第22話。友人たちの来店
「いらっしゃいま……あれ?」
「だーかーらー。
お客様にそんな態度取っちゃダメって、前にも言ったでしょ?」
「いや、そうだけど……。え、なんで卓くんが?」
「おう、久しぶりー」
元気? と手を振る友人に、店長・芦澤みのりはカウンターの中で目を丸くする。
立ち尽くす間に、友人二人がカウンターに近づいてきた。
「卓が今日非番だって言うからさ。一緒に遊びに来たの」
「あ、そうなんだ。
いらっしゃい、卓くん。ゆっくりしていってね」
「おう、ありがとな。
それにしてもすげぇ猫いっぱいいるなぁ!」
「猫カフェだもん、当たり前でしょ」
窓際を見た卓也の言葉に、佐枝がバッサリと切る。
「そりゃそうか」と笑う卓也に、佐枝がふぅと息を吐いた。
「みのり、今日のお昼一緒に食べに行かない?」
「え、でも邪魔しちゃ……」
「いいのいいの! ってか昨日愚痴ってた話のこともあるしさ」
あー……、とみのりは困ったように笑ってしまう。
気遣ってくれた友人に「ごめん」と言えば、「大丈夫大丈夫」と言って笑われた。
「とりあえず30分で……私はお茶にしようかな。
卓、飲み物何にする?」
佐枝がそう言って振り返ると、卓也は「んー? コーラで」と生返事をした。屈んだ彼の目の前には朔夜がいる。
卓也が手を伸ばす。朔夜は頭に伸びたその手をかわし、クンクンと指の匂いを嗅いでいた。
「犬も猫もいきなり頭触りにいっちゃダメでしょ、まったく……。
ごめん、みのり。ドリンクはお茶とコーラでお願い」
「はぁい、ありがとう。ゆっくりしてね」
「うん、また後でね」
そう返してくれた佐枝が卓也へと近づいていく。二人が窓際に向かうのを見て、みのりはスタッフルームへと向かった。ドアノブを持とうとしたところで、扉が開く。
ゆかりさんがびっくりしたようにのけぞった。
「……あ、注文ですか?」
「うん、お茶とコーラ。冷えてるのありましたよね?」
「ええ、大丈夫です。出してきますね」
「ごめんなさい! ありがとうございます」
いえいえ、と笑いながらゆかりさんが中に戻っていった。
みのりが戻ってすぐに、ガチャリと扉が開く音がする。両手にペットボトルを持ったゆかりさんが通り過ぎ、二人に届けてくれた。
みのりが頭を下げると、ゆかりさんが笑いながら首を軽く振ってくれる。
窓際にいる友人二人を見ると、卓也が楽しそうにねこじゃらしを振ってちーちゃんを釣っていた。その横で、佐枝が隣にいる朔夜を撫でている。
(……え?!)
今見たものが信じられずに、みのりはおもわず二度見した。だが間違いない、朔夜が佐枝の隣で撫でられている。
(あの朔夜が接客してる……!)
いつも気まぐれで、必要最低限にしか動こうとしない朔夜が!
バチッと痛みが走る。
みのりがハッと我に返ると、いつの間にか自分の手が口元を覆っていることに気がついた。
(そんなに佐枝のこと気に入ってたかしら……?)
……いや、そんな記憶はまったくない。店でも家でも、朔夜はいつも通りのマイペースさだ。佐枝に擦り寄ったのは……と考えて、思い出した。うん、おやつをねだった時ぐらいだ。
じゃあ何故今佐枝の隣にいるのか。
(……もしかして卓くんに人見知りしてる?)
朔夜を引き取ってから、卓也に会わせたことは今までない。
今日初めて会った卓也に警戒してるんだろうか?
(でもなんだかそれにしては様子がおかしいのよね……)
毛を逆立てるでもなく距離を取るでもなく、そしておやつがあるわけでもない。
それなのに朔夜が人の側にいる。そのことが信じられなかった。
「……珍しいですね、さくちゃんがお客さんの側にずっといるのって」
ゆかりさんの声に振り返れば、ゆかりさんも目を丸くしていた。
――なんか、そう言われてしまう朔夜の愛想のなさが、ひどく申し訳なくなった。
「ほ、ホントですよね……!」
(でも猫だし……しょうがない、よね?)
内心言い訳しながらみのりがそう返すと、ゆかりさんがこそっと耳打ちしてきた。
「……ところで佐枝さんの隣にいらっしゃる方って彼氏さんですか?」
「ええ、そうなんです。みんな幼馴染で……」
むぐっと、みのりは口をつぐんだ。
続けそうになった言葉に内心焦るが、ゆかりさんは気づく様子がない。ニコニコと笑いながら「素敵な人ですね」と口にした。
「あ、そうだ。
ゆかりさん、ごめんなさい。私ちょっとお昼出てきますね。もしあれなら……」
「分かりました。じゃあその間お留守番特権使わせてもらいますね」
「はい、ごゆっくりお楽しみください」
そう言って二人でクスクス笑い合う。
「ちなみにゆかりさんはどの子が一番とかあります?」
「そうですねぇ、みんなかわいくて大好きですけど……ふゆきくんかも。
サビ猫ちゃんはやっぱり毛色が独特でキレイですよね」
「そういえばかえでには触れるようになりました?」
「ちょっとずつ、ですけど。餌とかおやつ持ってる時は少しだけ触らせてくれるようになりました」
ホント食いしん坊ですよね、あの子――そう笑いながらこそこそ話していると、トンと目の前に朔夜がやってきた。
フンと鼻を鳴らす姿に「ごめんごめん。さくもかわいいよ」とみのりが声をかけて手を伸ばすと、猫パンチを繰り出された。
パンチされた手を振っていると、二人が立ち上がるのが見える。時間を見ると――ちょうど30分だ。
「じゃあゆかりさん。お店お願いしますね」
「はい、分かりました。いってらっしゃい」
ゆかりさんに見送られながら、会計を終えた二人と一緒に店を出る。三人で外に出た時、卓也がみのりの方を向いた。
「さっきの人が例の人? さすが美人だね」
「ちょっと! 『美人』とかって彼女の前で言う?!
……でもしょーがないか。ゆかりさんホント美人だもんね」
あれで高校生の息子さんがいるとか信じられない。
そう言って肩をすくめる佐枝に頷きながら、みのりたちは駅の方へと歩き出した。




