そこまで言うなら別に、聞いてもらわなくても俺は構わないんだが」
マインとしては現状を多少なりともいい方向へ進められそうなことを思いついたというだけのことで、どうしても自分の考えを聞いて欲しいというわけではないし、それを実行に移したいというわけでもない。
リドルもアイも聞きたくないと言うのであれば、マインとしては沈黙を保ちつつ多少無理をしてでも何とかして森を抜けて、隣の領地へと至る方法を探す気であった。
「マイン、多少のことは目を瞑るからマインの考えを聞かせてくれる?」
「いや俺は……」
「いーから聞かせて」
言葉をかぶせて来たリドルに少々釈然としないものを感じながらもマインは、現状を打破するのではないか、と思いついた方法というものを二人へ伝えた。
「やはり森の中を案内してもらうに、エルフ以上の適役はいないと思うんだ」
そう話を切り出したマインの言葉に、リドルとアイは特に反対意見を述べるようなことはしなかった。
確かに森という場所に関して、最大の能力を発揮するのはエルフをおいて他にいない。
「でもマイン。エルフは全滅している」
一人でもエルフの生き残りがいたのならば、エルドアとの取引の話を持ち出して多少強引にでも道案内をしてもらうようなことができたはずだった。
しかし、この場にエルフはもういない。
「エルドアの頭が無事だったならなぁ」
「頭……?」
何か不穏な雰囲気を感じて、リドルが眉をひそめたのだが、気にせずマインはリドルを抱えていない右腕で、地面に転がっているエルフ女性の遺体を抱え上げる。
「まぁ同じエルフだ。道は知らなくとも斥候役くらいはやってくれるだろうさ」
「マイン、まさかとは思うけれどリザレクションの魔術が使えるの?」
リザレクションとは第十位階に属する術であるとされているが、魔術とも法術とも分類されておらず、ただ奇跡とだけ言われるものだ。
文字通り、死者蘇生の秘術であり、実際にこれを使用したという記録はどこにもないとされている。
とは言ってもその術の知名度はかなり高く、少しくらい本を読んだり、昔話を聞いたりしたことのあるものならば大概は知っている術でもあった。
「リザレクションなんて術はこの世に存在していないぞ?」
もしやそんな伝説的秘術を、と期待したリドルだったのだが、マインからの返答はにべもないものであった。
「ないの?」
「ない。断言する。死とは絶対にして不可逆な現象だ。生者が死から遠ざかることは可能だけれども、死の境界をまたいでしまった時点で戻ってくることはできない」
「アンデッドは?」
「リドル。アンデッドは生きていない。死んだ状態のまま動いているだけだ」
自我を持つアンデッドというものもいることにはいるのだが、これは自我を持つ精神が死体や霊体に宿っているというだけのことで、状態としては死んでいるのである。
つまり、その状態から生者の側へ戻ってくることはできないということだ。
「じゃあ、それどうするの?」
手足を力なく投げ出した形でマインに抱えられているエルフ女性の遺体を、リドルは指さして尋ねる。
死がマインの言う通りに絶対的なものなのだとすれば、既にその境界を踏み越えてしまっているその遺体は、埋葬してやるくらいしか手の施しようがない。
死者を弔うことはいいことではあるのだが、現状をどうにかすることではないのではないかとリドルは思う。
「これは素材にする」
「素材?」
「そう。いくら頑張ってみたところで、素材もないのにエルフは創れない」
「つくる……?」
「マスターもしや、エルフを素体としたホムンクルスを創られるおつもりですか?」
内緒ではあるものの、自分の素性からアイはそんな推測をしてみせた。
実際、アイが管理している大勢のホムンクルス達の中にはマインが死んだままにしておくのは惜しいと考えて、死体を材料に創られたホムンクルスというものが複数体存在している。
彼らはある程度、生前の技能や知識を使うことができ、個体によってはかなり強力なホムンクルスになったのだが、生き返ったというわけではない。
エルフを材料にホムンクルスを創造すれば、森に対して最適な個体を創造することができるかもしれなかったが、これには問題があった。
「いかにマスターといえど、ここでホムンクルスの創造は無茶ではないかと」
これがある程度、機材の揃った研究室での話であれば、失敗の可能性などアイは毛先程も心配する気はなかった。
しかし今、自分達がいるのは人里離れた森の中で、しかも機材の類など何一つとしてないのだ。
これではいかにマインであったとしても、ホムンクルスを創造することなどできるわけがない。
「惜しいが、ホムンクルスは創らないぞ」
「では一体何を……?」
「キメラを創ろうかと思っている」
キメラとは様々な生き物の部位を繋ぎ合わせて創られるもので、その性能や質はピンからキリまであるのだが、ホムンクルスに比べると作成時に要求される技術や設備はかなり低く、駆け出しクラスの魔術師ですらそこそこのものが作れたりする。
「キメラならまぁ……マスターの技量でしたらこの環境でもそれなりのものが……しかし、何を何とを掛け合わせるおつもりなので?」
「キメラってよくわからないけれど、掛け合わせるっていうなら片方は……そのエルフってことになるんだよね?」
マインはエルフの死体を素体として使うと言っていた。
ならば一つ目の素材はそのエルフの死体であるということは明らかである。
しかし、そうであるならば他の材料は一体何を使うつもりなのか。
「死体からキメラは創れないからな。必ず一つは生きている素体が必要になる」
「それは……」
「ちょうどいいのがあるだろう?」
考えようとしたアイの目の前で、マインは抱えていたエルフの死体を、あろうことかただ震えるだけの肉塊となっていた元々悪魔であったものの上へ無造作にぽんと置いてみせたのであった。
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