『悪女系美女とつるぺたロリ娘』
ユラは、ユウゴの事が好きだ。
多分、一目惚れだった。
今も、カウンターの奥で簡単な料理を作っているユウゴは、時折ユラがそこに居る事を確認している。
以前、この店を始めた頃にどうして気にするのかを聞いてみたところ『まぁ、もう癖みたいなもんだな』と返された。
癖。
癖になってしまうほど、ユラとユウゴは共にいるのだという事を実感すると、とてもくすぐったい気分になってしまい、その日は普段飲まないお酒を大量に飲んで、次の日がっつり怒られてしまった。
『君は、呪いが解けたけれど、どうするの?勇者と共に行くのかい?』
あの日、新たな神様が、神官であるユラに問いかけたのは、ユウゴが元居た世界へと転生させられた後だった。
ユラは『勿論』と答えようとして、その世界にまで付いて行って、果たしてユウゴは邪魔に思わないだろうか、今度こそ自由にしてやるべきなのではと、答えに躊躇してしまった。
けれどあの日、ユウゴが自分を助けてくれた日、呪いを半分受け持つと決めた日、その時から自分の想いは変わらない。
日々強くなっていく想いは、最後まで貫かなければ相手にも失礼だろう。
それでも、ユウゴに選択肢を残したかったユラは、神様に転生する姿について相談した。
それを聞いた神様は、とっても面白そうに、その綺麗な顔に満面の笑みを貼り付けて、ユラを転生させたのだった。
「それで、中身ロリ娘なんですね~」
常連客のカナンは、隣でカクテルグラスを傾ける妖しげな美女の過去話に、一人納得した。
「ユウゴさんが珠に、ユラさんの事中身ロリ娘って呼ぶから、ずっと気になってたんですよ~。まさか、昔はつるぺた貧乳のロリっ子って、そりゃこの姿じゃ違和感だらけですよね~」
ふわふわとグラスの中を舞う白い蝶のカクテルを追加注文すると、カナンはそれをまた一息に飲み干し、隣のユラを見ながら、ユウゴに話し掛けた。
「だって、ゆうごに気付いてもらえたら、居ても良いってことかにゃって・・・そう思ったんだみょん」
「おい、ユラ。飲み過ぎだ」
飲み過ぎて、そろそろ語尾がおかしな事になってきている。
この辺りが『中身ロリ娘』の所以かと思っていたのだが、そうじゃなかったのかと、ユラを酔い潰したカナンは、少し心配そうなユウゴを見て『リア充爆ぜろ』と思いつつ、お会計を頼む。
いつ気付いたのか、とか聞きたい事はまだ沢山あったが、きっともうユラはユウゴストップだ。
それに、ユラはいつも店に居るのだし、また次の休みの時にでも酔い潰して聞き出せば良いかと楽しみは取っておくことにした。
「あっ、ユウゴさん。この間言ってた件、よろしくお願いします」
「あぁ。常連にも聞いておく」
玄関ドアを開けて、寒空の下カナンは自分の元恋人を想う。
「あれで付き合ってないって言うんだから、本当に不思議よね~」
百八回も転生を繰り返したら、あんな事になってしまうのだろうか。
まだ異世界に一度しか転生した事のないカナンには、その辺の事情は分からない物だったが、それでもユラの事を友人だと思っているので、あの二人には幸せになって欲しいと思う。
まぁ、暫くはこのネタでユラをからかってやろうと、カナンは笑みを浮かべて帰路に着いたのだった。
ユウゴ的には中身が同じなので、わりとすぐ気付きました。
ユラの最近の悩みは『肩こりがツライ』事だとか。