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14話

 夕暮れの一騎打ちは人間側の勝利に終わった。

 集団戦の勝敗はけっきょくのところよくわからない。局所的勝利はそこここで収められ、同時に局所的敗北もあちこちで起こったようだ。


 彼は。

 彼とベラの戦いは――



「姉ちゃん、俺、負けたよ」



 ――夜。

 死亡状態から復活し、家に帰った彼は、姉にそう報告した。


 大きなベッドに大の字になって寝転がる。

 見上げる先はドーム状の高い天井。照明器具らしきものは見当たらないが、あたりは適切な光量で満たされていた。


 腕に軽い重み。

 シャツだけの姿になった姉が、彼の腕を枕に、彼の顔をのぞきこんでいた。



「負けちゃったかー」

「うん。負けちゃった」

「死んじゃってたもんね。どう? お姉ちゃん、きちんとこーちゃんのこと復活させてあげられたでしょ?」

「うん。ありがと」

「いいのよ。もっとお姉ちゃんを頼ってね」



 姉が笑う。

 彼はその笑顔を見て、応じるように笑った。



「やっぱりベラさんは、卑怯だったよ」

「そうなの?」

「対決みたいなこと言っておきながら、自爆作戦なんだもの」



 ――赤い矢が間近に迫る刹那。

 彼はたしかに、矢を避け、前に進んだ。


 ベラを守る『盾』を蹴散らし、高台を一気に駆け上り、ベラと向き合い――倒した。

 けれど。

 次の瞬間、ベラの放った矢が地面に接し、猛烈な――今までにないほど猛烈な勢いで爆発し、彼も、『盾』たちも、そしてベラ自身さえ巻きこんで消し飛ばしたのであった。



「……でもアレは予測できない。彼女たちの覚悟に、完全に騙された。まあ、あとから冷静に考えたら、爆発するぐらいは予想できそうなもんだったかな……いやでも、まさか仲間も自分も巻きこむ威力を出してくるとは思えなかったよな、やっぱり、冷静でも……冷静だったら余計に……」

「向こうの方が上手だったんだね」

「うん。まあ――あっちの目的は俺を殺すことだったみたいで、それは達成されちゃったし、試合は引き分け、勝負は敗北って感じ」

「ボロボロだね」

「……たぶん、俺がこの体のこと、まだよくわかってないのがいけないんだと思う。翼もけっきょく使わなかったし……まあ、必死で翼なんか意識してる余裕なかったんだけど……この体はもっとやれることが多い気がするんだ。今後の課題かな」

「大変だったね。よしよし」



 ぽんぽん、と頭がなでられる。

 彼はこそばゆさを感じながら――



「でも、楽しかったよ」

「……そっか」

「なんていうか――俺は狭量だったんだと思う。前の世界の価値観を大事にしすぎて、この世界でやられてることを最初っから『間違いだ』って思ってた気がするんだよ」

「そうなの?」

「うん。死にまくる戦いをみんな許容してるから、命を大事にしてない人たちばっかりなんだと思ってたんだけど――『大事にする』のやり方が、違うだけなんだと思ったんだ」

「ふーん」

「みんな必死で戦ってるのが、今日、戦争に出てみてわかったよ。集団戦も一騎打ちも色々背負って、仲間のためにみんながんばってるんだなって思えたんだ。――大事だと思いながら費やすからこそ意味があるんだっていうことが、わかった気がする」

「……そっか」

「まあ、仲間の勝利を祈りつつも――どちらにお金を賭けるかはまた別のお話、みたいなのがなんとも言えないところだけど」

「そうだねえ」

「でも人間くさくていいよね、そういう『これはこれ、それはそれ』な感じ」

「うん」

「姉ちゃん、俺、この世界のこと、ちょっと好きになったよ」

「……」

「ありがとな、喚んでくれて」

「……うん!」



 姉が抱きついてくる。

 彼は心地よい疲労感に包まれていた。


 ここは異世界。

 常識も倫理も価値観も戦争の形態・様式すべてが異なる異邦であり――

 ――彼がこれから暮らしていく場所。


 そこを少しだけ理解できた気持ちになりながら、彼は意識する間もなく眠りに落ちていった。

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